7 エール用の酵母
それから仕込みを続け、黒い麹のテリーとエール用酵母を使ったお酒のもとを、今回も同じように蒸留した。
ダリウスさんが来てから25日が経っていた。
紅芋の甘い香りが立ち込める。出来上がった液体を舐めると、スッキリと甘い味が感じられた。
「美味いな。最初の頃のより好きだな」
「ですよね!」
ダリウスさんも同じように感じてくれて嬉しい。期限もあるし商品一号はこれでいいかも。
「これは、エール用酵母を使ったんです。私も譲ってもらうことができますか?」
「あぁ、そうだったな。ユスティアス領の酒蔵のものなんだが、商会から手に入れられるように手配しよう。とはいえ増やせるだろう? 最終は使用料の相談でいいと思うぞ」
「オーナーは……」
ユスティアス公爵って夜会のときの! また恩を受けてしまうけれど。
「ユスティアス公爵だな。贔屓は出来ないが、高くはないと思うぞ。今までもよその領地に提供しているし」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「同じものをもう一度作れるか。今回の試作品は少量だが、瓶に詰めて公爵に渡したい」
「もちろん、いい、ですが……」
公爵に渡す? 不思議そうな私の顔を見て、彼は頭をかいた。
「父親なんだ。言ってなかったが」
「えぇー!」
照れたダリウスさんは、いつもより若く見えた。
「ユスティアス公爵夫人には、祝宴の日に大変良くしていただきました。その上、公爵にもお世話になっていたなんて、どれだけお礼を申し上げたらよいか」
「あぁ、あのときの令嬢だったのか。立ち会った執事が感心していたぞ」
「あ、ありがとうございます」
マグヌス様とはしっかり縁を切った。この事業が成功してもラズヴェル候爵家には手を出させない。
「そもそも、なぜ婚約していたんだ。いや、踏み込んだ質問だったな、すまない」
「大丈夫です。ラズヴェル候爵家から婚約を申し込まれて断れなかったんです。私がひとり娘だと言ったら、子供をフィオレット伯爵家の跡取りにすればいいと押し切られて」
「強引だったんだな……」
いたわるような表情に、気まずい気持ちになる。断れない身分が悔しかった。
「今となってはわからないのですが、フィオレット領を狙っていたのではと」
「辺境伯領との通行料とかもあるだろうしな」
「通行料?」
「……そういう領地だったんだな」
なんか呆れられてしまったわ。通行料なんてお互い様だし、どこも取ってないんじゃないの? 他家の収入源など知らなかったし。王都への道は馬車に乗ったままな上に、紅芋や小麦も国に納めるときの通行は無料だった気がするわ。
「主に商売のときに徴収している領地が多いと思う」
「そうなんですね。うちは田舎すぎて、辺境伯領に買い物に行くことが多いですね」
「なるほど……」




