6 無色透明の輝き
最初に仕込んだ紅芋のお酒のもとを、濾して味を見る。酸味と芋の香りがして、そこそこ成功したのがわかった。
ダリウスさんも、一口舐めた。
「ほう、こんな味になるのか。美味しいとは言い難いが、酒の匂いはするな」
「はい。ここから蒸留します」
「蒸留?」
不思議そうなダリウスさんをそのままに、漉したお酒のもとを持って厨房に移動する。蒸留機は火を使うので厨房でやるしかないのだ。
「驚いた。そんなものまで用意してあったのか」
「香水用のものなので小さいですが、試作には問題ないです」
蒸留機を火にかけ、お酒のもとが沸騰すると、先程よりも柔らかい華やかな香りが立ち込めた。蒸留機の流出口よりしずくが垂れる。透明な液体がカップに溜まって、わくわくした。
「これが、しょうちゅうと言うものなのか?」
「はい、これが試作品ですが焼酎です」
「一度に多く出来ないものなんだな……」
「そうですね。飲みやすく水で薄めたりしますけども、それでも多くはないです。どれくらいのアルコール度数なのか飲んでみないとわからないし」
「あるこーる? また新しい言葉が出てきたな」
「お酒の酔う成分みたいな?」
抽出が終わったカップから、別の小さなグラスに少しずつ注ぐ。私とダリウスさんと、そわそわしている料理長。
「無色透明だ……」
香りを確かめながら、ダリウスさんが呟く。私の中で当たり前なものが、新しく珍しいものなのだと再認識した。私も香りを確かめ、口にする。
「香りはいいが、味がないものなんだな。それから、カッとしてすぐに酔いそうだ」
ダリウスさんの感心したような言葉が聞こえる。
ちゃんと焼酎になっている。でも何か物足りない。それでも初めて出来た焼酎の成功に、喜びがこみ上げる。
「甘いとかすっぱいとかないけど、香りのぶんだけ味わいが感じられると思います。少し薄めたほうが柔らかくなって感じやすくなるかも」
「なるほど。これは確かに。たくさん作れたら売れそうだ」
料理長は、驚きながら舐めるように飲んでいた。
「あの蒸した紅芋がこうなるなんて。レイラお嬢様、すごい……」
「私あの黒い麹、テリーも試してみたいんですよね」
「君の名付けのセンスに驚くよ」
「期限はまだあります!」
ダリウスさんは、頷くと微笑んでくれた。
「事業計画書の作成も手伝おう」
「ホントですか」
思わず勢いで手を掴んでしまうのだった。抱きつかなくて良かったと、気がついてそっと握った手を離すと、彼は苦笑いをしていた。令嬢らしさからは、ほど遠い。ちょっと恥ずかしいけど、それが私だ。
「レイラさんは、本当に面白い」
紺色の瞳がどこを見つめているのか、次の桶に向かった私は気づかなかった。




