5 厳しさと優しさ
桶を用意して、蒸した紅芋をいっぱい入れ、成功した芋麹と酵母を加える。
何やかやと料理長も手伝ってくれていて、桶の手配をしてくれたり、紅芋を蒸してくれたりしていた。酵母はパンに使っているものを使ってみた。前世と同じとはいかないけれど、できることをやるだけだ。
「ここから、酒ができるのか?」
「そうです。この発酵はワインなんかと同じはず」
「ああ、ワインやエールは見たことがある」
桶には埃がかぶらないように薄布をかけた。
「部屋はもう一つ用意しなくていいのか」
「え?」
「まだ芋麹とやらを作るんだろう。同じ部屋でいいのか」
「でも……」
ダリウスさんが気になっているところを突いてくる。ただの事務官と思っていたらいけない。
「屋敷の皆が応援してるように見受けられるが」
私はコクリと頷く。確かにみな優しい。令嬢のお遊びと思っているかもしれないけど、何を作り出すのかワクワクしている表情が多くあった。
「期限があるんだ。全力を出しなさい」
「はい!」
私は慌てて、執事のところまで走り、小言を受けながらも客間をもう一つゲットしたのだった。
ダリウスさんは、厳しいけど思いやりがある。その優しさに顔がゆるむのを止められなかった。
発酵には時間がかかる。すでに七日が過ぎていた。芋麹も種類が増えてきた。こっちがエリー、これがマリー、これはトニー。名札を確認する。
「なんという名前なんだ」
ダリウスさんが扉にゆるりともたれながら、呆れた声を出した。
「だって23号とかって味気ないじゃないですか」
「……レイラさんらしくていいと思うよ」
彼は忍び笑いをする。どことなく品のある仕草をする人だ。
今更聞けないけれど、最初に会った日に彼はファーストネームしか名乗らなかった。平民かと思っていたけれど、王宮で働く人が平民なんだろうか。
いや、今はそんなこと関係ないし、個人的な興味を持ってもいけないわ。彼の眼差しが優しくなってきた気がして、焼酎への情熱が伝わっていたらいいなぁと思った。
そして、一度目の仕上げをしようと思う頃だった。ダリウスさんが、包みを差し出してきた。
「レイラさん、懇意にしている酒蔵からエール用の酵母と、ワイン用の酵母を取り寄せてみた。使用料がかかるが試してみるか?」
自分では手に入れられないと思っていたお酒用の酵母。
「ありがとうございます!」
「泣くほどのことなのか。喜んでくれて嬉しいよ。ここまで来たら、成功して税金を収めてもらわないとな」
思わず笑ってしまった。泣き笑いだ。やっぱりダリウスさんは優しい。成功を確信しているかのような言葉が嬉しい。




