4 その賢者は今どこに
「フィオレット嬢、私は無許可での酒造を中止してもらいにきました」
「どうやったら許可がもらえるんですか? 危険なことなどしていません!」
「そもそも……」
諭すような教師のような目線が気になるけれど、今はそれどころじゃない。
「この事業計画書は穴だらけで、何を判断すればいいのかわからない」
「そんなはずは……」
「紅芋から酒が造れるなど聞いたこともない」
「作れます! 麹菌が見つかれば作れるんです」
「こうじきん?」
私は学者じゃないから、この世界での菌の認識も知らないし、説明も出来ない。
「実験室をお見せします」
お手製のマスクを渡し、客室だった実験室に案内した。覆いを一つずつ外しながら説明する。それから冊子と帳簿を渡す。そこには多くの失敗と少しの成功が記録されていた。
「こちらが選別して出来た芋麹です」
「いもこうじ?」
「はい。簡単に言うと紅芋を発酵させてより甘くしているんです」
ダリウスさんの表情が興味に傾いたのがわかった。
「ここからは、酵母を使ってワインのようにお酒にしていくんです」
「君は学者のように話すけれど、どこの知識なんだ」
「私は学者じゃありません。遠い国から来た賢者から聞いたのです」
「遠い国とは? その賢者は今どこに」
「それは……」
やばい! ごまかされてくれない。どうしたらいいの? 芋からお酒はできるのに。
「どうしても再現したいんです! 危険なんかじゃありません」
「再現って……」
少しだけダリウスさんが怯んだ。
「安全を証明するために、三十日間の試験操業を認めてください!」
「三十日ね……」
私は目をそらさずに紺色の瞳を睨み続けた。
「客間を用意してくれるだろうか」
「客間?」
「安全を証明してみせるんだろう? 僕はここで監督を続ける」
ここで見張るってことぉ〜?? まだ麹菌を探したかったけれど、今ある芋麹で作るしかないわね。
「もちろん! 何日でも滞在して見張ってください」
絶対に作り上げてみせる! 私はダリウスさんに啖呵を切るのだった。
◇ ◇ ◇
翌日の朝食には紅芋のパンを出した。先日試作した『生地に紅芋を混ぜた』パンだ。
「これは! ほんのり甘くて美味いな」
そうでしょうとも! ダリウスさんの感想を聞いて、顔がどうしても緩んでしまう。
「ダリウスさん、そちらはレイラが考案した紅芋を使ったパンなんですよ」
お父様が説明をしてくれる。家族のようにダリウスさんが食卓を囲んでいるのに違和感があるけれど、慣れなくては。
「フィオレット嬢は、領地のために頑張っておられるんですね」
「レイラでいいですよ。ダリウスさん」
「では、レイラさんは何を目指しているんですか」
「何って、領地の発展と焼酎作りです」
「しょうちゅうですか?」
「紅芋のお酒です。近いうちに絶対に飲ませてあげます」
「……そうか」
ダリウスさんは、ふっと小さく笑った。表情の乏しい人が微笑むと破壊力がすごい。絶対に唸らせてやりたい。




