3 トライ&エラーのその先は
翌朝少し早起きをして、厨房に行った。紅芋あんを包んだパンと、生地に紅芋を混ぜたパンを焼いてもらって、朝食に出してもらうためだ。
半分成功で半分失敗だった。と言うのは、出来たパンは美味しかったけれど、甘くておやつのようだったから。
でも、主食とおかずのような食べ方ではないので、これもありなのかなと思っていたところ『領民にレシピを伝えれば喜ばれるのでは』という話になったので、料理長とお父様に託した。
その後、私は動きやすい服に着替えて馬に乗り、森に行くことにした。自然の森は鬱蒼としていて、複雑な香りがする。樹木の皮や腐葉土になったところ、木の実が固まっているところ、菌がついていそうなものを採取していく。
「まずは培養して、ううん、芋につけて芋麹になるものを見つけてみせるわ」
屋敷に戻って、積み上げた紅芋の底からも菌を採取する。
「これは黒くてモコモコしているわ。黒麹菌ならラッキーなんだけどな」
蒸した紅芋を潰して、小分けする。それぞれに採取した菌を混ぜて、置いておいたら、翌日には腐臭が漂っていた。
「腐ってるし……」
「お嬢様! 何をなさっているのですか。厨房ではやめてください」
「あー、これも、こっも失敗だわ」
「だからお嬢様!」
しょうがないわね。私は厨房から撤退することになった。私室はやめてくださいと言われたので、客間を一つ使わせてもらうことにした。
それからの日々は、菌を採取しては蒸した紅芋に混ぜ、結果が出るまでに新作の紅芋料理を作った。
今日はニョッキ。とろみ粉と蒸した紅芋を混ぜて形を整えて茹でる。クリーミーなソースを合わせて夕食の一品にした。
「これは! もちもちとして美味いな」
「ほんのり甘さもあるけれど、ソースと合って美味しいわね」
「こんなに紅芋が活用できるなんてな。ありがたい」
お父様もお母様も喜んでくれて嬉しい。のんきなのか、幸いにもこの知識がどこから来たのかのツッコミはない。この調子で、早く焼酎も再現したいわ。
そうして、また数日が過ぎた頃、王都からお役人がやってきた。まだ若い、でも私よりは年上の厳しそうな面持ちの人だ。
「酒税監察官のダリウスと申します」
吸い込まれそうな紺色の瞳のその人は、表情少なに、だけど渋い顔をしていた。首を傾げるとサラリとした銀髪が揺れる。
「こちらで危険な無許可酒造をしていると聞いたのだが」
「え? 危険? 無許可!?」
「そうだ」
「ちゃんと事業計画書は出しました!」
「それは、受理されたのか?」
受理? 出せばいいものじゃなかったの? 固まった私を見てダリウスさんは頭に手を置き困ったような顔をした。
「内容の判断に困った役所から王立の酒税監察部に相談があったんだ。未知の菌を使った危険な酒造など認められん」
「……待ってください!」




