2 まずはスイートポテト
ユスティアス公爵夫人には大変お世話になった。いくらお礼を言っても足りない。夜会での婚約破棄など見ていられなかっただけと仰ってくださったけれど、いつか何かが返せたらいいなと思いながらお暇させていただいた。
帰宅してから改めて鏡を見る。波打つ金髪は腰近くまであり、癖のない大きな目にはラベンダー色の瞳。小さな顎に桃色の唇。前世とは似ても似つかない容貌だった。
私、結構可愛いんじゃない? それだけで今は満足だ。19歳という歳は今の世界では若くはないけど、独身だからできることをしたい。
ちなみに16歳で社交界デビューするとお酒が飲める。前世とは違うところだ。
いつか必ず焼酎を作り上げたい。そこを目標に設定する。領地が紅芋の産地なのは神様の采配だと思う。紅芋はずんぐりしているけれど、ほぼさつまいも。フィオレット領は温暖な田舎で、小麦があまり育たない代わりに紅芋はあり余るほど育つのだ。
翌日、両親に「領地でお酒を作りたい」と宣言した。
「ぶどうでも育てることにしたのかい?」
「ううん、紅芋でお酒を作るのよ」
「紅芋で??」
驚く両親に事業なら届けもいるのではないかと聞かれて、図書館で調べたり役所に行ったりした。
この世界にはエールとワインはある。
パンもある。だから酵母はある。菌だけが手に入るかわからないけど。
香水はあるから蒸留機もあるはず。
そして、何着かドレスを売り、蒸留機を買い求め、領地に戻る前に事業計画書なるものを提出。満足して王都を後にした。
◇ ◇ ◇
フィオレット領は、王都から遙か南、国境を守る辺境伯領のお隣にある。軍もなければ人も少なく、のどかな農村地帯でちょっぴり貧乏だ。小麦も無理やり作っているけど、物納して余った紅芋を蒸かして食べるような地域。
カントリーハウスである屋敷にも紅芋はたくさんあった。今の私には宝の山に見える。さて、どこから、手を付けよう。
なんと言っても醸造には菌が必要だ。屋敷に着いた日はゆっくりして、翌日から菌を探すことにした。
だから初日は、前世の知識でスイートポテトを作ってみた。滑らかに濾した紅芋のマッシュをオーブンから取り出す。新しい料理だと厨房ではちょっとした騒ぎになったので、両親と私の分を取り分けて、残りは厨房で振る舞うことにした。
作り方を伝えると、料理長は王都の料理ですかと嬉々として量産していた。今世では私のオリジナル……と言ってもいいのかな。
「レイラ、紅芋でお菓子を作ったんだね」
「甘くて滑らかで美味しいわ」
「ありがとう! もっと何か作れないか考えるわ」
私達はお茶の時間を楽しんだ。芋ようかんも作ってみたいし、芋餅も作ってみたい。芋ニョッキもいいわね。そんなことを考えながら一日目は過ぎたのだった。
紅芋で何をするかもっと考えてみよう。




