12 宝物の日々
「私、公爵家とは釣り合わな……」
「レイラ、大丈夫。踊ろう」
私たちは、そのまま二曲踊ってバルコニーに出た。踊っている間は、楽しいのとドキドキと、期待と不安で、頭がぐちゃぐちゃだった。
ダリウスさんは、今一番信頼して頼っている人でもある。ただ、ユスティアス公爵子息と聞いてから、それ以上は考えないようにしていた。
その時点で気持ちとしては手遅れだったのかもしれないけれど。だって、南薫酒を一緒に作るのは本当に楽しかったの。
「レイラ、僕は君と一緒にもっと人生を楽しみたい。南薫酒を作り上げるのは本当に楽しかった」
「私も……ダリウスさんといた日々は宝物です」
「レイラ、君が好きだ」
胸がドキドキする。ダリウスさんも、あの日々を大切に思ってくれてたんだと思うととても嬉しい。
「僕は公爵家の人間で、次男といえども家から婚約の申込みをすると、断れないと思う。だから先にレイラに伝えたかったんだ」
私は小さく頷いた。強引にならないようにダリウスさんが言葉を選んでくれているのだと分かった。
「僕はけっこうお買い得だと思うけど、伯爵家に迎えてくれないかな?」
ダリウスさんなら、婿入りでも引く手あまただと思う。そんな中で私を選んでくれたんだ。卑屈にならずに胸を張ろう。
「私で良ければぜひよろしくお願いします」
「ありがとう」
ダリウスさんは、私を引き寄せ抱きしめた。他に人のいないバルコニーでも、誰かが来たらと思うと恥ずかしい。でも、それ以上に嬉しくてたまらなかった。
その後、私の両親のところに行って「ダリウスさんと婚約したい」と伝えた。
「ドレスを見たときから、そうかなとは思っていたけれど、いざ聞くと慄くなぁ。うちが公爵家と身内になるなんて」
「すみません。気負わないでいただけると助かります。酒税監察官の仕事も続けますし、次男ですから」
改めて王都にいるうちに、婚約を整えることになった。ダリウスさんは、婚約の意向をご両親には伝えていたそうだ。そうでもなきゃ、あんな豪華なプレゼントはないか、と思い直した。
そんな話をしている間にも、ヒソヒソとこちらを伺う声が漏れ聞こえてきた。ダリウスさんとのことを妬んでいるのだろうと思っていたけれど、気を配ってみると視線は若い女性ではなくて男性が多く感じられた。子爵や男爵だと思う。
「あの……見られてますね」
私が気がつくほどの視線をダリウスさんが気づかないわけがなくて。
「レイラは気にしなくていい……。と言いたいけど、ここ数日のうちに粗悪品の南薫酒が出回っていてね」
「粗悪品!? あの製法は届け出てるとは言っても簡単には真似出来ないはず……」
「そうなんだよね。正規品を薄めて詰め直して売ってるように思うんだ」
「なんてこと!」
南薫酒は、イリヤスさんに勧められて瓶の蓋にさらに封緘で留めてあった。封緘を破られていたら正規品ではない。
「封緘はどうなっていたんでしょうか。水増しして作ったなら、瓶やラベルはどうしているんでしょう」
「今、公爵家でも酒税監察部でも調べているんだ。どちらにせよ届けのない酒は処罰対象だからね」




