11 君の特別に
私の瞳の色の宝石を探したと言ったダリウスさん。この夜会のコーディネートのためだけに? いえ、そんなはずはないわ。いくらなんでも、お互いの色を身につけることに意味がないことなんてないもの。
じっとその深い紺の瞳を見つめてしまっていると、ダリウスさんが少し困ったような顔をしたので、ハッとした。見すぎた!
「レイラ。そう呼んでもいいだろうか」
は……。はい。その言葉は音にならずに、私は慌てて頷いた。
「フィオレット伯爵に申し入れる前に、レイラとゆっくり話したい」
ダリウスさんの低く落ち着いた声は甘く響き、私の胸に染み渡るのだった。
ダリウスさんのエスコートで夜会に着くと、多くの人の視線を受けた。さすが公爵家の人は違う。
そう思っていたら、そわそわした侯爵夫人と伯爵夫人が話しかけてくる。
「ダリウス様が出席なさるのは珍しいですね」
「お連れのお嬢様はどなた? 素敵なドレスね」
ご夫人たちの興味はドレスだったらしい。グレーの生地にシルバー味の光沢あるオーガンジーを重ねたドレスは、フリルはないけれど、とても華やかだった。
前世のある私はオーガンジーが珍しい生地だとは気づかなかったけれど、とても高価なものだったのかもしれない。
「バートン商会がドレス店を立ち上げたんです。良かったらそちらに」
ダリウスさんが応えると、夫人たちは絶対行くわと嬉しそうに華やいでいた。
私がダリウスさんを見上げた顔は不安そうだったのか「大丈夫だよ」と微笑みかけられた。
本当にバートン商会の扱う商品は幅広い。はっきりとは聞いていないけれど公爵家の商会なんだろう。
「行こう。父上に紹介するよ」
ユスティアス公爵は以前の夜会で軽く挨拶した程度だった。酵母の使用料はダリウスさんが間に入ってくれて、まだお礼ができていなかったのだ。
「父上、母上、こちらがフィオレット伯爵家のレイラ嬢です」
「フィオレット伯爵が娘、レイラと申します」
「君が! 南薫酒はとても良いお酒だね。ダリウスから聞いていたけれど、とても魅力的なお嬢さんでびっくりしたよ」
「この度は、良くしていただきまして、とても感謝しております」
公爵に挨拶すると、私は夫人に向き直った。厳格そうな公爵に対して、とても穏やかに笑う麗しい方だ。
「ユスティアス公爵夫人、あのときは本当にありがとうございました」
「気にすることではないわ。でも見違えたわね。良かったわ」
夫人の微笑みに、私は涙ぐんでしまう。慌てたようにダリウスさんが腰を引き寄せた。
「本当に、縁があったのね」
夫人はコロコロと楽しそうに笑って、私は顔を真っ赤にしたのだった。
国王陛下のお言葉を聞き、王太子殿下のファーストダンスが終わると、本格的に夜会が始まった。
「僕たちも踊ろう」
ダリウスさんが私の手を導いて、ごく自然に踊りだす。私はダンスが上手ではないけれど、ダリウスさんのリードにつられてとても楽に踊れる。かつてないほどに楽しい。
「楽しい……!」
「それは良かった」
1曲目が終わってお辞儀をしようと思ったけれど、手を離してもらえない。困ってダリウスさんの顔を見上げると、真剣な瞳と視線がぶつかった。
「もう二曲、踊って欲しいんだ」
「え?」
「僕を君の特別にしてほしい」
驚いた私は、つい手を握りしめ、まだ手が繋がっていることに気づいたのだった。




