↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命百日の魔王様を負けさせる係ですが、勇者がスライムにも勝てません  作者: sakumaaa
第一章 最弱勇者が勇者と呼ばれるまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/28

第18話 十八日目「降参した敵を倒せない」

敵が降参したので、勇者が困った。


「こういうときは、何をすればいいんですか」


「勝ち誇ってください」


「やったことがありません」


「俺も教えたことがありません」


 十八日目の朝。


 昨日追い回された沢で、ミロは魔狼十二頭を前に立っていた。


 左腕には、ルゥに噛まれた二つの傷。


 右手には、魔王以外へ役に立たない聖剣。


 逃げ道は、背後の沢沿いに三本用意してある。


 勝者の装備としては、かなり後ろ向きだった。


 ラウラが群れの前へ出た。


 首に下げていた鉄の罠を外し、ミロの足元へ置く。


「昨日の子は」


「おかげさまで、元気にあなたの腕を噛みました」


「それなら、よかったです」


「よいのでしょうか」


「傷は浅かったので」


「治癒師の回答ですね」


 ラウラの後ろで、ルゥが包帯を噛んで外そうとしている。


 ユラが直す。


 噛まれる。


 直す。


 治療は、患者の同意だけでなく忍耐も必要らしい。


「私どもは、人間を許しません」


 ラウラが言う。


「巣を焼いた兵も、森へ罠を置く者も。勇者の台本へ従って腹を見せるつもりもございません」


「分かりました」


 ミロはすぐに答えた。


「ですが、あなたへは道を譲ります」


「僕に?」


「逃げたあと、戻った人間へ」


 ラウラが左目を細める。


「本日から、街道の旅人は襲いません。森へ罠を持ち込まないかぎり」


「人間の兵がまた入ったら」


「丁重に食べます」


「そこをもう少し」


「交渉はここまででございます」


 完全な和平ではない。


 それでも、旅人が通れる道はできた。


 ミロは足元の鉄罠を拾おうとして、やめた。


「これは、ラウラさんが持っていてください」


「敗者の武器を返すと?」


「人間がまた置いたら、外すのに使えます」


「武器ではありません。見せしめです」


「では、もっと必要ですね」


 ラウラは鼻を鳴らした。


 罠を首へ戻す。


「弱い勇者で助かりました。強い者は、返す前に壊します」


「褒められました?」


「半分ほど」


 ミロは俺を見た。


「勝ったんでしょうか」


「相手が道を譲りました」


「前にも聞きました」


 三日目にも、弓兵が逃げたあと同じことを聞かれた。


 あのときは、俺の仕掛けで逃がした。


 今日は違う。


「勝ちです。あなたが選ばせた」


 ミロの右手が、包帯の下で淡く光った。


 魔狼たちが森の奥へ退く。


 最後にルゥが振り返り、ミロへ一声鳴いた。


 そこで終われば、きれいな勝利だった。


 街道側から、角笛が鳴った。


 人間兵が六人、沢へ入ってくる。


 矢羽には、昨日ラウラが並べたものと同じ羽根印。


「勇者様、お下がりください!」


 兵長が弓を構える。


「魔狼は手負いです。今なら群れを討てる!」


 ラウラの唸り声が戻った。


 降参した敵を、もう一度敵へ戻しに来た。


「攻撃を止めてください」


 ミロが兵の前へ出る。


 弓は人間へ向けられない。


 聖剣も通じない。


 それでも身体だけは、射線へ置ける。


「勇者様、どいてください」


「道は開きました。魔狼は旅人を襲わないと言っています」


「魔物の言葉です」


「僕も、寺院から勇者だと言われただけです」


 兵長の顔が固まる。


 反論としては、自分の立場まで弱くなる言い方だった。


 ただ、正しい。


「討伐証がなければ、勝利とは認められません」


 兵長が言う。


「耳か尾を持ち帰る必要があります」


 弓を持つ手は、興奮ではなく震えていた。


 後ろの兵には、頬から首へ続く古い噛み傷がある。


 兵長はその傷を見てから、ミロへ向き直った。


「俺たちも街道で仲間を失った」


 兵長が低く言う。


「魔狼を信じて、また誰かが死んだらどうする。次に死ぬ者の家族へ、俺は何と説明すればいい」


「だから約束を残します」


 ミロは射線から動かなかった。


「降参したあとに殺したら、森へ戻った魔狼は、次から誰にも降参しません」


 魔狼の尾が一斉に逆立った。


 俺は沢の外を見た。


 三本杉街道には、足止めされた商人と旅人がいる。魔狼が退くところも、ミロが罠を返すところも見ていた。


 舞台には、もう観客がいる。


 必要なのは、嘘ではない。


 起きたことへ、先に名前をつけることだ。


「勇者様」


 俺はミロへ一礼した。


 兵にも旅人にも聞こえる声で続ける。


「魔狼の群れが街道を明け渡しました。勝利の宣言を」


「僕が?」


「本人以外に誰が」


 ミロは聖剣を見た。


 抜かなかった。


「魔狼の群れは、三本杉街道から退きました」


 声が一度、震える。


 ラウラは黙って聞いている。


「旅人を襲わないと約束しました。だから、この戦いは終わりです」


「討伐は」


 兵長が口を挟む。


「しません」


 今度は震えなかった。


「勇者ミロの名で、僕たちの勝ちにします」


 右手の光が強くなる。


 旅人の間から、拍手が一つ聞こえた。


 次に二つ。


 洪水の村から来た商人が、「勇者様が魔狼を退けた」と叫ぶ。


 話が形になる。


 兵長が弓を下ろさない。


 ユラが前へ出た。


「その矢を見せてください」


「治癒師殿?」


「昨日、魔狼の子へ刺さった矢と同じ羽根です。森へ置かれた罠も人間軍の型でした。勇者様の勝利後に攻撃するなら、その前に負傷の経緯を寺院記録へ残します」


「任務だ」


「命令書を」


 兵長は答えなかった。


 弓が少し下がる。


 嘘を暴く質問は、盾にもなる。


 六人は魔狼をにらみながら、街道へ戻った。


 ラウラが俺たちの横を通る。


「勇者」


「はい」


「あなたの勝ちで結構です」


「ありがとうございます」


「次に森へ入るときは、先に逃げてください」


「たぶん、そうします」


「気に入りました」


 魔王と同じ褒め方だった。


 夕方、街道の子どもがミロのあとを走りながら叫んでいた。


「魔狼を倒した勇者様!」


「倒してません!」


「倒さず勝った勇者様!」


 言い直された。


 森の奥でも、短い遠吠えが返った。


 人間の声と魔族の声が、初めて同じ勝利を呼んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。