表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命百日の魔王様を負けさせる係ですが、勇者がスライムにも勝てません  作者: sakumaaa
第一章 最弱勇者が勇者と呼ばれるまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/18

第10話 十日目「倒せない門番を通り抜ける」

 門番を倒さなければ先へ進めない。


 勇者の旅なら、よくある話だ。


「逃げます!」


 勇者は開始三秒で、来た道を戻った。


 門番の石拳が、さっきまでミロの頭があった場所を通り抜ける。


 風圧で俺の外套がめくれた。


 十日目の朝。


 俺たちは西街道の古い石門へ着いた。


 谷を塞ぐ門は、黒曜城より古い。人間と魔族の境が今より曖昧だった時代、商人と配達人を通すために作られたと聞いている。


 両脇には人の三倍ある石像が一体ずつ。


 普段は動かない。


 昨日から、よく動く。


 右の石像が二発目を構える。


 ミロはすでに安全な岩陰へ入っていた。


「レオルさんも!」


「俺が動くと、荷物が潰れます!」


 足元には、昨夜運び込んだ縄、煙筒、鏡、木箱が広がっている。


 本来はガドの部隊と模擬戦を行い、勝った勇者が門へ認められる段取りだった。


 監察が入ったため中止した。


 代わりに、門番を眠らせる古い停止札を用意したが、雨で文字が半分流れていた。


 役に立たない道具だけは、今日も予定どおり揃っている。


 石拳が振り下ろされる。


 俺は木箱を蹴り、身体を横へ投げた。


 拳が地面へ埋まる。


 衝撃で鏡が一枚割れた。


「道具は置いてください!」


 ミロが岩陰から戻ってくる。


「戻るなら、もう少し早く!」


「レオルさんが逃げると思ったんです!」


「仕事道具を置いて?」


「僕と同じ基準で考えました!」


 失礼なうえに、少し正しい。


 ミロは俺の腕をつかみ、石像の次の拳から引きずり出した。


 二人で岩陰へ転がり込む。


 石像は追ってこなかった。


 門の中央へ戻り、両手を膝へ置く。


『名、荷、届け先を告げよ』


 腹の底へ響く声だった。


「さっきも聞かれました」


 ミロが息を整える。


「勇者ミロ。荷は聖剣。届け先は黒曜城」


『拒む』


 石像の目が赤くなる。


 そこから三秒だった。


「言い方を変えます」


「職業を偽るんですか」


「元配達人なのは本当です」


 ミロは岩陰から顔だけ出した。


「配達人ミロ。荷物は手紙。届け先は……」


 言葉が止まる。


 鞄へ手を当てた。


 あの未配達の手紙だ。


 故郷の老女から、国境のどこかへ嫁いだ娘へ宛てたもの。公の配達路にない集落で、ミロは宛先の印しか知らない。


「届け先が分かりません」


『拒む』


 石像の拳が上がる。


 俺たちはまた走った。


 五度目の拒否を受けたころには、俺の道具は半分が石の下へ埋まり、ミロは逃走経路を四つ開拓していた。


 そのうち三つは行き止まりだった。


「門番を倒せませんか」


「聖剣で石が切れないのは、二日目に確認しました」


「小刀は」


「手入れに三十年かかります」


 ミロは聖剣を抜き、石像の足へ当ててみた。


 刃は表面を滑り、石粉一つ落とさない。


 石像が足を上げる。


 ミロは逃げた。


 今度は俺も先に逃げた。


 学習は大事だ。


 門から離れると、石像は元の位置へ戻る。


 攻撃範囲は決まっている。


 門を壊そうとしたときと、答えを拒まれたあとだけ動く。


 ならば必要なのは勝つ方法ではない。


 正しい答えだ。


「名前は合っています」


 俺は地面へ三つの丸を描いた。


「荷も嘘ではない。違うのは届け先か、目的です」


「魔王を倒しに行く人は通さない?」


「商人と配達人の門です。戦争が始まる前の規則で動いているなら、聖剣を荷と呼ぶのが悪い」


 ミロは鞄から手紙を出した。


 封は六角形の蝋で閉じられ、宛名の下に三本に分かれた杉の印が描かれている。


「この印、どこかで見ました」


 ミロが門へ近づく。


 石像の目が赤くなる前に止まり、左右の柱を見上げた。


 門には古い傷と苔が重なっている。


 俺には石のひびにしか見えない。


 ミロは荷物を探すときの目で、一つずつ形を拾った。


「あそこです」


 左柱の根元。


 泥をこすると、三本に分かれた枝の印が出た。その下に、小さな三日月と、右向きの矢が刻まれている。


「配達所の古い中継印です。三日月は夜便。矢印は、次の受取所」


「宛先そのものでは?」


「違います。昔は、住所が分からない荷物を印ごとの中継所へ送っていました」


 未配達の手紙の届け先は、まだ分からない。


 だが次に渡す場所は分かった。


 門の向こうだ。


 ミロは聖剣を鞘へ納めた。


 代わりに手紙を両手で持つ。


「もう一度、行きます」


「拒まれたら?」


「逃げます」


「安心しました」


 門の前へ出る。


 石像の目が赤く光った。


『名、荷、届け先を告げよ』


 ミロの膝がわずかに曲がる。


 逃げる準備だ。


 それでも手紙は鞄へ戻さなかった。


「配達人ミロ」


 勇者とは名乗らない。


「荷物は、まだ届けられていない手紙です。届け先は、この門の先にあった三本杉の中継所」


 石像が腕を上げた。


 ミロの右足が半歩下がる。


「ただし、手紙は捨てません」


 石拳は落ちなかった。


『荷を検める』


 石の指が差し出される。


 ミロはためらった。


 手紙の封を守るように、両手で包む。


「開けないでください。受取人以外には渡せません」


 門番を相手に配達規則を優先した。


 石像の赤い目が、手紙とミロを交互に見る。


 長い沈黙のあと、指が引いた。


『封、保全。荷、適正』


 左の石像も動いた。


 二体が門へ手をかける。


 石と石がこすれ、谷全体が震えた。


 閉ざされていた扉の間へ、細い光が差す。


 門が開く。


 ミロはその場へ座り込んだ。


「立ってください。勇者らしく」


「配達人で通ったのに?」


「そこは黙っていれば分かりません」


 雨上がりの村から、避難した人々が見ていた。


 誰かが拍手する。


 次に子どもが手を叩き、村長が続く。


「勇者様が門を開けたぞ!」


「剣を使わずに!」


「川の次は門だ!」


 話が大きくなる速度だけは、川より速い。


 ミロの右手が光った。


 昨日より明るい。


 包帯の布目を透かし、印の輪郭がはっきり浮かぶ。


 通信鏡が腰で熱を持った。


 俺は人目を避け、開いた門の脇で鏡を出す。


 アルマの顔が映った。


「門が開いた」


「見ていましたか」


「勇者印の光が、黒冠へ届いた」


 声は平静だった。


 右角に、昨日までなかった細いひびがある。


 最初のひびと並び、根元から上へ伸びていた。


「二本目ですね」


「進んだのは勇者も同じだ」


「同じ速さなら困ります」


 アルマは右角を隠さなかった。


「レオル。今日の私は、何を食べたと思う」


「朝なら、焦げたパンを」


「あれは焦げていない」


 即答だった。


 まだ大丈夫だと、思いかけた。


 「蜂蜜を塗った。甘すぎた。おまえなら量を半分にしろと言う」


 味も、俺の小言も覚えている。


 二本目のひびを見た直後だけは、その事実にすがりたかった。


 通信鏡の向こうで、誰かが扉を叩いた。


 アルマは王の顔へ戻り、通信を切る。


 門の向こうから足音がした。


 灰色の外套を着た若い女が、こちらへ歩いてくる。


 背には薬箱。胸には寺院の印。


 彼女は開いた石門にも、拍手する村人にも目を向けなかった。


 まず、ミロの右肩を見た。


「寺院治癒師のユラです」


 挨拶をしながら、もう包帯へ手を伸ばしている。


「勇者様の監視に来ました。質問は治療のあとにします」


 指先が、矢傷の縁で止まった。


「この傷」


 ユラは俺を見た。


「誰が、こんな外し方をしたんですか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ