最初の狩り
夜は、静かだった。
だが——
その静けさの奥で、何かが動いている。
見えないはずのものが、確かに存在している。
そしてそれは——
彼を見ているのではなく、
“呼んでいる”。
力はある。
だが、使えない。
理解していないからだ。
今夜、彼はそれを知る。
——理解しなければ、死ぬ。
人々は視線を交わすことなく動いていた。
声は重なり、ただの背景音へと溶けていく。信号は変わり、人生は疑うことのない安定したパターンに従って流れていく。
普通。
すべてが、普通だった。
カイトは、その中を――まるで間違いのように歩いていた。
フードは深く被られたまま。両手はポケットの中、指先はわずかに曲がっている。一歩一歩が計測されているようだった――規律ではなく、抑制によって。
「……人間じゃない……」
その言葉は静かに漏れた。
劇的でもなく、
ただ受け入れているだけの声音で。
誰かが肩に触れて通り過ぎた。
その一瞬――
内側で何かが反応した。
飢え。
カイトは足を止めた。
呼吸が詰まる。
「……違う」
鋭く。
即座に。
爪が掌に食い込み、無理やり自分を制御へと引き戻す。感覚は薄れる――だが完全には消えない。
決して。
それは残る。
待ちながら。
カイトは息を吐き、再び歩き出した。
無視する。
いつも通りに。
---
夜が街を覆った。
音は消えない。
ただ、薄くなる。
カイトは閉鎖された地下鉄駅の前に立っていた。上の看板が弱々しく点滅し、不均一な光を落としている。
背後で、イツキが袖を整えた。
「……感じるか?」
カイトは振り向かない。
「……ああ」
「……いいな」
一瞬の間。
「……なら無駄じゃない」
カイトは入口へ視線を向ける。
暗い。
異様なほどに暗い。
「……何が相手だ?」
「……滑り込んできた何かだ」
「……それじゃ分からない」
「……分かる必要はない」
沈黙。
そして――
「……見えるものを信じるな」
カイトは眉をひそめる。
「……どういう意味――」
イツキは一歩踏み出し――
消えた。
カイトは瞬きをする。
「……は?」
振り返る。
何もない。
音も、
気配もない。
「……イツキ?」
沈黙。
重い。
即座に。
カイトはゆっくりと息を吐いた。
「……いい」
そして中へ入った。
---
境界を越えた瞬間――
世界が変わった。
外の音は消えた。
どこにも属さない低い唸りに置き換わる。
足音が響く。
異様に。
長く。
駅は放棄されていた。
割れたタイル。汚れた壁。点滅する非常灯。
影が不自然に伸びる。
線路は闇へと続いていた。
終わりなく。
「……どこだ……」
カイトは呟く。
その時――
「……たすけて……」
カイトは止まる。
「……何だ?」
沈黙。
「……たすけて……」
子供の声。
弱く、
震えている。
奥から。
カイトは歯を食いしばる。
「……やめろ」
それに向けてではない。
「……引っかかるな」
だが足は動く。
一歩。
また一歩。
「……お願い……」
近い。
必死に。
「……どこだ!」
答えはない。
声だけが導く。
奥へ。
闇は濃くなり、
光は乱れ、
影は歪む。
「……たすけて……」
真上。
カイトは止まる。
ゆっくりと見上げる。
そして――見た。
---
それは天井に張り付いていた。
巨大。
異常。
四肢はあり得ない角度で広がり、体は「作られた」ような歪さを持っていた。
背中には――
死体。
融合し、
重なり、
見ている。
首が傾く。
ゆっくりと。
口が歪む。
「……たすけて……」
カイトは動かない。
それは見ていた。
待つように。
---
「……それはお前じゃない」
首がさらに傾く。
限界を超えて。
そして――
見えた。
口。
無数に。
融合した体に埋め込まれ、
動いている。
「……たすけて……」
「……いたい……」
「……お願い……」
壊れた声。
重なり。
生でも死でもない。
カイトの呼吸が乱れる。
「……黙れ……」
それは消えた。
---
衝撃。
---
横から叩きつけられる。
地面が砕ける。
空気が抜ける。
「――ぐっ……!」
肋骨に痛み。
引きずられ、
投げられ、
柱へ。
バキッ。
視界が揺れる。
「……くそ……」
立ち上がる。
それは立っていた。
巨大。
歪。
声が続く。
「……たすけて……」
カイトは手を上げる。
「……来い……」
何も起きない。
「……来いって言ってるだろ!」
反応なし。
焦り。
「……なんで出ない……!」
それが動く。
速い。
直撃。
叩きつけられる。
「――ああああっ!」
痛み。
「……立て……!」
震える腕。
「……前はできた……」
無反応。
近づいてくる。
確実に。
「……やめろ……!」
突撃。
回避失敗。
バキッ。
折れる感覚。
落下。
動けない。
「……ここまでか……」
静かな思考。
「……こんなのにも勝てない……」
「……情けない」
その声は深い。
闇。
---
別の場所。
扉。
黒く、
古い。
「……またか……」
「……力を求めながら」
「……理解していない」
「……やった……でも出なかった……!」
「……使っている」
「……五パーセント」
沈黙。
「……それが限界だ」
「……何が足りない……!」
「……理解だ」
「……力は呼ぶものではない」
「……認識するものだ」
「……七つの遺物」
「……一つを持っている」
「……理解しろ」
「……でなければ死ね」
---
扉が脈打つ。
砕ける。
---
目を開く。
痛み。
それがいる。
「……たすけて……」
「……五パーセント……」
「……なら理解する」
動く。
カイトも動く。
---
速さではない。
精度。
---
避ける。
入る。
止まる。
世界が遅くなる。
見える。
「……そこだ」
手が上がる。
刻印が浮かぶ。
不安定だが、
現実。
「……これか……」
動く。
当てる。
衝撃。
それがよろめく。
悲鳴。
「……お前じゃない」
再び突進。
今度は――
不十分。
直撃。
壁へ。
「……まだ足りない……」
終わりへ。
---
⚡ 雷が裂ける。
---
光。
それが崩れる。
「……よく持ったな」
イツキ。
「……待ってたのか……」
「……ああ」
「……なぜ」
「……そこに届く必要があった」
それが突進。
イツキが動く。
---
⚡「雷式――第一形態:スパークドライブ」
---
消失。
一撃。
内側へ雷撃。
崩壊。
⚡「チェインアーク」
連鎖。
分解。
消滅。
---
静寂。
---
「……弱い」
「……それでも死にかけたな」
カイトは呟く。
「……声がした」
「……五パーセントだと」
「……なら答えは出てる」
「……力はある」
「……制御がないだけだ」
---
外へ出る。
街は正常。
だが違う。
---
「……どうすればいい」
「……まず体を使え」
「……それからだ」
「……道場だ」
「……人間として戦えなければ」
「……それ以上は扱えない」
---
カイトは一瞬止まり、
そして――
ついていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第6章、いかがでしたか?
カイトが少しずつ「力」と向き合い始めた章になっていますが、まだまだ未熟で、ここからどう変わっていくのかが重要になっていきます。
もしよければ、感想やご意見をいただけるととても嬉しいです。
「ここが良かった」「ここが気になった」など、どんな一言でも構いません。
いただいた声は、これからの展開や改善の参考にさせていただきます。
また、少しでも面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価も励みになります。
これからも物語は加速していきますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです




