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エクソシスト:オリジンズ  作者: Syntax


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5/15

何が残る

この物語は、「希望」から始まらない。


もっと単純なものから始まる――

「生き残ること」だ。


カイトはすでにすべてを失っている。

そして今、彼自身でさえ、もう完全な人間ではない。


逃げることは簡単だ。

隠れることも簡単だ。

このまま静かに終わること――それが一番楽な選択だ。


だからこそ、問われる。


守るものが何もないとき。

勝てる保証もないとき。

生きることすら意味を失ったとき――


それでも、人は前に進むのか。


そして――


すべてを失った者が、

それでも戦うと決めたとき――


何が起こるのか。



宮殿は静まり返っていた。


空ではない。


統制されている。


巨大な黒大理石の柱が闇へと伸び、その表面には、直接見ていないときにわずかに揺らぐような紋様が刻まれている。あり得ない構造の縁をなぞる金が、どこからともなく差し込む不自然な光を反射していた。


その中心に――


玉座。


触れられていない。


穢れていない。


絶対。


ここは混沌ではない。


ここは――支配。


ゼパルはそこに座っていた。


くつろいだ姿勢で。


片足をもう片方に組み、落ち着いた様子。


だが――指先がわずかに震えている。


「……人間か」


小さな笑いと共に言葉が漏れる。


「……人間……」


ゆっくりと手を上げる。


そして――握る。


記憶が再生される。


圧力。


圧倒的な力。


自身の肉体が――自身の権威が――想定を遥かに超えた何かに踏み潰された瞬間。


一瞬の沈黙。


そして――


笑みが広がる。


怒りではない。


憤怒でもない。


それ以上の何か。


興味。


「……面白いものを見せてくれたな」


間。


「……今度は、こちらから返そう」


側から、従者が近づく。


頭を垂れ、銀の盆を捧げている。


その上には――


肉。


新鮮。


まだ温かい。


ゼパルはそれを手に取り、無造作に眺める。


「……人間」


そして――


噛みつく。


ゴリッ。


ゆっくりと。


測るように。


味わうように。


一瞬、目を閉じる。


「……もうすぐ……」


唇に、わずかな笑み。


「……お前もここに来る」


間。


「……母親と同じ場所にな」


沈黙が戻る。


重く。


そして――


「……あいつがいなければ……」


声が低くなる。


「……あの夜……」


指先がわずかに強まる。


「……お前は死んでいた」


低い笑い。


「……次は……」


「……誰も邪魔しない」



---


街は呼吸していた。


人の流れ。


重なる声。


日常は続く――何も知らぬまま。


その中で――


一人の少年が歩いていた。


顔を伏せ、フードで影を落としながら。


カイト。


彼は方向もなく歩く。


急ぐこともなく。


ただ――歩く。


視線を避け。


接触を避け。


すべてを避けながら。


「……人間じゃない……」


呟きが漏れる。


「……今の俺は、そういう存在だ」


否定はない。


怒りもない。


ただ静かな認識。


生者の中を歩く幽霊のように、人々の間をすり抜ける。


そして――


「……さすがにこれは不自然すぎるだろ」


背後から声。


カイトは振り向かない。


「……ついてくるな」


間。


「ついていってない」


カイトは足を止める。


わずかに振り返る。


数歩後ろにイツキが立っていた。


なぜかぬいぐるみを持っている。


「……ただの偶然だ」


「……二十分ついてきてる」


「……具体的すぎるだろそれ」


「……子供にぶつかってたぞ」


「……戦術的だ」


沈黙。


カイトはしばらく見つめ――


再び歩き出す。


「……待て」


イツキがすぐに追いつく。


「……話を聞け」


「……断る」


「……お前、死にかけただろ」


「……お前もだ」


「……そういう問題じゃない」


カイトは再び止まる。


今度は――


その表情に冷たいものが混じる。


「……じゃあ何だ」


イツキは迷わない。


「……お前は危険だ」


沈黙。


「……そして一人だ」


カイトは視線を逸らす。


「……それでいい」


イツキは眉をわずかに寄せる。


「……誇れることじゃない」


「……誇ってない」


カイトの声は平坦。


「……その方がいいだけだ」


間。


「……人から離れていれば……」


拳がわずかに握られる。


「……誰も傷つかない」


沈黙。


そして――


イツキが息を吐く。


「……それで終わりか?」


「……そのまま生きて……」


「……どこかで静かに死ぬのか?」


カイトは答えない。


「……それがお前の選択か?」


「……ああ」


即答。


迷いなし。


イツキの表情が固まる。


「……馬鹿だな」


カイトの目がわずかに揺れる。


「……好きに言え」


「……言うさ」


一歩近づく。


「……逃げて何になる?」


「……逃げてない」


「……逃げてる」


間。


「……全部からな」


カイトの顎が強張る。


「……じゃあどうしろっていうんだ」


「……何もなかったみたいに生きろって?」


「……普通の人間みたいに振る舞えって?」


「……元に戻れって?」


声が少しだけ上がる。


鋭く。


「……無理だ」


沈黙。


イツキはしばらく黙る。


そして――


「……それでいい」


カイトは眉をひそめる。


「……何?」


「……無理でいい」


イツキの声は静かだった。


「……何もかも壊れてる」


「……お前ももう普通じゃない」


間。


「……だからこそ、止まるな」


カイトの目が細くなる。


「……どういう意味だ」


イツキは壁にもたれかかる。


「……理解しろ」


間。


「……世界は、見えてるものだけじゃない」


「……境界がある」


カイトは眉をひそめる。


「……境界?」


「……この世界と……」


声が低くなる。


「……別の何かの間に」


沈黙。


「……その境界は……完璧じゃない」


カイトは黙って聞く。


「……弱くなる」


「……歪みが生まれると」


「……例えば?」


イツキは真っ直ぐ見る。


「……感情だ」


指がわずかに握られる。


「……強い感情」


「……悲しみ」


「……憎しみ」


「……絶望」


「……消えないもの」


沈黙。


「……それが起きると……」


「……穴が開く」


呼吸がわずかに変わる。


「……穴……」


「……そこから来る」


間。


「……全部が弱いわけじゃない」


目が鋭くなる。


「……もっと危険なものもいる」


沈黙。


カイトの視線が落ちる。


「……じゃあ……」


声が低くなる。


「……あの夜は……それが原因か?」


イツキは一瞬迷う。


「……分からない」


正直に。


「……だが偶然じゃない」


長い沈黙。


拳が握られる。


「……で?」


「……戦えって?」


「……これで?」


手をわずかに上げる。


「……俺を殺しかけた力で?」


沈黙。


「……俺は選んでない」


イツキが一歩踏み出す。


「……だが、選ばれた」


カイトの目が鋭く上がる。


「……何もしなければ」


声が硬くなる。


「……お前が壊れる」


「……あるいは誰かが」


沈黙。


重い。


不快な沈黙。


カイトは答えない。


意識は――


別の場所にある。


声。


低く。


冷たく。


明確に。


「これが……お前の復讐か?」


呼吸が止まる。


記憶。


血。


悲鳴。


あの存在。


「……まだ考えてるな」


イツキの声。


否定はしない。


「……あいつはまだいる」


沈黙。


「……そして今」


「……お前は何もしていない」


言葉が刺さる。


「……じゃあどうすればいい」


声は低い。


怒りではない。


別の何か。


「……教えろ」


イツキは迷わない。


「……狩れ」


沈黙。


「……強くなれ」


「……制御しろ」


「……支配されるな」


カイトの目が暗くなる。


「……失敗したら?」


「……死ぬ」


間。


「……だが逃げなかった」


沈黙。


長く。


重く。


そして――


カイトが動く。


ゆっくりと。


姿勢を正す。


呼吸が整う。


「……ゼパル」


低く。


鋭く。


「……全部思い出した」


拳を握る。


「……声も」


「……顔も」


「……やったことも」


沈黙。


イツキは見ている。


「……いいな」


カイトは一歩踏み出す。


「……これは正義じゃない」


間。


「……誰かのためでもない」


声が冷える。


「……あいつらのためだ」


一呼吸。


「……そして俺のため」


イツキは止めない。


「……だから使う」


「……この力を」


間。


「……死んでも」


沈黙。


「……見つけたら」


目が硬くなる。


「……ただじゃ殺さない」


間。


「……全部味わわせる」


一呼吸。


「……それから殺す」


空気が止まる。


初めて――


方向が生まれる。


逃げではない。


恐怖でもない。


選択。


そしてそれが――


すべてを変えた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この章を最後まで読んでくださったなら、

この物語の何かがあなたに届いたということ――それが何より嬉しいです。


これはまだ、カイトの物語の始まりに過ぎません。

それは「英雄の物語」ではなく、「選択の物語」です。


もし読んでいて少しでも何かを感じていただけたなら、

ぜひ感想やレビューを残していただけると嬉しいです。


皆さんの言葉は、この物語を形作る大きな力になります。


そして、もし気に入っていただけたなら、

ぜひお友達や他の読者にも共有していただけると嬉しいです。


一つひとつの応援が、想像以上に大きな支えになります。


それでは、次の章でお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
この章は世界観とか状況の説明がメインでしたが、全然退屈じゃなかったです。 無理に説明してる感じもなくて、自然に理解できるのが良かったです。 物語の方向性も見えてきて、ここからがさらに楽しみになりま…
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