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エクソシスト:オリジンズ  作者: Syntax


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2/15

記憶する家

この章では、カイトの「日常」と「異常」が交差し始めます。


失われたはずの記憶、説明のつかない違和感、そして彼を取り巻く“何か”の気配。


少しずつ現実が歪み始める中で、彼は再びあの夜に近づいていきます。


そして――この物語で初めての、本格的な「戦い」が描かれます。


どうか、最後まで見届けてください。

ベルが鳴った。空虚で、鋭く、そして決定的な音。それは教室を真っ直ぐに切り裂き、まるで授業の終わりではなく、何か別の終焉を告げているかのようだった。椅子が引かれ、会話が一斉に弾け、安堵の混じった声が重なり合う。笑い声が上がり、軽い愚痴が続き、ほんの数秒で教室は再び活気を取り戻した。


ほとんどの生徒にとって、それは自由を意味していた。


だが――荒嵐カイトにとって、それは何の意味も持たなかった。


彼は席に座ったままだった。ノートは開かれているが、そこには何も書かれていない。触れられることもなく、淡い教室の光を反射しているだけの、意図的に空白のような状態だった。授業中、教師は彼の名前を二度呼んだ。だが彼は反応しなかった。いつものことだ。


聞こえていないわけではない。


ただ――動かなかった。


彼にとって世界はどこか遠かった。まるで薄い、見えない膜の向こう側に存在しているかのように、すべてが鈍く感じられる。声も、表情も、時間さえも。


出来事は起きる。

人は話す。

時間は流れる。


だが――何も残らない。


「カイト」


声が、机の近くから聞こえた。


彼はゆっくりと顔を上げる。


クラスメイトが立っていた。苛立っているのか、心配しているのか、そのどちらともつかない表情。顔はぼんやりと認識できるが、名前は思い出せない。


「残るのか?」


カイトは瞬きをした。


「……ああ」


その答えは、自分でも意味が分からなかった。


相手はわずかに眉をひそめ、肩をすくめると、そのまま去っていった。


カイトは少しだけその場に留まり、


――立ち上がった。


鞄を手に取り、肩にかけ、教室を出る。


誰も止めなかった。


誰も気づかなかった。


外に出ると、空は鈍い灰色に覆われていた。雲は薄く、ほとんど透けている。まるで太陽を消そうとして、途中で失敗したかのような空。光は平坦で、不自然だった。


カイトは歩く。


いつもの道。

いつもの速度。

いつもの静けさ。


足音がやけに響いた。


鋭すぎる。

はっきりしすぎている。


まるで周囲の音が足りていないかのように。


彼の手が、わずかに鞄の紐を握りしめる。


震え。


小さい。


ほとんど気づかないほどの。


すぐに消えた。


いつもそうだ。


記憶も同じように訪れる。


前触れもなく。

規則もなく。


軋む扉。


上から落ちる重い音。


沈黙。


過剰な沈黙。


そして――


『逃げろ』


カイトは立ち止まった。


ほんの一瞬。


世界が傾いた。知覚がずれたように。空気が薄く、冷たくなる。


「……チッ」


小さく舌打ちをし、視線を逸らす。


「十年だぞ……」


声は遠かった。


「それでも……」


その先は言わない。


いつも言わない。


再び歩き出す。


家は通りの突き当たりにあった。


再建されている。


綺麗に。


完璧に。


そして――完全に空っぽだった。


門の前で立ち止まる。しばらく見つめる。何かが変わるのを待つように。


何も変わらない。


門を押すと、金属が軋む音がした。その音は、ほんのわずかに長く引き延ばされる。


中へ入る。


芝は整えられている。だが生活感はない。家は無傷で、完璧だ。


完璧すぎる。


それが問題だった。


ここは廃墟ではない。


――置き換えられている。


カイトは玄関へ向かう。


鍵はかかっていない。


いつもだ。


中へ入る。


静寂。


空虚ではない。


重い静寂。


耳を圧迫し、肺を満たし、胸に沈み込む。音がないのではない。


音の代わりに、何かが存在している。


カイトはリビングへ進む。


足音が響く。


孤独に。


中央で止まり、


――座る。


いつもの場所。


毎日同じ。


「……どうして」


囁きは、形になりきらなかった。


答えは来ない。


決して。


目を閉じる。


しばらく――


何もない。


だが――


閃き。


悲鳴。


引き剥がされる手。


闇。


「助けて――」


カイトは目を見開いた。


呼吸が乱れる。


「……やめろ」


顔を押さえる。


「俺は……俺は……」


言葉は崩れた。


それは言葉ではない。


もっと重い何か。


未完成の何か。


その時――


背後から、足音。


カイトの体が硬直する。


「……何だ」


ゆっくりと振り向く。


入口付近に、男が立っていた。


背が高い。

落ち着いている。

見覚えはない。


だが――敵意はない。


「誰かいるとは思わなかった」


穏やかな声。


カイトは見つめる。


「……誰だ」


男はためらいなく歩み寄る。まるでここが自分の場所であるかのように。制服から学生だと分かる。だが、どこか違う。


――認識している。


「それはこっちの台詞だな」


視線を巡らせ、再びカイトへ。


「……ここ、よく来るだろ」


問いではない。


断定。


カイトは答えない。


「この場所は妙だ」


男は壁に触れる。


「直されている。修復されている。完璧に」


間。


「それなのに――誰も住んでいない」


沈黙。


「……関係ないだろ」


男は薄く笑う。


嘲りではない。


確信。


「かもな」


そして――


「だが妙なのはそこじゃない」


カイトは正面から見た。


「……何が言いたい」


「その夜のこと、ほとんど覚えていないだろ」


体が強張る。


「……どうしてそれを」


「覚えていないようにされているからだ」


沈黙。


「……何だって?」


「封じられている」


「精神封印だ。記憶を抑制する術式」


カイトの呼吸が変わる。


「……なんでそんなことを」


「生かすためだ」


「……これが?」


乾いた笑い。


「これが生きてるって言うのか」


「違う」


「これは干渉の残骸だ」


男は近づく。


「お前の家族を襲ったのは何だと思う」


「……分からない」


「“何”じゃない」


目が細くなる。


「“悪魔”だ」


空気が変わる。


「……悪魔?」


「ああ」


「この世界の外側の存在だ」


心臓が鳴る。


「……じゃあまだ――」


「死んでいる」


即答。


冷たい。


絶対的。


カイトは立ち上がる。


「決めつけるな!」


「……そうだな」


「だが結末は見てきた」


沈黙。


拳が握られる。


「……なら確かめる」


男の表情が変わる。


「調べる気か」


「ああ」


迷いはない。


「なら手を貸せ」


間。


「……いいだろう」


「だが覚悟しろ」


「気に入る答えは出ない」


彼は手を上げる。


一瞬、光が走る。


鋭く、電気的に。


「ただの学生じゃない」


光が消える。


「イツキだ」


「雷刻術士」


空気が動く。


二人は外へ出る。


そして――


重くなる。


急激に。


「……感じたか」


「……何が」


沈黙。


声。


どこからでもない。


「……生き残りが戻ってきたか」


家が――


見ている。


待っている。


ずっとそこにいた何かが。


――


その声は空間を通らない。響かない。ただ存在する。


「……動くな」


イツキの声が低く響く。


空気が沈む。


「カイト……こいつ……血の匂いが濃すぎる。下がれ」


音。


湿った引きずる音。


扉が開いている。


闇。


重く、濃い。


そこから現れる影。


歪んだ肉体。


広すぎる笑み。


「……見つけた」


カイトの呼吸が止まる。


「お前……」


「十年ぶりだな」


イツキが前に出る。


「下がれ」


術符が光る。


「隔離」


「反射」


「断絶」


世界が歪む。


鏡のように裂ける空間。


「結界だ」


戦闘。


雷。


衝撃。


効かない。


そして――


反撃。


圧倒。


血。


視線が向く。


カイトへ。


「覚えてるか?」


拳。


止められる。


そして――


噛み砕く。


「母親はよく叫んだ」


「父親は無駄に抗った」


「だが……あの友達は面白かった」


「……レン」


笑い。


殴打。


視界が崩れる。


声。


家族。


責める声。


崩壊。


――そして


世界が変わる。



---


温もり。


光。


食卓。


笑い声。



---


カイトは座っている。


夕食。


母。


父。


いつもの光景。


あの夜と同じ。


「……母さん?」


笑顔。


「冷めるわよ」


違和感。


そして――


壁に亀裂。


黒い線。


扉。


完全な黒。


誰も気づかない。


脈打つ。


そして――


声。


「これが……お前の復讐か?」


空気が砕ける。


幻が揺らぐ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第2章では、カイトの日常と過去、そして“あの夜”に繋がる違和感を描きました。

そして、物語はついに現実から一歩外れた領域へと踏み込み始めます。


カイトが見ているものは現実なのか、それとも記憶なのか。

そして、彼が手にしてしまった“何か”とは一体何なのか。


まだすべては明かされていません。


ここから物語はさらに加速していきます。

戦い、過去、そしてカイト自身の変化——


ぜひ、次の章も読んでいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
この章で一気に物語に深みが出てきた感じがしました。超常的な要素も出てきて、ずっと緊張感が続いていて良かったです。 主人公の混乱とか恐怖もリアルで、すごく感情移入しやすかったです。 新しく出てきたキ…
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