第7話 聖女の皮を被った悪役令嬢
一方、悪役令嬢の魂が入った聖女は、とんでもない事態を引き起こしていた。
かつて聖女セシリアとして知られた女性は、今や王国で最も恐れられる存在となっていた。
転生した彼女は、この新たな力と立場を最大限に「楽しんで」いた。
「ふん、これが聖女の力か。なかなか悪用し甲斐があるわね」
エリザベスことセシリアは、宮殿のバルコニーから下界を見下ろしながら、いたずらっぽく微笑んだ。
かつてのセシリアは慈悲深く、誰に対しても優しい微笑みを絶やさない聖女だった。
今の彼女も笑顔を絶やさないが、その笑みの裏には計り知れない悪意が潜んでいた。
ある日、セシリアは豪華な馬車で貧民街を訪れた。人々はかつての聖女の慈悲を期待して集まってきた。
「皆さん、今日は特別な施しを用意しましたわ」
セシリアは優雅に手を振り、従者たちに合図を送る。
彼らが運んできたのは、高級な毛皮のコート、宝石の装飾が施された食器、そして絹のドレスだった。
「ただし、これらは全て、あそこの商人ベルナール氏から『頂戴』してきた品物ですわ」
セシリアはにっこり笑いながら、街の中心にある高級商店を指さした。
「感謝するなら、私の代わりにその商人に文句を言いなさい。彼が値段をつり上げたせいで、皆さんが生活に困っているんでしょう?」
人々は呆然とした。商人ベルナールは確かに悪徳商人として知られていたが、聖女が公然と盗みを勧めるとは!
「でも……聖女様、これは盗難ではありませんか?」
一人の老人が恐る恐る尋ねた。
「まあ、なんてことを!これは『再分配』よ」
セシリアはいたずらっぽくウインクした。
「神様だって、富の偏りを是正したいと思っているはず。私はただ、神の意思を実行しているだけ」
その結果、貧民街の人々は高級品を手にしたが、怒ったベルナール商人が私兵を連れて押し掛けてきた。するとセシリアは、無邪気な笑顔で言った。
「あら、ベルナールさん。あなたの商品がここにあるのは、神の奇跡かもしれませんわ。もしかすると、天があなたの商習慣を戒めているのかも」
彼女がそっと手を上げると、聖なる光が輝き、商人と私兵たちは目がくらんでしまった。
その隙に、貧民街の人々は戦利品を持って逃げ出した。
のちに「寄付させた」商人ベルナールが、逆に貧民たちから感謝されているという奇妙な噂が広まっていた。




