3.剣の在処、誓いの場所/gold
お久しぶりです。1か月ぶりの更新です。2話投稿しています。1話目。
──よくもまあ、そんな次から次へと罵詈雑言が飛び出してくるものだ。
副団長たるもの、そして幼少より騎士団の過酷な訓練に耐えてきたミーネですら気が遠くなりそうな、分かりづらく(或いは分かりやすく)罵倒する貴族たちの言葉に辟易する。査問会が始まってもう半刻ほど経過しているが彼らの口から流れ出る批判の言葉は留まるところを知らなかった。人の口はかくもこう流水のように次々言葉を吐きだせるのだなといっそ関心すらする。
オズワルドもエドワルドも何も言わず、ただ議場で渦巻く批判を眺めているばかりである。本来なら過剰な攻撃はまとめ役たる貴族が抑えるものだが止めることはない。批判をしてこない貴族もそこそこの数はいるようだがそれでも洪水は収まらない。
真綿で首を絞めてくるような状況の中で流石に自身の心が疲弊していくのをミーネは感じていた。それでも心折れずにいられたのはオズワルドがずっと視線を合わせているからだった。王たるもの、おそらくそう簡単に目線に表情を見せることはないのだとわかっていても、その無表情が今は救いだった。
淡々と金鹿は言葉を返す。声色にも、視線にも、感情を乗せず無感動に。虚勢と余裕を携えて。
「……っ、陛下!!陛下からもご不満がございましょう!エドワルド殿下もこの数ヶ月使える腕が一人しかおらず大変苦労されていたと聞き及んでおります!」
「俺は後で言うからいい。……エドワルド、」
「私は今回書記としております故口を慎ませていただきたく存じます、陛下」
「だ、そうだ」
「陛下……!」
後で言う、に若干口の端を釣り上げた貴族が視線を交わすのを見た。しかし、その後の突き放した言い方にほんの少し、戸惑いで議場がどよめく。少しおかしそうに目を細めたオズワルドの瞳の奥に何かを隠したような色があることにミーネは気づいてほんの少し表情を──もともと大して崩れてもいないが──引き締めた。騎士団でエドが無理難題な仕事を回してくるときの表情にそっくりだったからだ。
「まぁ、そろそろいいか。お前たちも喋り通しで疲れただろう。あとは俺が代わる」
「……!」
「おお、陛下……!」
「どうかこの身の程知らずに鉄槌を!」
随分と過激なことを言う。その発言は流石に問題があるのではなかろうか。いくらこの査問会が、貴族がミーネを「吊るし上げる」場だったとしても議会の体を取っている以上、そして書記としてエドワルドが控えている以上不用意な発言は──
まさか、とふと思い至った考えに目を見開いた時だった。
「偽らずに答えろ、国立騎士団副団長、ミーネ」
「、……御意」
「お前の剣はどこにある?」
唇を歪めたオズワルドが静まり返った議場に響く。試されている、と直感でミーネは感じ取った。エドワルドがこちらに向けた表情でここが正念場なのだと理解する。
「……太陽が照らす限り、この国に。朝日に愛されたこの国の──」
脳裏をよぎるのは朝日に染まる王城と城下の街並みだった。白く輝く遠い山並みだった。ずたぼろの靴を履いて王城の扉を叩いた幼少の夜だった。そこからずっと駆け抜けていく中で一つ、消えない想いに火を灯した。
「明日もこの国で生き続ける国民に」
「ほう。王には剣を捧げぬと?」
「忠義は、陛下に。けれど私は民のために剣を振るうのです。……かつて私は明日すら分からない日々に居ました。今回の事件ではなく、もっと昔の話です。……幼心にも明日が見えないというのはこれほど恐ろしいのだと刻まれた記憶があります」
「……。続けろ」
「成長した今、私は剣で人を守れるようになりました。陛下を、殿下を、仲間を、民を。……剣を持つ度に思うことがあります。私が剣を振るうことで明日も生き続けることが出来る人がいるのなら──私の人生はきっとそのためにあったのです」
ふっと光が差し込んだ心地だった。同時に急所を晒しているのだと理解している。それでも隠すことではないし、隠したところできっとこの王は見抜くだろう。それならばミーネにできるのは素直に言葉に乗せ続けるだけだ。偽りのない己の芯を。
「私の剣は民とともに。私の忠義は王家とともに。これは、私が騎士としてエドワルド殿下に名を貰った時から変わらぬ誓いです」
──お前、随分と足が速いな。ああ、噂になっていた。お前が「ミーネ」か。
──なぁ、渾名をつけてやろうか。「金鹿」っていうのはどうだ?お前の脚と髪をよく表しているだろう?
ここに剣があればその場に置いて誓いを唱えるところだが、生憎今の彼女に帯剣は許されていない。簡易な礼にはなるが胸に手を当ててオズワルドを見上げると若干呆気にとられたような視線とかち合った。次第にそれは緩んでふ、くく、と震えていく。
「……陛下」
「ぶっ、くく……!いや、すまん。あんまりにもお前から聞いていた通りだったからな、逆に毒気を抜かれた。お前の過大評価ではなかったのか」
「……オズワルド陛下」
「そう何度も呼ぶな。いや、結構!久々に気持ちのいい宣誓を聞いた──いや、任命式でも聞いたがあれは台本があったからな。お前の言葉でお前の覚悟を聞くのを実は楽しみにしていたんだ」
「……陛下?」
怪訝そうな貴族がオズワルドを呼ぶ。ざわめきどよめく議場が次第に焦りを孕んでいく。いままで優勢だと勝ち誇って嘲笑っていた貴族の顔色がどんどん失われていくのが見えた。
「さて、種明かしと行こうか副団長殿。まず訊こう──この箱は何だと思う?」
それは、まるで悪戯を企む子供のように。歌うように王は口にした。
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