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まもののかどわかし  作者: toe
黎明エンドロール
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4.見定められていたもの/gold

2話目!

箱の中身を聞かれたところで普段議場や査問会と無縁な──正確には縁が生まれるはずだったのに呪いのせいで先送りにされた──ミーネには分からない。


「……分かりません」


「じゃあ予想してみろ。なんだと思う?」


「……。私の進退を問う投票箱でしょうか」


「はは、是非を問うのにこんなに箱が必要か?ヒントをやろう。この中に入っているのは俺への手紙だ。正確には「嘆願書」だな」


「嘆願書……?」


「ああ。内容は何だと思う?」


そう問われても分からないものは分からない。必死になって頭に叩き込んだ法律や日々会議で喧々囂々と繰り広げられている議題をさらうものの心当たりが全くなかった。伏せた視線の上でまた王が噴き出して笑う声がする。もういい、と軽やかにオズワルドはそう言った。


「読み上げよう。……頼む」


そう言えば彼の傍に控えていた侍従が箱から何枚か紙を取り出してオズワルドに差し出す。国の中枢で使うには茶色く、形も不揃いで安っぽい紙のようだった。嘆願書、というからには民からの言葉なのだろうが、粗悪な紙を使うということは貴族でなくあまり紙を使う機会の無い庶民からだろうか。


「「ミーネ様を副団長から辞めさせないでください」」


「……は、」


「「ミーネ副団長には以前命を救われました。あの方のおかげで今の俺があります。あの人が副団長でいることが俺たちの誇りです」」


「……へいか、」


「「ミーネ様は街の見回りでいつも声をかけてくれます。祖母がミーネ様の来訪を楽しみにしておりました。今回の事件で我が事のようにミーネ様を心配しています。また顔を見せてください」」


──こんな言葉、知らない。


驚愕した表情でオズワルドが読み上げる文章を貴族たちが見つめている。思わず視界が潤みそうになってミーネは慌てて下を向いた。あれほど意識していた虚勢も余裕もあったものではないが、それをつつく貴族はもういない。


「と、まぁ……一例を紹介したがこんな感じの手紙が国中から届いていてな。しかも直に俺宛て、エドワルド宛てだ。近衛が頭を抱えていたぞ、中身を検める量が一気に増えたってな」


「……、陛下」


「おっと、謝るなよ。あとで近衛の連中に何か差し入れでもしてやれ。……先程自身の剣は民のもとにあるといったな、ミーネ」


「っ、はい」


「これが「結果」だ。お前が剣を捧げてきた結果だ。確かに実を結んでいたよ、それがこの箱の列だ。あぁ、中には貴族からもあるぞ?確か差出人は「マスクウェル・シュヴァリエ」──そうだな?」


マスクウェル、という名にはうっすらと聞き覚えがあった。アダンの祖父でありかつて議会で辣腕を振るっていたという齢八十にもなろうという老父である。会ったのは十年ほど前、アダンに連れられて彼の実家で余暇を過ごさせてもらって、その時に話した以来だが未だに元気にしているらしい。


「マスクウェル様が……直々に……」


「まったく、どこから漏れたんだろうな?あの爺は手紙だけじゃ飽き足らずわざわざ領地から登城して説教しに来たぞ?王家がお前を見限ろうとしてるなんて根も葉もない噂だ、耄碌したなあの爺も」


「……陛下、お言葉ですが」


「あぁすまん、息子のお前がいたな──許せ、パスカル。まぁわざと踊ったんだろうよ、あの爺が考えそうなことだ。……ミーネ、毎日正門にお前に騎士を辞めさせるなって嘆願するやつが来ているのも知らんだろう、お前の耳に入れないようにしていたからな」


「存じ上げておりません……大変困惑しております」


「だろうな。その顔が見たかった。同時に俺は自覚をさせたかった」


嘆願書を侍従に返すと、オズワルドは一転して真面目な顔で椅子に座りなおす。ぴりりとまた空気が張り詰めた気配に零れそうな涙をぐっとこらえてミーネは顔を上げた。真摯な王の視線がそこにある。


「エドワルドから相談されていたんだ。お前は騎士として過ごしていく中で頼もしくなっていくが一向に自分の身を顧みない。隊長という首輪をつけても真っ先に飛び出していく。実力が伴っているからいいものの……いや、実力がある分一層自分の重さを理解していないとな」


「……申し訳ありません」


「ああ。それは謝れ、とことん。エドワルドにも仲間にも謝り倒せ。だから副団長の首輪をつけた。その矢先のこれだ──まぁ、事情が事情だがそれでもお前の枷には軽すぎるんだと思ってな。だからお前の剣の重さを思い知らせるためにこの場を設けた。お前にも、ここにいる庶民なんぞと侮ってる連中にもな」


付け足されたオズワルドの言葉に慄く声が議場に響いたがもうミーネに気にする余裕はなかった。


──思えば。手の中で重さを増していく剣や肩書きを飼い慣らすことばかりで自分の行動がどう映っているか考えたこともなかった。


例えばどれだけ救われていたかとか、喜んでもらっていたかとか、心配をかけていたかとか。目の前でシランが自分の言葉で立ち直ったのを見ていたにも関わらず、相変わらず自分は鈍感が過ぎる──だから、こんな風に皆が必死になって自分を守ろうとしてくれていたのだと知った。


目頭が熱い。熱くて熱くてたまらない。けれどここで泣くわけにもいかなくて必死にミーネは涙をこらえる。それをただ優しく見つめるエドワルドがいることに気づきもせず。


「後でこの嘆願書はお前の部屋に運ばせるから全部目を通しておけ。そして剣以外の重さを叩き込め。いいな?」


「御意」


「……では、騎士団副団長ミーネ殿への査問会は以上とする。エドワルド、記録は取っているな?」


「はい、オズワルド陛下」


「では掃除の時間と行こう。……ミーネは退室しろ」


「御意」


一度、その場に膝をついて深々と首を垂れる。再び顔を上げた時そこにはもう面倒そうに手でミーネを追い払う王と退室を促す侍従の姿しか見えなかった。エドワルドはこちらも見ずに記録を一から整理している。


そうして出た議場の外、廊下でぱたりと涙が落ちる。廊下とて無人ではないし、議場の入り口には近衛騎士が警備にあたっているけれど、そんなことはもう関係がなかった。繋がれた首輪の重さがただ心地よくて優しい。


重い扉が閉じられる直前に悲痛な貴族の声が聞こえたけれど、もうミーネには関係ない事象だった。

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