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まもののかどわかし  作者: toe
Goodbye, Maze
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22.最優の騎士と置いてけぼり

3話同時投稿です。2話目。

アダンが医務室を訪れた時、もうシランは目を覚ましていた。未だ右目は開かないのか包帯を巻き直して、青白い頬を晒して淡々と手紙を読んでいる。アダンに気づくと赤い瞳がぱちり、瞬いて次いでぺこりと頭を下げられた。それに手を振って応えながら枕元に近づいていく。……この国に来てまだほんの僅かしか経っていないのに、既にベッドサイドのボードにはオリドやメイドたちからの手紙が置かれていた。


「おはようございます、アダン様」


「あぁ。待ち侘びたぞ、シラン。……調子はどうだ?」


「右目が重いです。なんせ妖精……生きた妖精を閉じ込めた宝石を突っ込まれたので」


「……よく分からん感覚だ」


「一生分からないほうがいいです。今にも自我が塗りつぶされそうなんですよね」


「……、」


なんと返すべきか迷って思わず言葉に詰まる。そんなアダンの様子に肩をすくめてシランは笑うと疲れたのかぽすんと枕に背を預けた。どうぞ、と差し出されるままに手紙を受け取る──例の、シキミからシランに宛てられた手紙だった。いいのか、と視線で訴えるアダンに魂が抜けたように天才は笑う。


「……僕がシキミを追ってた理由、彼女が持ってた妖精石を取り戻す必要があったんです。取り戻して、……そのままル・ティーヴァに戻って、研究を受ける予定で」


「研究?」


「妖精魔術師がどうすれば媒体無しで魔術を使えるか。……僕、実験対象で選ばれてたんですよね。アカデミーを挙げた大々的な研究でした」


「──、」


「……とはいえアカデミーの能力の低さは知れてます。だから僕が主導して自分で術を組み立てて行う予定でした。……シキミ曰く、僕はそこで廃人にされる予定だったんですって。術を発動する直前に魔術式を書き換えられて。天才は邪魔だからって」


「……、シキミも同じことをしているだろ」


「でも僕が処理できる範囲です。アカデミーじゃこうはいかなかった。シキミが動こうとすれば絶対に邪魔が入る上に、アカデミー全部が要は敵なわけです。だから僕をアカデミーから……ル・ティーヴァから出す必要があった。……僕が、僕のままでいるために」


掌に彼がいつも付けている称号が握られているのに気がついた。それが、二つ分。組み合わせて一つになる称号らしいということにはっとする──ル・ティーヴァで唯一対になる称号。二つに分かれたアヴァロンの称号をひとまとめに握りしめて、泣きそうな顔でシランは笑う。


「……オルヴェンの人間は心根が綺麗な人間が多いから、預けられたらいいとずっと思ってたって。何かあれば魔女もいるし、騎士団はあるし、人の出入りも激しいからここが合わなくても他の国に逃げやすい。で、ミーネ様と行動した僕の噂を聞いて、僕がここにいることを選べば良いって思ってたって」


「……シラン、」


「……僕、」


不意に声が涙に濡れる。笑い顔のままだんだん表情が歪んで、唇が震える。ひく、としゃくり上げた肩が震えて、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。一層強く握りしめた掌で称号がひしゃげて鈍い輝きを放っている。


「僕、……守られてばっかりだ」


「……シラン、」


それは君がまだ子供だからだろう、とは言えなかった。

ミーネにも守られてばかりだったと語っていた。無力さを痛感したと。今度こそ役に立ちたいと言っていた。騎士団の捕縛作戦で確かに彼は役に立っていた──けれど、幕引きがこれでは救われるものも救われない。結局彼はまた守られていたことに違いないのだから。彼の知らない深い深い部分で、シキミはライバルたる彼に、称号の片割れたるシランに何も言わずに動いていた。


自分だったら、それはあんまりにも寂しい。ミーネが自分を守るために何も言わずに姿を消して、やっと再会できた矢先に目の前で存在ごと失うなんて耐えられない。きっと子供だからとかではなくて、きっとシランが一番今悲しんでいるのは──


「話して欲しかったよな」


「……はい」


「……相談、して欲しかったよな」


「……、……は、い」


どうしても分からない時は話せばいいとエドは言った。その重さがじわじわと今になって両肩にのしかかる。きっと二人は話したんだろう。その上で一番知りたいことを知れないままで、あの結末になって泣いているのだろう。どうして一人で動いたのかなんて何がなんでも問い詰めたいはずだ。けれど──もう話せなくなったら、どうしたらいい?


「……手紙、返すよ。……これは俺が読んでいいものじゃない」


「……っ、でも、捜査、とか、」


「リーズ家が全部吐いた。シキミは雇われただけだって俺たちも分かってる。……これはお前だけが読んでいいものだ、シラン」


中身を見ないように返した手紙を受け取って、はくり、シランが口を動かした。けれどそれは言葉にも音にもならずに消えて、その代わりというように手に力を込めてぐしゃりと握りしめる。そうしてやっと、少年は声をあげて泣き出した。天才なんて見る影もない、ただ友達の喪失を悲しむ少年がそこにいた。

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