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まもののかどわかし  作者: toe
Goodbye, Maze
46/76

21.最優の騎士と事件の終わり

3話同時投稿です。1話目。

──王城、騎士団執務室。


「……で、リーズ家は捕縛はしたが魔術師は取り逃がした、と。……取り逃がしたでいいのか?」


「……捕縛できなかったという意味であれば。正しくは消された、が正しいのですが……」


「魔女の手によって、な。シランの様子は?」


「あれから高熱を出していて寝込んでいます。医者の話だと血を流しすぎたのと右目がおかしなことになっているらしくて……普通ならあれほどの傷を負っていれば死んでいてもおかしくないと」


──あのあと。まるで何事も無かったかのように魔女は姿を消した──床を這いながら引き止めるシランの言葉を聞くことも、彼の姿に目をくれることもなく。残されたのはあれほどの風が部屋の中で巻き起こっていたにも関わらず一部たりとも動いていない家具と、啜り泣くヴィオレッタと、呆然する自分たち騎士と使用人だけだった。

いち早く我に返ったアダンが右目から血を流しながら慟哭するシランを抱え上げ、伝令の騎士にヴィオレッタを連れて王城へ戻るように指示を出す。魂を抜かれたようなリーズ卿とヴィオレッタを王城まで移送し牢に入れて、移動中に気絶したシランを医務室へ運ぶ。無傷の騎士団に対したった一人、血まみれになった少年に医者はひどく驚いたようだった。閉じられた薄い瞼の向こう、歪な右の眼球が見てとれた。血とも涙とも判別がつかない赤い雫が一筋、流れ続けていたのをアダンは強烈に記憶している。


「……リーズ親子の様子はどうだ?」


「アルバート・リーズも寝込んでいます。ヴィオレッタ・リーズは……腕の傷を治療しましたが血が止まらなくて。……二人とも動揺が激しく、取り調べは時間がかかりそうです」


報告を聞いたエドは一つため息を吐くと握っていたペンを机に転がして眉間を揉んだ。アルバート含めヴィオレッタの企みを阻止できたのは大きい──けれど、その代償は大きすぎた。協力してくれた少年の心をここまで傷つける展開になるなんて、一体誰が予想できただろう。否、きっと自分達は予想しなければならなかった──たらればを繰り返すエドとアダンの表情は固く暗い。


夕闇に染まり始めた外は空を血の色に染めている。その昏さがなおのこと追い打ちをかけていた。今回の捕縛を受けて今も慌ただしく駆け回る騎士団の足音を聞きながら、アダンは暫しの沈黙の後口を開く。差し出した掌にあるのは最後の最後、シキミがシランの服に潜り込ませていた丸まった紙の束だ。


「……シキミ・ロンの真意は分かりません。分かりませんが……シランにこれを遺していきました」


「手紙か?」


「それと首飾り……おそらくシランが付けているものと同じ、ル・ティーヴァの称号です。シランを医務室へ運ぶ際に拾いました──読みますか」


「……いや。……最初に読むのはシランだろう。シキミ・ロンはリーズ家に雇われていただけの魔術師だ。俺たちが追う真実に彼女はもういない」


「御意」


「……取り調べは早急に進めろ。弱っている今ならつけ込めば腹の底も吐くかもしれん。特にヴィオレッタ・リーズの取り調べはお前が当たれ」


「……!」


「お前が、最後まで責任を取るんだ。アダン」


命じるエドの声は淡々として、手段を選ばない騎士団長の色をしている。奥歯を噛み締めてアダンは深く頭を下げて退室した。己の積み立てた業に首が絞められているようだった。


「……ミーネ、……お前がいれば、お前がついていれば──」


こんな結末は迎えずに済んだのだろうか?そう呟く声は騒がしい廊下に紛れて消えた。


♢


罪を認めたヴィオレッタの口は軽かった。今まで噤んでいた鎖から解き放たれたように、ミーネを殺害するために父親と立てていた計画を一から十まで明かしてくれた。

始まりはミーネが副団長に選ばれたことへの嫉妬だった。その折にル・ティーヴァから出奔した魔術師と接触した。疎ましい父と同時にミーネを葬る計画を立てた。ミーネの記憶を奪ったのも、周囲から記憶を消したのも完全に彼女の痕跡を消すためだった。その呪いはミーネ自身に破られて、その時点で父と魔術師を捨てる選択をした。彼女の腕を蝕んだあの傷は本来はミーネの首を斬り落とす目的でシキミに作らせたものらしい。

どれだけ自分がミーネを疎ましく思っていて、アダンに焦がれて追い続けていたのかも滔々彼女は語り続けた。取り調べているのは自分なのに、逆に追い詰められる心地になるのはきっと自分に非があると強く感じているせいだ。ヴィオレッタの語り口調が上手いのもあるのだろうが。


アルバート・リーズは最後まで頑として認めなかったらしい。最終的にエドが直々に取り調べ、裁判官のように証拠を並べ立ててやっと罪を認めたらしかった。使用人への暴力も罪に問われるらしい──リーズ家が欠けた議会は多少円滑に物が進むようになったとはエドワルドの言である。今回古株の罪が暴かれたのもあって他の貴族も多少は大人しくなったらしい。


あれから目まぐるしく二週間が過ぎた。ミーネもシランもまだ目を覚まさない。日に日に山と積まれていく見舞いの品を日持ちするものとしないものに振り分けるのが日課になった。眠る二人の顔を見て、次第に色を取り戻していく様に安堵するようになった。特に巻かれた包帯の上からでもわかるほど歪な様相だったシランの右目は元のまるさを取り戻していて、最近は包帯のない顔も見えるようになっている。


そうして、待ち続けること、春。雪はすっかり溶けて陽光が柔らかく城内を照らしていた日に少年はついに目を覚ましたのだった。


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