4.天才魔術師の再共闘
お待たせしました!
本を漁りに漁ってエドが戻ってきた頃には茶菓子とポットは空になっていた。それを見たアダンがチリンと鈴を鳴らしてメイドを呼ぶ。その横で訥々とエドは語り出した。
アルバート・リーズ卿。齢四十歳にしてリーズ領を治める領主。貴族院の中では卿本人は新参であるものの、血としては古くから政治に貢献してきた名家である。先代であるガルロット氏は政治家としても領主としても辣腕を振るっていたが、アルバート自身はパッとしない。なお、今年20になる娘がおり婿取りに奔走しているらしい。
「ということなんだが、シラン殿、率直に言おう」
「はあ」
「俺はミーネを狙ったのはアルバートだと思っている。しかし全てを消す魔術を使う魔術師を従えている以上一筋縄では行かんだろう」
「でしょうね」
「シラン殿に依頼をしたい。案内役としてアダンを付ける。この件、調べていただけないだろうか」
そう言って、エドは頭を下げた。見ればエドの後ろで待機していたアダンも同様に膝を折って深く頭を垂れている。茶菓子とお茶を足しにきたメイドがギョッとするのを視線の端にとらえながら、シランは口を開いた。
「僕が選ばれたのは……犯人と同じ魔術師でミーネ様と組んでたからですか」
「そう解釈してもらって構わん。それに君は頭の回転が早そうだからな」
「天才ですので。……そうですね」
手に持ったカップにシランは視線を落とす。メイドが足してくれて改めて注いだ紅茶が自分の顔を映して揺らめいている。正直なところ、改めて依頼されなくてもシランの意志は固まっていた。ミーネの味方であると公言した以上、その宣言を覆すような真似はしない。目下の課題はあるものの、おそらく必要だと訴えれば彼らはそれを用意してくれるだろう。
「分かりました。引き受けます。僕もミーネ様にもらった恩は返さなきゃいけません」
「……!そうか!では、」
「ただ、一つ、……二つ条件があります。一つ、屑宝石でいいのでこの袋がいっぱいになるほど譲ってください。僕の魔術行使には宝石が必須なので」
「構わん、だが屑宝石でいいのか?本当に小さいぞ?」
「そこでもう一つです。……この城の地下に泉が湧き出る場所があるはずです。そこを教えてください」
ぴ、と袋を見せながら指を二本立てるとエドは心得たというように頷いた。しかし二つ目の条件にあからさまに顔色を変える。隣に控えるアダンはいまいちよくわからないという顔をしているのを見ると、おそらく相当城の秘密の根幹に関わるのだろう──それにしては国の防衛を担う騎士団の副団長が知らないのは奇妙な話だが。例えば抜け道だとか、そういうのがあるのだろうか。
「……泉があることをなぜ知ってるか聞いてもいいか?」
「魔力がこもってるからですね。城に入った時から地下から湧いてくるのを感じていましたし、オルヴェンに巨大な竜脈……魔力の流れがあるのはル・ティーヴァでは有名な話です」
「ル・ティーヴァでその泉が城にあることは周知の事実なのか?」
「それは否です。……あー……知ったからと言ってル・ティーヴァに情報持ち帰って戦争起こしたりはしません。ただその屑宝石を強化したいだけで……もし不安なら制約魔術をかけてもいいです。誓います」
以前ミーネに語っておいて、五百年の歴史とル・ティーヴァという国の性格を忘れていた。その手に収められるものは手にしないと気が済まない性質の国。この城の人間は国境ほど自分を嫌悪の目で見ないけれど、その根底にはしっかりル・ティーヴァに対する警戒心が染み付いている。そのあたりの警戒を怠らないのはさすが騎士団の長だとシランは感心した。武勇に秀でる体格ではないが確かに彼の目は団長として確かなようだ。
「……。……いや、魔術は必要ない。ミーネが信頼したなら君はこちらの不利益になることをしないだろう」
「あの人の評価、ずいぶん高いんですね」
「今の騎士団の若手は彼女が育てた後進が半数を占めている。性根も見込みもありそうな奴らばかりでな。人を見る目があいつはずば抜けてるんだ、悪心があれば見抜いているだろう」
「記憶がなくても?」
「ああ、きっと。断言できる」
「……自分で命を縮めるようなお人好しですよ?」
最後のはもう皮肉だ。拗ねるような口調でそう問いかけるとエドはただ笑って、君も救われただろうと口にする。そう言われてしまうとシランにはもう反論のしようがない。
「となればまず宝石の調達だな、服飾のメイドに聞いてみるか。アダン、頼んだ」
「了解です」
「地下の泉には兄貴に一度話を通しておかなきゃならん。早く取り付けられるように努力はするがまた待たせることになるな、先に謝っておく」
「じゃあその間ミーネ様の看護を……兄貴?なんで?」
不意に出てきた気安い単語にシランが目を瞬かせると、エドはしまったという顔をした。うろりうろりと視線が泳いで、それはだな、と頬を掻く。部屋を出る支度をしていたアダンがその様子を見かねたのか掌でエドを示すとこう言った。
「エド騎士団団長改め、オルヴェン王国王弟公爵、エドワルド・レガリア殿下です」
「……はぁ?!」
「すまん、名乗るタイミングを失った。エドワルドだ、よろしく頼む」
「はぁあああああ?!」
城中にシランの叫び声が響いたのは言うまでもない。
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