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40代IT社長の俺がギャルゲーの悪役に転生したけど、主人公が頼りないので「大人の包容力」と「経済力」でヒロイン全員幸せにします  作者: U3


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第7話 渋谷の城と黄金の鍵

 昼休み。俺は教室の喧騒を離れ、中庭のベンチで経済誌に目を通していた。

 春の陽気が心地よい。

 だが、その平穏は、聞き覚えのある甲高い声によって破られた。


「だーかーら! 俺、今日は部活のミーティングがあるんだって! 宿題やってる暇ないの!」


 植え込みの向こう側。

 日向翔太が、一人の女子生徒にプリントの束を押し付けようとしていた。

 相手は、高城藍。

 桜木マナの親友であり、クールで知的な雰囲気を纏った美少女だ。

 切り揃えられた黒髪のボブカットと、少し吊り上がった涼しげな瞳が印象的だ。クラスでも「高嶺の花」として密かに人気があるが、今はその美貌が冷ややかな軽蔑の色を帯びている。


「……日向。自分の宿題くらい、自分でやりなさい」

「ケチだなぁ高城は! マナなら『しょうがないなぁ』ってやってくれるのにさー」


 翔太は悪びれもせず、マナの名前を出した。

 藍の瞳が、スッと細められる。


「……あんたね。マナはあんたの母親でも家政婦でもないのよ」

「はあ? 何マジになってんの? 俺たち幼馴染だし、助け合うの普通だろ?」

「それは助け合いじゃなくて、搾取よ」


 藍はピシャリと言い放った。

 正論だ。だが、翔太にはその言葉の真意が届かない。彼は「なんだよ、付き合い悪いな」と不満げに口を尖らせている。


「……私はマナほど甘くないわよ。自分のことは自分でなさい。これ以上マナに甘えるなら、私が許さない」


 藍は翔太を睨みつけ、その場を立ち去った。

 残された翔太は「ちぇっ、なんだよアイツ」と舌打ちをしている。

 植え込みの陰で、俺は静かに溜息をついた。

 翔太の無自覚な甘えと、それを許容してきた環境。

 だが、藍のような存在がいることは、マナにとっても救いになるだろう。俺が直接手を下さずとも、彼女たちの意識は確実に変わり始めている。


 放課後。

 俺は校舎裏手にある体育教官室へと向かっていた。

 城戸隼人が、体育教師の鷹森恒一に呼び出されたのを目撃したからだ。

 鷹森は、隼人を目の敵にしている。

 単に、隼人の反抗的な態度が鷹森の歪んだ支配欲を逆撫でしているのか、それとも別の因縁があるのか。


 教官室のドア越しに、怒鳴り声が聞こえてくる。


「おい城戸! なんだその態度は! 教師に対する口の利き方を知らんのか!」

「……っせーな。シャツ入れただろ。他に何があんだよ」

「その目だ! その腐った目が気に食わんと言ってるんだ! ……陸上部崩れの落ちこぼれが、粋がるのもいい加減にしろよ?」


 ドン、と机を叩く音。

 俺はドアの隙間から中の様子を窺った。

 鷹森が隼人の胸倉を掴み、壁に押し付けている。

 明らかな体罰、いや暴行だ。

 だが、隼人は手を出さずに耐えている。ここで手を出せば、退学になることを理解しているからだ。


「……離せよ。俺は何もしてねぇ」

「口答えするな! ……いいか、俺はお前みたいなクズを更生させるために指導してやってるんだ。感謝しろ!」


 鷹森の顔には、嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

 教育者の仮面を被った、ただのサディスト。

 俺は鞄に手を入れたまま、忍ばせておいた小型のマイクロカセットレコーダーの録音ボタンを押した。

 だが、今ここで飛び込んでこの音声を突きつけても、鷹森は「指導の一環」と言い逃れ、学校側も揉み消す可能性が高い。

 もっと決定的な証拠、彼を社会的に抹殺できるだけのカードが必要だ。

 俺は録音を続けながら、隼人が解放されるのを見届け、静かにその場を離れた。


 夕方。

 若者たちの熱気と喧騒が渦巻く渋谷の街。その一角、桜丘町にあるオフィスビルの一室に俺はいた。

 まだ什器もまばらなフロアだが、ここが俺の新たな拠点、「レオ・キャピタル」の作戦司令室となる。

 窓の外には、建設中のセルリアンタワーのクレーンが見える。間もなくこの一帯は「ビットバレー」と呼ばれ、日本のITベンチャーの中心地となる。


「社長。採用予定のエンジニアですが、先ほど承諾の連絡が入りました」


 秘書の如月舞が、淹れたてのコーヒーをデスクに置きながら報告する。

 今日の彼女はライトグレーのパンツスーツ姿だ。知的な美貌と身体のラインに沿ったスーツのシルエットが、無機質なオフィスに彩りを添えている。


「釣れたか。条件は?」

「年収1,000万円。加えて、プロジェクトの裁量権を保証しました。……大手SIerからの引き抜きとしては、破格かと」


 舞が少し心配そうに眉を寄せる。

 無理もない。1999年の今、ネットベンチャーのエンジニアといえば学生バイトか独学のアマチュアが主流だ。そこに1,000万円プレイヤーを投入するのは常識外れと言える。

 だが、当時のネットサービスはアクセスが集中すればすぐにサーバーが落ちる脆弱なものばかりだ。俺が必要としているのは、OracleデータベースとUNIXを使いこなし、堅牢なインフラを構築できる「本物のプロ」だ。


「安いものだ。ストックオプションという不確かな餌ではなく、現金で誠意を見せる。それが大人の流儀だ」

「……承知いたしました。社長の慧眼を信じます」


 舞は深く一礼した。

 次に、俺はデスクの上に置かれた重厚なアタッシュケースを開いた。

 中には、鈍く光る延べ棒が鎮座している。

 少し前から明智に買い集めさせていた金地金だ。総額4,000万円分。


「舞。これを貸金庫へ。契約期間は無期限だ」

「……はい。いつ取り出しますか?」

「25年は忘れておくつもりだ。鍵と暗証番号は厳重に管理し、俺が『開けろ』と言うまで封印しておけ」


 2024年には、この金塊は10倍以上の価値を持つことになる。これは投資というより、タイムカプセルだ。

 アタッシュケースを閉じたところで、俺の携帯電話が鳴った。


 夜。

 ビジネスの打ち合わせを終えた俺は、都内のとあるファミリーレストランの駐車場に車を停めさせた。

 窓ガラス越しに見える店内の隅の席に、一人の少女の姿がある。

 天童くるみだ。

 俺が手配しているボディーガードから「仕事終わりに一人でファミレスに入った」と報告を受け、迎えに来たのだ。

 昨日の逃亡劇から一夜明け、彼女は仕事に復帰していたが、深夜のファミレスで一人、元気なくサラダをつついている姿は痛々しかった。


「……行くぞ」


 俺は車を降りて店内へと入り、くるみさんの席の向かいに座った。


「えっ……!? レ、レオ!? なんでここに……」

「こんばんは、くるみさん。護衛のスタッフから連絡を受けましてね。……こんな時間までお疲れ様です」

「あ、あんたねぇ……ストーカーみたいなことしないでよ」


 彼女は呆れたように言ったが、その声には安堵が混じっていた。


「そんな草だけ食べていては、身体が持ちませんよ。出ましょう」

「えっ、ちょっと、まだ食べて……」

「アイドルの身体は資本です。ちゃんとしたものを食べさせますから」


 俺は少し強引に彼女を立たせ、会計を済ませて店を出た。

 待たせていたハイヤーに乗せ、向かったのは麻布にある俺の行きつけの鉄板焼き店だ。個室を手配させてある。


 やがて目の前の鉄板で焼き上げられ、提供されたのは、最高級の黒毛和牛のステーキだった。

 香ばしい匂いが漂う。


「……なによこれ。めちゃくちゃ美味しそうじゃん」

「さあ、食べてください」


 くるみさんは躊躇いながらも箸を伸ばし、一口食べた瞬間、瞳を輝かせた。

 昨日のような怯えた顔や、ファミレスでの疲れた顔ではない。年相応の、幸せそうな笑顔だ。

 俺はその様子を見守りながら、本題を切り出した。


「くるみさん。……俺が新しく立ち上げる事業のCMに、くるみさんを起用したいと考えています」

「え? 新しい事業?」

「モバイルオークションとECのサイトです。携帯電話一つで、世界中の物が買えるようになる。……その未来の顔に、くるみさんが相応しい」


 俺は企画書をテーブルに置いた。

 くるみさんは箸を止め、真剣な眼差しでそれを見る。


「……あたしで、いいの? もっと有名な女優とかじゃなくて」

「くるみさんがいいんです。くるみさん自身が持つ『強さ』と『親しみやすさ』が、新しい文化を広める鍵になる。……引き受けてもらえますか?」


 彼女は少し考えて、ニカッと笑った。


「……いいわよ。その代わり、ギャラは弾んでよね!」

「交渉成立ですね」


 食後。

 店を出ると、夜風が火照った顔に心地よかった。

 待たせていたハイヤーのドアを開け、俺はくるみさんに乗り込むよう促した。


「あれ? レオは乗らないの?」

「俺は別件がありますので。運転手には、くるみさんの自宅まで真っ直ぐ送るよう指示してあります」

「……えっ、もう帰るの? せっかくCM決まったんだし、どっかでお祝いとか……」


 くるみさんは少し不満そうに唇を尖らせたが、俺は首を横に振った。


「言ったでしょう、身体が資本だと。今日のところは帰って、泥のように眠ってください。……疲労困憊のタレントを夜の街に連れ回すような、三流のマネジメントはしませんよ」


 俺の言葉に、くるみさんは一瞬きょとんとし、それから可笑しそうに吹き出した。


「ふふっ……なにそれ。ほんと、口うるさいお父さんみたい」

「オーナーとしての当然の配慮です」

「はいはい、わかったわよ。……じゃあ、お言葉に甘えて今日は寝させてもらうね」


 車に乗り込んだくるみさんは、窓から顔を出し、俺に向かって最高の笑顔を見せた。


「ねえ、レオ。……あたし、頑張るから。あんたが用意してくれたステージで、誰よりも輝いてみせる」

「ええ。期待していますよ、くるみさん」


 ハイヤーが走り去るのを見送りながら、俺は小さく息を吐いた。

 さて、彼女が輝くための最高の舞台を、急ピッチで組み上げなければ。

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