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40代IT社長の俺がギャルゲーの悪役に転生したけど、主人公が頼りないので「大人の包容力」と「経済力」でヒロイン全員幸せにします  作者: U3


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第5話 熱狂の球技大会と天使の引力

 東京の空は、昨日の雨を洗い流したかのように澄み渡っていた。


 登校中の車内、俺は、いつものようにノートパソコンを開いていた。


 画面に表示されているのは、NASDAQ市場の個別銘柄チャートだ。


 昨夜のニューヨーク市場は依然として活況を呈していたが、俺が注目しているのは、ある一つの銘柄だった。




 『Amazon.com 』。




 創業者のジェフ・ベゾスが「Get Big Fast」を掲げ、赤字を垂れ流しながらも急激な拡大を続けているネット書店だ。


 現在の世間の評価は二分されている。「未来の流通革命」と持て囃す声もあれば、「利益の出ないビジネスモデルはいずれ破綻する」と冷ややかに見る投資家も多い。


 だが、俺は知っている。


 この企業が単なる本屋で終わらず、世界中のあらゆる商品を飲み込み、さらにはクラウドコンピューティングという新たなインフラの覇者となる未来を。




「……今はまだ、誰もが半信半疑の段階だ。だからこそ、妙味がある」




 俺はキーボードを叩き、分散して買い注文を入れた。


 短期的なボラティリティは激しいだろうが、20年スパンで見れば、今の株価はタダ同然と言ってもいい。


 これは投資ではない。未来への入場券だ。




「社長。……また随分と攻めた銘柄を選ばれましたね」




 バックミラー越しに、凛とした声が響く。


 運転席でハンドルを握るのは、俺の秘書である如月舞だ。


 今朝の彼女は、チャコールグレーのタイトなパンツスーツを纏っている。


 身体のラインに吸い付くような上質な生地が、彼女の華奢ながらも引き締まったプロポーションを際立たせている。


 信号待ちでふと髪を耳にかける仕草には、19歳という年齢を感じさせない、洗練された大人の色香が漂っていた。


 陶器のように白く滑らかな肌と、切れ長の瞳。その美貌は、すれ違う対向車のドライバーが思わず振り返るほどだ。




「赤字続きの企業ですが、インフラへの投資額が桁違いです。彼らは目先の利益ではなく、市場そのものを支配しようとしている」


「市場の支配……。社長がお好きそうな言葉ですね」


「人聞きが悪いな。俺はただ、勝つべくして勝つ馬に乗るだけだよ」




 舞は口元に微かな笑みを浮かべ、再び前を向いた。


 彼女の運転は極めて滑らかだ。俺がパソコン作業に集中できるよう、急発進や急ブレーキを一切行わない。


 その細やかな配慮こそが、彼女が俺にとって代えがたいパートナーである所以だ。




「到着いたしました、玲央様」


「ありがとう。……帰りは遅くなるかもしれない。連絡する」


「承知いたしました。……行ってらっしゃいませ」




 彼女の敬愛に満ちた視線を背中に感じながら、俺は桜花学園の校門をくぐった。




 今日は新入生歓迎の球技大会だ。


 1年生の種目はサッカー。グラウンドには歓声と砂埃が舞っている。


 俺たち1年A組の初戦の相手は、体育会系の生徒が多いC組だった。




「よっしゃ西園寺! 作戦通りいくぞ!」




 円陣の中心で声を張り上げたのは、クラスメイトの城戸隼人だ。


 金髪にピアスの不良スタイルだが、ジャージに着替えた彼は水を得た魚のようだった。


 元陸上部のエース。そのバネのある筋肉質の身体は、ただ立っているだけで運動神経の良さを物語っている。




「ああ。前線は任せたよ、城戸くん」


「だから『くん』付けはやめろって! ……へへっ、パスさえくれりゃあ、俺が全部ぶち抜いてやるよ!」




 試合開始のホイッスルが鳴る。


 俺のポジションはボランチ。全体の動きを見渡し、ゲームをコントロールする位置だ。


 C組はいきなり猛攻を仕掛けてきた。体格の良い男子生徒がドリブルで突っ込んでくる。


 俺は慌てず、相手の重心の移動を見極め、最小限の動きでコースを塞いだ。


 無理にボールを奪う必要はない。相手が焦ってタッチを大きくした瞬間、スッと足を伸ばしてボールをかっさらう。




「うおっ!? 西園寺、うめぇ!」




 クラスメイトの声援を背に、俺はルックアップした。


 前線では、隼人が爆発的な加速でディフェンスラインの裏へ抜け出そうとしていた。


 速い。


 中学時代に足を痛めたと聞いていたが、そのスピードは衰えていないようだ。いや、あるいは痛みを堪えて走っているのか。


 俺は彼の足元ではなく、数メートル先のスペースへとロングパスを送った。




 ――ドンピシャだ。




 美しい放物線を描いたボールは、隼人のトップスピードを殺すことなく、彼の目の前に落ちた。


 隼人はそのままドリブルで独走し、キーパーとの1対1を冷静に制してゴールネットを揺らした。




「っしゃオラァ!! 見たか西園寺! 最高のパスだぜ!」


「ナイスゴールだ、城戸」




 隼人が駆け寄ってきて、ハイタッチを求めてくる。


 バチン! と乾いた音が響く。


 単純だが、悪くない高揚感だ。


 その後も俺たちは連携して得点を重ね、危なげなく初戦を突破した。




 試合後、グラウンドの隅で水分補給をしていると、女子生徒たちの黄色い声が聞こえてきた。




「ねえ、西園寺くんすごくない? クールに見えてスポーツ万能とか反則じゃん!」


「城戸くんも怖そうだけど、サッカーしてるとかっこいいね」




 どうやら俺たちの株価も上昇中のようだ。


 だが、そんな平和な空気を切り裂くような視線を、俺は感じ取っていた。




 本部席のテントの下。


 ジャージ姿の巨漢が、腕組みをしてこちらを睨みつけている。


 体育教師の鷹森恒一だ。


 首から下げたホイッスルをもてあそびながら、その目は執拗に隼人を追っていた。


 いや、見ているのは隼人だけではない。彼の「足」だ。


 獲物を狙う爬虫類のような、粘着質な目つき。




(……噂通りか)




 俺はタオルで汗を拭いながら、思考を巡らせた。


 鷹森が生徒指導という名目で、特定の生徒に体罰を加えているという噂は、舞の調査ですでに耳に入っている。


 特に、入学早々目をつけられている隼人に対しては、退学に追い込もうと画策している節がある。


 隼人が楽しそうにサッカーをしているのが、彼にとっては面白くないのだろう。


 今はまだ静観するが、彼が牙を剥くなら、こちらも相応の準備をする必要がある。


 俺は鷹森から視線を外し、次の試合の準備に向かう隼人の背中を見送った。




 昼休み。


 午後の試合に向けて着替えを済ませた俺は、本校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下の階段を降りていた。


 少し離れた場所にある自販機でスポーツドリンクを買おうと思ったのだ。




 前方を、二人の女子生徒が歩いていた。


 一人は、先日廊下で衝突した「氷の女王」こと霧島セイラ先輩。


 相変わらず、人を寄せ付けない冷ややかなオーラを纏っている。


 そしてもう一人は、対照的に柔らかな雰囲気を持つ少女だった。


 艶やかな黒髪のセミロング。後ろ姿だけでも、そのプロポーションの良さが分かる。制服のブラウスが背中で少し突っ張っており、発育の良さを窺わせた。




 その時だった。


 柔らかな雰囲気の少女が、何もないところで足をもつれさせた。


 彼女は「あっ」と短い声を上げ、バランスを崩して後ろ向きに倒れかかった。




「結衣!」




 隣にいたセイラ先輩が手を伸ばすが、指先が空を切る。間に合わない。


 このままでは階段から転落し、後頭部を強打しかねない。


 俺の身体は、思考よりも先に動いていた。


 階段の数段下にいた俺は、落ちてくる彼女の落下地点へと瞬時に移動し、両手を広げた。




 ――ドサッ。




 衝撃が走る。


 だが、俺は膝を使ってその力を逃し、彼女の身体をしっかりと受け止めた。


 いわゆる「お姫様抱っこ」のような形だ。




「……っ」




 腕の中に、驚くほど柔らかな感触と重みが満ちた。


 ふわりと、甘いバニラのような香りが鼻孔をくすぐる。


 至近距離にある彼女の顔を見て、俺は息を呑んだ。


 あどけなさと健康的な色気が同居した美少女だった。


 潤んだような大きな瞳は驚きに見開かれ、ぽってりとした唇が微かに震えている。


 そして何より、俺の胸に押し付けられている彼女の胸部の弾力が、シャツ越しでもはっきりと伝わってくる。


 中身が41歳のおっさんである俺の理性が、警報を鳴らすほどの破壊力だ。




「……へ? あれ、痛くない……?」




 彼女――花村結衣先輩は、キョトンとして俺の顔を見上げた。




「……怪我はありませんか、先輩」




 俺は努めて冷静な声を出し、彼女の重心を安定させた。


 動揺を表に出さないのは、大人のマナーだ。




「結衣! ……っ、貴方、離しなさい!」




 そこへ、セイラ先輩が血相を変えて階段を駆け降りてきた。


 彼女は俺を親の仇のように睨みつけ、結衣先輩を引き剥がそうとする。


 俺は素直に従い、結衣先輩をゆっくりと立たせた。




「すみません。咄嗟のことだったので」


「……触るなと言っているのよ、成金」




 セイラ先輩の敵意は相変わらずだ。


 だが、助けられた当の本人は、状況を理解したのか、パァッと花が咲くような笑顔を見せた。




「すごぉい! 王子様みたい! ありがとう~!」




 その笑顔の純真さに、俺は一瞬言葉を失った。


 セイラ先輩の刺すような敵意が、春の日差しで溶かされていくような感覚。


 彼女には、裏表というものが存在しないのだろうか。


 結衣先輩は、俺の顔をじっと見つめて首を傾げた。




「……あれ? 君、もしかして新入生代表の子? 西園寺くんだよね?」


「ええ、そうです。1年A組の西園寺玲央です」


「やっぱり! 入学式の挨拶、すっごくかっこよかったから覚えてたんだぁ。近くで見るともっと素敵だね!」




 そう言って、彼女は無邪気に俺の腕をツンツンと突いた。


 屈託のない称賛。


 セイラ先輩が頭痛を堪えるようにこめかみを押さえている。




「結衣、騙されないで。こいつはただの見栄っ張りよ」


「え~? でもでも、すっごくいい匂いしたよ? 筋肉もしっかりしてて、頼りになりそうだったもん」




 結衣先輩はセイラ先輩の言葉をさらりと流した。


 


 この天然さ、ある意味で最強かもしれない。


 セイラ先輩は頭痛を堪えるようにこめかみを押さえている。




「……とにかく、助けていただいたことには感謝します。……行くわよ、結衣」


「あ、待ってよぉセイラちゃん! ……西園寺くん、またね! 今度お礼させてね~!」




 結衣先輩はブンブンと手を振りながら、セイラ先輩の後を追っていった。


 嵐のような、しかし甘い余韻を残す邂逅だった。




「……やれやれ」




 俺はシャツの乱れを直しながら、苦笑した。


 氷の女王の隣に、あんな無防備な天使がいるとは。


 桜花学園の人間関係は、俺が想定していたよりもずっと複雑で、そして面白そうだ。




 球技大会が終わり、放課後。


 俺は教室に残っていた。


 クラスメイトたちは打ち上げに行こうと盛り上がっているが、俺にはやるべきことがある。


 携帯電話を取り出し、舞に発信した。




「……社長。お疲れ様です」


「ああ。例の件だが、少し急いでくれ」


「鷹森恒一について、ですね」


「そうだ。彼が生徒指導室で行っている『指導』の実態と、過去の経歴についての裏付けが欲しい。……特に、生徒に対する暴力や脅迫の証拠だ。どうやら奴は、城戸隼人をターゲットにして退学に追い込もうとしているらしい」




 今日の試合中、隼人の動きは素晴らしかったが、時折右足を気にする素振りを見せていた。


 そして、鷹森のあの視線。


 何かが起きる前に、手札を揃えておく必要がある。




「承知いたしました。興信所を使って、今週中にはレポートを提出します」


「頼む。……それと、今夜の夕食は外で済ませる。隼人に誘われてな」


「……左様ですか。未成年ですので、お酒は控えてくださいね」


「分かっているよ。ただのラーメン屋だ」




 通話を終えると、教室のドアがガラリと開いた。


 ジャージ姿の隼人が、ニカッと笑って立っていた。

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