だから歩いてくるんだね S.アルミラ
《なんだあの蜘蛛みたいなの!?》
《歩いてる! 歩いてるよデカブツが!》
《前のと形状は違えどめちゃくちゃでけぇ!》
《多脚歩行とはやるッスねぇ!》
「ひひひ、思った通りに驚いてもらえると作った甲斐がありありってもんです!」
観戦画面に映る六本足の巨体に、視聴者たちはびっくり仰天。その驚きを笑いながら、私は苦労して作った新型について視聴者たちに解説します。
「あれなるは『アトラクナクア』! 多脚歩行戦艦型の『TAU02スパイダーユニット』と、それを制御する中枢機体『鴉』があわさって完成する陸の怪物!」
《蜘蛛の下半身みたいな形状のTAUから、中枢となるEDAの上半身が生えてるみたいな。半人半蜘蛛のアラクネーだな》
《アトラクナクアも蜘蛛の怪物のことだ。そのまんまなネーミングだぜ》
《ところで鴉とは?》
《蜘蛛の上半身の位置にくっついてる黒いEDAの名前か?》
「ええ、アトラクナクアの上半身の位置にあるのが、AS02『鴉』です。AS01を改造した後継機。といっても『カラス』をイメージした黒い外装を装備させて、非常用の武器として手首にビームソード内蔵しただけですけどね。用途も変わらずTAUユニットの制御がメイン」
《なんで名前が鴉なん?》
「超巨大な怪物の『頭脳』となる制御ユニットです、賢い生物の名前を入れるのがピッタリでしょう?」
本当はヒノワが好きな動物ってだけですけどね。こういうネーミングにはそれっぽい意味をもたせてこそ。
《なるほどなぁ。頭脳になる機体だから賢い鴉》
《悪くない名前だぜ》
《黒い羽のエンブレムもかっこいいし!》
「反応上々。さすが私のデザインした機体。ひひひ」
《それよりもっと詳しく教えておくれよ新型のこと》
《あのデカブツ、どんな性能しとるんや?》
《話に聞いていた飛行戦艦とはだいぶ違う見た目だが》
「んもうせっかちさんどもめ、焦らずともお教えしますよ。というわけで皆さん気になっているであろう新たなTAU、スパイダーユニットについて。……前回の飛行戦艦型TAUユニットにはいくつか弱点がありました。特に深刻だったのがEN不足です。私たちが一度の配信で得られるイイネ量では、あの巨体を飛ばし続けるだけのENを確保するのが難しい。ODキャノン1発でガス欠を起こしましたからね」
《EN不足か。でかいとそれだけENを食いそうだもんなー》
《重量が増えると飛行で消費するENが激増するッスからねー》
《空中戦をメインにするなら重武装は難しい、軽量型が望ましいとされる理由のひとつッス》
「そう、デカくて重いと飛ぶのが大変なのです。そこで私は考えました。――それなら地上を歩かせればいいじゃない!」
《そうか、飛んで移動するとENが不足するなら、陸戦用にしてしまえば》
「それと、飛行を捨てたことでさらなる重武装が可能となりました。装甲もさらに分厚くして火器も増設、六本脚には高品質なモーターと人工筋肉を使用したので機動性も見た目よりは高い」
《飛行能力を捨ててその他を得るか。思い切りのいい設計だ》
《具体的な武装は?》
「蜘蛛の下半身部分にイズミ重工製四式マルチミサイルポッドを36基内蔵、背中に大型レールキャノン、あと鴉のビームソードがふたつ。……ODキャノンも載せたかったんですけど、内蔵するためのスペースが確保できず、EN消費も大きいので今回は断念」
《イズミの四式ミサイルポッドを36基!? とんでもねえ数だぜ!》
《一般的なEDAなら2基、重装型でも6基くらいしか積んでこねえようなやつを!》
《さすがデカいだけのことはある》
《背中の大砲も見るからにヤバそうだな》
《大艦巨砲主義》
「小型高性能を追求するというLDOのトレンドには逆行していますが、流行に反逆するのも悪い気分じゃありません。ひひひ!」
《でもよぉ、相手はランカー、アリスガワ三姉妹だぜ。しかも3対1》
《やれるのか……?》
「やれると思ったから勝負を受けたんですよ。まあ見てなさいって」
少しテンションを落ちつけて、観戦画面に視線を戻します。
真正面から空を飛んで向かってくる赤色の機体、その後を追う青と黄色の2機。信号機トリオ。確認するとそれぞれ飛竜号・雷獣号・海皇号との名を与えられているようです。
対するアトラクナクアは巨体の各部に備わったミサイルポッドを起動。
『ロックオン……完了! ホーミングミサイル、フルファイア!』
ヒノワの声と共に一斉射! 煙の尾を引き飛び交う無数のミサイルに、信号機どもは悲鳴を上げて後退していきます。
『ぎゃわー!? めっちゃ撃ってきた! シンリャクテキテッタイ!』
『痛っ! ちょっと当たったのだわ!』
『三十六計逃げるにしかず~……』
そりゃあ逃げたくもなるでしょう、恐ろしいほどの弾幕ですからね。
……しかし!
「ひひひ、悪手ですねぇ! アトラクナクア最大の武器は背中のレールキャノン! 近すぎる相手には使いにくい長距離砲撃用の武装です! 距離を取ったらその餌食! 聞こえますか、ヒノワ!」
『聞こえてる! わかってる! レールキャノンだね!』
《あのー、レールキャノンってどんな武器なんですか?》
《レールガンって知ってるッスか? 電力で砲身に磁力を発生させ、それを利用して弾丸を撃つSF兵器……ようは電気と磁石で弾を飛ばす銃ッス》
《レールキャノンはそれの大型版に対する俗称ッスね》
《このレールガン系武装はビーム系武装と同じく発射にENを消費するんスよ。磁力を発生させるための電力が必要ってことで》
《だからENを消費せず使える通常兵器よりも威力が高め。恐るべき一撃必殺の主砲ッス》
《ましてやアトラクナクアの背中に積んであるのは馬鹿でかいモンスターサイズッスからねぇ。あれの直撃を受けたら跡形も残らんッスよ、きっと》
「解説どうも有識者! その通り、レールキャノンの発射にはENが必須! というわけでいつものやつです!」
『視聴者さん、私たちにイイネをお願いします!』
《おっ、きたきた》
《当然『押す』だッ》
《よくわからんけど押しときますねー》
《配信始まった時に押しといたぜ!》
《配信者がEDAに搭乗する前にイイネしてもそれは機体に送られんぞ。ICOっていうゲーム内通貨に変換されるだけだ。戦闘の役にはたたん》
《知らなかったそんなの……》
ヒノワもイイネの催促がこなれてきましたねぇ。成長成長。
かくして数千のイイネがアトラクナクアに集まりました。
『ありがとう! これならいけるはず! EMOリアクター、起動!』
ヒノワが叫んだ直後、アトラクナクアの全身に光のラインが走ります。それはEMOリアクターが稼働した証。
集まったイイネがENに変換され、背中のレールキャノンへと集まっていき、
『レールキャノン、EN充填完了!』
「やっちゃりなさいヒノワ!」
『ん! レールキャノン、スタンバイ……ファイア!』
砲身が雷のエフェクトを纏うと共に、光線のような弾丸が撃ち出されます。
それは信号機トリオの逃げていった方角へと一直線に飛んでいき――、




