配信がサイキョーだ!!! S.ヒノワ
私は爽やかな風の吹く緑の平原に立っている。広々としていて障害物はほとんどない。遠くの山を見渡せば絶景かな。
そして目の前にはアリスガワ三姉妹。それぞれのEDAをフィギュアモードで手にしながら、タツキちゃんは自信満々に、ライカちゃんはクールに、トモエちゃんはおどおどと控えめに並び立っていた。
と、アルミラちゃんからの音声チャット。
『聞こえますか、ヒノワ。あと信号機三人組』
「「アリスガワ三姉妹!」」
「ですぅ……」
『無事に対戦部屋を建てられたようですね。そこは特定の相手と戦う『フリー対戦』のために生成された隔離空間です。あなたたち以外が踏み込んでくることはありません。思う存分、決闘とやらをするがよーい!』
そう、この場に立つ理由は決闘である。
私がアルミラちゃんの部屋へと連れて行ったアリスガワ三姉妹。彼女たちに突如として申し込まれた決闘を、アルミラちゃんは二つ返事でオーケーした。
(い、いいの?)
(ええ、実にちょうどいい。アリスガワ三姉妹。ありゃランカーです)
(あんなちっちゃい子たちが!?)
(中身は大人かもしれませんよ? だいたいの人はアバターを『操作性』のためにリアルの身体と近い形にしています、けれど例外もいますからね。ともかく彼女たちは見た目とは裏腹にスゴウデです。人気も申し分ない。ならば、この子を試すに格好の獲物)
この子とは、AS01とTAUユニットの改良機。私が外に出ている間に完成したそれを、アリスガワ三姉妹と戦って試そうというのだ。
(またランカーと戦えば、さらに知名度も上がりますしねぇ。ひひひ)
そんな打算もあって実現した、私とアリスガワ三姉妹の決闘戦。ルールは3対1の変則チームバトルだ。
これひとりで戦う私の方が不利では? と、思ったのだが、アルミラちゃんが言うにはそう単純な話でもないらしい。
アリスガワ三姉妹は3人ひとつのチャンネルで動画配信を行っている。この場合、視聴者から送られてくるイイネは分配設定を弄っていない限り綺麗に3分割され、それぞれのEDAに蓄積していくらしい。
つまり、視聴者からのイイネが3分割されるあちらより、全てのイイネを1機で利用できるこちらの方がパワーが上なのだ! とのこと。
……まああちらの視聴者数がこちらの3倍以上だったらその有利もなくなるのだけれど。
ところで、今回の決闘配信で私たちのチャンネルに集まっている視聴者数は? なんと過去最高、5000人だ。
アルミラちゃんが武装のサイズ制限のゆるさを突いて生み出した規格外の超大型機は、多くのプレイヤーと視聴者に衝撃を与えたらしい。その結果として注目を集めている、とのこと。
ただアルミラちゃんが言うに、その視聴者すべてをアテにすることはできない。
なぜなら今回の視聴者のほとんどは、私たちを応援しに来たのではなく超大型機をひとめ見に来ただけの人々なのだ。彼らにここぞという場面でイイネを求めても、イイネボタンを押してくれない可能性が高い。
イイネの獲得量は視聴者数に対して伸びにくいだろう、というのがアルミラちゃんの予想である。
けれど今回の配信で初見さんを魅了すれば、一気に人気を獲得することができる。チャンスには違いない、だからうまくやってくれ、と。
(チャンス、チャンスだもんね。よし!)
私は心のなかで気合を入れる。コメント欄にはいつもの視聴者さんたちの応援、それと初見さんたちの書き込みがずらり。
《がんばれヒノワちゃん! つよいおとながこどもに負けるんじゃないぞ!》
《相手がランカーの3対1でも勝てるさ、博士の作ったEDAなら!》
《っつか今日の配信は人が多いな》
《あんだけとんでもないEDAを作ったらそりゃな》
《初見ですがはよ超大型機を見せて》
《本当にできてるのかよそんなん? ガセじゃないの?》
《アル博士を疑いおるかきさま――っ》
《コメント欄で喧嘩するんじゃあない》
《くけー!》
……ダメだ、コメントが多すぎて読みきれない。私は全て読むことを諦めて、あたりさわりのないセリフで視聴者さんに答える。
「がんばります。応援よろしくお願いします」
と、そのセリフに反応したのはこれより戦う相手、タツキちゃん。彼女はこちらをずびしっと指差して、高笑いとともに堂々と宣言する。
「ふふふ、どうやらそちらの配信もサイキョーのようだなヒノワ! しかしそれはこちらも同じ! みんなの応援を受けて我らはお前たちをぶっ倒す!」
勝利宣言。……サイキョーじゃなくて”盛況”じゃないかな。
ともかく、言うだけ言ってタツキちゃんと他二人はくるりと背を向け、平原のどこかへと向かって歩きだした。
「5分後! イクサの始まりと共にまた会おう! いくぞライカ! トモエ!」
「どこを試合開始地点にするの? あんまり近すぎると戦いが始まると同時に攻撃されてしまうのだわ」
「あ、あんまり歩きたくはないなぁ~……」
「またねー」
彼女たちを見送ってから、私は視界の端に表示されているタイマーの数字を確認。
残り5分を切ったこの数字が0になったら試合開始。その時が来るまで移動は自由、試合開始時に立っていた場所がそのまま戦いのスタート地点だ。
高台から見下ろすもよし、守りに向いた場所で迎え撃つもよし、海に潜るもよし、自分のEDAにとって有利な地点に陣取ることが重要。プレイヤーの間では『フリースタートバトル』とか呼ばれているルールらしい。
アリスガワ三姉妹も彼女たちの戦術に適した地形に向かったはず。
ならばこちらは――この場で待機!
『ヒノワ、念のために確認しておきます。新たな機体の機体特性と操作法はわかっていますね?』
「ん。マニュアルはぜんぶ読んだ。あとはぶっつけ本番だよ」
『リハーサルなしでやるのもドキドキしますねぇ、ひひひ! ……動かなかったらどうしよう!?』
「今更になってそんなこと言わないで!?」
《なんかめちゃくちゃ不安になるやりとりしてるんだが?》
《負けそう》
《ダメそう》
《諦めたらそこで試合終了ですよ》
《諦めたら?》
等々、アルミラちゃんと視聴者さんたちと話しているうちに、あっという間に試合開始時刻。
私は手の中のEDAを目覚めさせるべく、アルミラちゃんから聞かされていたその名を叫ぶのだ。
「ライブスタート! 私たちの新たな怪物、アトラクナクア!!」




