カットウを申し込む!!! S.ヒノワ
今日も今日とて学校から帰ったら手洗いうがい、そしてLDOにログイン。私は仮想世界の都市へと降り立つ。
LDOでは、全てのプレイヤーがゲームスタート時に配置されるのは『地球の都市』である。
設定的には遥か未来の地球らしいが、拠点となる都市は現代のものをイメージしたデザイン。高層ビルが建ち並ぶ『中心街』、背の低い住居と学校や病院などの公共施設が建ち並ぶ『住宅街』、昭和の木造家屋っぽい建物がずらりの下町風『旧市街』で、三区画構成だ。
プレイヤーからは東京っぽい街と評価されている、というかまんま東京らしい。私は東京に行ったことないのでよくわからないけど。
アルミラちゃんのマイルームは、中心街と住宅街の境くらいにあるマンション、その最上階の一室である。
「おじゃまします。アルミラちゃん、いる?」
「へいらっしゃーい。アルミラさんはいませんよー」
「いるじゃん!?」
「ひひひ、ジョークジョーク」
部屋を覗くと、彼女は相変わらず机に向かって作業中だった。卓上には例の巨大武装『TAUユニット』が、フィギュアモードのサイズで鎮座している。
「だいぶ形状が変わってるような?」
「変わったというかもうほぼ別の機体ですよ。前のTAUを解体して、そっから新たに組み上げた新型。TAUユニットの2号機です。TAU2とでも呼びましょうかね。完成まであと……1時間くらい?」
「完成したら配信かな?」
「そのつもりです。まあそれまで適当に時間を潰していてください」
「ん、わかった。……久々にひとりで街を散策してみようかな」
「ご自由に~。私はこのピンセットでわずか1センチの隙間に内装パーツを設置する作業があるのでちょっと集中します……」
「が、頑張って……」
見ているだけで目と腕が痛くなりそうな細かい作業だ。不器用な私には真似できそうにない。
アルミラちゃんの集中を乱さぬよう、そーっと退出。背の高いマンションを出たら、空を見上げながら適当に歩き回る。
「あ、EDA」
都市の上空を飛んでいくEDAの編隊が見えた。飛行型で曲芸飛行をして、その様子を配信することで人気を得ているギルドもあるという。単純に戦うだけが人気獲得の手段ではないということだ。
つまらない私には、戦って勝つ以外の方法を思いつけないけれど。
「……はぁ」
いけない、また気持ちが沈み始めた。
気分を変えるべく付近を見回していると、古風なたたずまいの駄菓子屋が目に入る。昭和かな?
駄菓子屋の前には古ぼけたデザインの自動販売機。ジュースでも買おうと、私はゲーム内通貨『ICO』を硬貨として取り出した。
「お茶、お茶」
排出された冷たい缶を手にとって、頬に当ててひんやり一息。
「つめた……」
駄菓子屋前に設置されていたベンチに腰掛け、ずずっと喉を潤そうとしていた、その時。
「――いた! いたぞこっちだ、ライカ! トモエ!」
「待ちなさいタツキ! トモエがバーチャルなのにヘトヘトなのよ!」
「置いてかないでぇ……」
騒がしい声が聞こえてきた。
見れば、赤い服、青い服、黄色い服をそれぞれ着たちっちゃい女の子が3人、道をぱたぱたと走っている。女の子3人だから騒がしいよりも姦しいというべき?
なんにしろ、仲良き子供たちが微笑ましく、そして妬ましい。
(私があのくらいの年齢の時には、友達なんていなかったからなぁ……)
余計に落ち込みそうになりながらも、お茶をひとくち。そしてため息。
「そこ! そこのお前! 聞いてるかお前!」
赤い服の女の子が誰かを呼んでいた。なんだか私の目の前に立ち、私を指差しているのだが……え?
「……私?」
「うむ! お前以外にいないぞ!」
私が首を傾げると、赤い服の女の子は腕を組んでふんぞり返り、不敵に笑って自己紹介。
「先に名乗っておこう、私はタツキ! アリスガワ・タツキだ!」
さらに、後ろから青い服の女の子がぴょこんと顔を出す。
「はじめまして、アリスガワ・ライカです」
さらにさらに、その後ろから黄色い服の女の子。
「あ、アリスガワ・トモエですぅ……」
それぞれ名乗ったところで、赤い服の――タツキちゃんが堂々と叫ぶ。
「我らアリスガワ三姉妹! ゆえあってお前……えーと、名前なんだっけ?」
私は頭上を指差した。そこには私のプレイヤーネームが浮かんでいるはずだ。
「……そうだ、ヒノワ! 我らアリスガワ三姉妹! ゆえあってお前にカットウを申し込む!」
……葛藤?
お茶を飲み終え、缶を横にコトンと置いてから。
「……決闘、かな?」
「そうだった! 決闘だ! 決闘を申し込む!」
「な、なにゆえ?」
「知らんとは言わせないぞ! タツキたちの計画はお前のせいで台無しになってしまった! そのイシュガエル? を、してやろうってことだ!」
「意趣返し? ……な、なんかしたかなぁ、私」
知らんとは言わせないと言われても、まったく心当たりがない。考え込む私に、今度は青い服の――ライカちゃんが補足説明を入れようとしてきた。
「先日の配信であなたが乗っていたEDA、えっと、名前は確か……」
「AS01TAU?」
が、ライカちゃんの補足説明を遮って再びタツキちゃんが叫ぶ。
「それだ! えーえすぜろわんたう! あのでっかいやつ! あれがでっかいせいでタツキたちはメンボウが丸つぶれなのだ!」
「面目?」
「そうだ面目! なんだお前は賢いな! 得意か!? 国語!」
「そんなでもないよ」
タツキちゃんがキラキラと目を輝かせてこっちを見てくる。表情がコロコロ変わるなぁ、この子。おもしろい。
「……それで、決闘っていうのは?」
「は! 忘れるところだった! 危うく怪獣にされるところだった!」
懐柔される、かなぁ?
「お前には我らアリスガワ三姉妹の計画を台無しにしたオトシダマをつけてもらう! あのでっかい……えーけーぜろわん? も、ボッコボコにする! つまり決闘を申し込む! おねがいしまーす!」
「おねがいしまーす」
「お、おねがいしますぅ……」
「意外と礼儀正しい……」
ペコリとお辞儀する三人娘、アリスガワ三姉妹。彼女たちの『理由』はよくわからないけれど、彼女たちがなにをしたいのかはわかった。どうやら私と、それとAS01TAUと戦いたいらしい。
「……頭まで下げさせて申し訳ないんだけど、私ひとりの一存では決めかねると言いますか」
「えっ!? ダメなの!?」
「そんな!?」
「絶望ですぅ……」
ガーン! って感じの擬音がつきそうな表情が3つならぶ。かわいい。
「ダメっていうか、LDOで決闘するなら、イイネを集められる配信をやりながらってなるでしょ。私はパートナーと配信してるから、その子に大丈夫か聞かないと……」
「なるほど! ソシキテキなハンコウってヤツだな!」
「キョウボウザイね」
「反社会的勢力ですぅ」
「妙に難しい単語を知っている……」
「ならば! これより我らはお前のパートナーとやらに許可を取りに行く! なので居場所を教えてください! おねがいしまーす!」
「おねがいしまーす!」
「お願いしますぅ……」
「いいけど……アルミラちゃんオーケーするかな」
まあ判断は彼女に任せよう。私はアルミラちゃんのマイルームの住所を彼女たちに伝えた。
「わかった! ジュウタクガイエリア? の! 4番街の202! メゾン・ド・バベルの最上階! だな! ありがとーございましたー! いくぞライカ! トモエ! すくらんぶるだーっしゅ!」
「ありがとうございました。ちょっとタツキ! ひとりで走りださないで! トモエが!」
「ありがとうございました……うぅ、また走ったら軽く死ねますぅ……」
三人は元気よく、私が教えた住所とは反対方向に走っていく。さては住所についてよくわかってないなあの子たち?
「……そっちじゃないよ、連れてってあげるからちょっとまって」
放っておいたら迷子になってしまいそうなので、私は彼女たちを目的地まで連れて行ってあげることにした。
で、その結果どうなったかというと――――決闘だ。




