Stage4『失われた故郷を求めて』③
「うーん、残念。ここは素直に!」
弾幕勝負の最中、猿は動きを止め、霊夢からの集中砲火を受ける。それを見た霊夢はすぐさま弾幕を撃つのを止めた。
「何やってる! そもそもあんた、真剣に勝負しなさいよ!」
霊夢が怒声を挙げる。しかし猿からの返事はない。弾幕の余波で砂ぼこりが立ち込め、猿の姿はその中に消えてしまっていた。やがて砂ぼこりが落ち着き、その中から猿が現れる。いつの間にか猿は再び胡坐をかき地面に座っていた。しかし最初とは異なり、槍は地面においている。
「降参だ。巫女殿には申し訳ないが、戦時中につき多忙でね。ここで全力を尽くす訳にはいかないのだ」
猿は戦意がないことを示すよう両手を挙げる。霊夢も怪訝そうな表情を浮かべつつ、砂浜に降りた。そしてお祓い棒、針と札を手に持ったまま猿と向かい合う。
「戦時中……。いったい何が起こってるっていうのよ?」
「その様子だと、本当に深宵園のことは何も知らないようだな」
霊夢はこくりとうなずいて見せる。猿は「考えすぎだったか」と呟き、一つ溜め息を吐いた。口元には相変わらず笑みが浮かんでいる。しかし気のせいか、先ほどと比べて幾分か気が緩んだようだった。
「なに。癇癪持ちの末子殿が、この世界の有り方にご不満でね。世界を変えようと我儘をはじめたのさ」
「末子殿……? それは迷惑な話ね。子どもの癇癪なんて叱りつけて終わりじゃない」
霊夢の言葉に猿は前髪をかきあげ、自嘲するように乾いた笑い声をあげた。
「あの末子殿相手に、そうはできなかったよ。あの人は、深宵園の住民をいくらか味方につけた。そして我々を退け、目的の半分を成し遂げてしまったんだ」
そこまで話すと、猿は夜空を見上げる。その視線の先には紅い光を湛えて夜空に浮かぶ月があった。ふと猿の表情が陰る。霊夢は何事かと思って月へ視線を移した。そうしてじっくり紅い月を見てみると、その光が炎の燃えるように揺らいでいるのが分かった。
あれは月が輝いているのだろうか。霊夢の眼には、硝子の向こう側で炎が燃え盛っているようにも見えた。
「何あの月……。どうしてあんな風に?」
「ただの月ではないよ。この深宵園の東西にあるのは、この世界を維持するための空間だ。もっとも、今は末子殿が壊して回っているんだろう」
猿が苦々しげな声を出す。その表情は張りつめたまま動かない。まるで埋めようのない空虚があるように、猿の面持ちは表現する言葉が見つからないような感情を覗かせていた。
「もうこの世界も終わりなのかもしれないな……。皆が避難できたのは幸いか……」
猿はぽつりと呟く。そうしてそれきり口を重たく閉ざしてしまった。霊夢はその様子をしばらく見ていた。しかし急に小さく溜め息を吐いたかと思うと、猿の方へ一歩踏み寄る。そして堂々とした面持ちで口を開いた。
「なんでもいいけど、そのお陰で幻想郷にここの住民が溢れてるのよ。責任者誰よ」
猿の様子、その諦念と憂鬱など、どこ吹く風と、霊夢は屈託なく尋ねる。猿はその言葉に面食らったようで、すぐに言葉を返せない様子だった。
「私は博麗の巫女。幻想郷の異変を鎮める責務があるわ。ここの住民が幻想郷に移らなきゃいけない原因があるなら、その原因を無くしてやろうって言ってんのよ」
猿は口を開けたまましばらく黙ってしまう。しかし少しすると大口を上げて笑い出した。
「そうかそうか……。末子殿の癇癪が迷惑をかけたようだね。あの人が止まれば、住むための環境は整えれるんだがなあ……」
霊夢はその言葉を受けてにやりと笑う。そして紅く光る月を見上げた。
「それじゃ、取りあえず癇癪小僧にお仕置きね」
異変解決の巫女が、その向かう先を定めた。その様子を見て、猿は槍を手に持って振るう。すると上空で渦巻いていた妖精が周囲に散会し、中から舟が出てきた。数匹の妖精が舟の周囲に残っていて、舟を二人のところまで押してくる。
「住民が溢れているといったが、この舟で送られてきたのか?」
そうよ、と霊夢は答える。すると猿は感慨深げに「あの人のおかげだったか……」と呟いた。
「幻想郷に送り付けてくるなんて迷惑な奴もいたもんだわ。挨拶くらいしときたいわね」
霊夢がそう言うと、猿は困り顔を浮かべつつも、内陸の方を指さす。
「それならこの先にある一番大きな建物を目指すといい。どうせ月に行くには通る場所だ」
霊夢は猿の指先が示す方向へ目をやる。内陸には白砂の向うに草原が続いていた。そして草原にそびえる丘の上に、円形の屋根を持つ巨大な宮殿が建っている。
「おぉー、すごく豪勢。勝手に送ってきたんだもの、着払い代金くらいはくれるかしら?」
Stage Clear!




