第9話:お仕事始動
平日のフードコートは空いていた。
こういうのを見ると、世の中に何も貢献していない現状の自分を申しわけなく思ってしまう。
フードコートには色々な店がある。
でも今日はラーメン、と決めていたので、俺の一番好きな味噌ラーメンの店で、コハルの分と二つ注文してきた。
「俺が決めちゃって悪いけど」
「いいよ、勝利のおすすめなら試したいもん」
わりとすぐに呼び出しボタンが鳴って、コハルがビクッとする。
「びっくりしたあ」
「呼び出しの音だよ。できたみたいだからもらってくる」
店のカウンターでラーメンをもらって席に戻ってくると、コハルが嬉しそうに笑う。
「すごくいい香りだわ!」
「味噌ラーメンって言うんだ。色々スープの種類はあるけど、俺、これが子どものころから大好きでさ」
「何だか優しい香りね」
思い出すのは、母の手作り味噌。
子どもの頃はせがんで、塩ラーメンに母の作った味噌を少しだけ溶かしてもらって味噌ラーメンにしてもらってたなぁ。
「辛くなるから少しだけよ」って母さんは笑って、でもちゃんと味噌ラーメンにしてくれた。
そういや、母が亡くなる前に仕込んだ味噌。
そろそろ食べられるだろうか。帰ったら確認してみよう。
「勝利!これすごく美味しい!」
「だろ?これがラーメン。日本人が大好きなジャンク代表の食べ物だ」
それからラーメンを食べ終わってから水を飲みながら少し相談をする。
「ねえ勝利。えいがはやっぱり宇宙でも売りたいわ。どうしたら売ることができるかしら」
「俺には法律とかこまかいこと分かんないよ。叶くんに相談しようか」
「そうね」
そうなると……連絡するのはカメコのプライベートのほうじゃなくて、仕事の名刺のほうがいいよな。
一旦家に帰らないと。
「コハル。叶くんに連絡するから家に帰るぞ」
「えーもう?」
「また連れてきてやるから。コハルの商売の為には、叶くんって窓口が絶対に必要なんだぞ」
「それもそうね。よし、帰って叶に連絡しましょう」
現金だな……まあコハルらしいか。
「あ、でも帰る前にあそこ寄っていい?」
コハルが指さしたのは、広いショッピングモールの通路にある小さな屋台のような店だった。
どうやらアクセサリーの店らしい。
宇宙人でもやっぱり女性にはアクセサリーは惹かれるものなんだろうか。
「ああ、これは身につけて自分を飾るものの一種なのね。……これも売れそうね」
訂正。
やっぱりバイヤーだった……。
サンプルと言いうことでさっきの店で花の形のイヤリングを一つ購入して、俺たちは家に帰ってきた。
叶くんの仕事のほうの名刺を出してきて、電話をかけてみる。
何度か呼び出し音が鳴り、スマホの向こうから叶君の声がした。
『藤島です。勝利くん?』
「よくわかりましたね」
『念のため、君の番号をこっちにも登録しておいたから』
なるほど。
それなら俺だって分かるか。
『それで何か?』
「いってましたよね、コハルの窓口になるって」
『……はい。では?』
「コハルが仕入れたい商品がいくつかあります。それに関しての地球側の窓口を叶くんにお願いしたいと言うことで話が決まりました」
『……!』
「よろしいですか?」
『詳しい話をしましょう。僕がそちらに伺います』
「分かりました、待ってます」
スピーカーにしていたので、コハルにもちゃんと聞こえていた。
「よし、叶くんが来るまでに、コハルが仕入れたいもののリストを作ってしまおう」
「そうしましょう。あ、コーラは絶対ね!」
「はいはい。今飲む?」
「飲む!」
マジでコハルのコーラへの執着はすごいな……。
俺はコーラを出してきて、コハルに渡してリビングのテーブルの椅子に座る。
「さて、じゃあまずは仕入れる商品からだ」
「コーラ!畳!えいが!」
「さっき買ったアクセサリーは?」
「ああ、あれもいいとは思うけど、まずは素材とかデザインとか色々本社での会議にかけてからね」
「そういうもんか?」
「宇宙でも女性のこういうものに対する購買意欲はすごいのよ。だから、富裕層、普通層と分けて考えたほうがいいと思ってね。そこを間違えたら仕入れ損になるもの」
なるほど、5万円のフィギュアと300円の駄菓子フィギュアの差と考えたら納得だな。
「じゃあ、コハルの地球での最初の商売の仕入れとしてはコーラと畳と映画ってことでいいんだな?」
「そうね。まずはそこからね」
「分かった。じゃあ叶くんが来る前に、ちょっとだけ出かけるぞ」
「え?」
「言っただろ、畳を敷き詰めてる写真があるほうがいいって。うちから車で10分もかからないところに写真が撮れる場所がある」
「うん、行く!」
市内の寺はうちの檀家でもある。
だから今朝、写真を撮らせてもらえるようにお願いしておいたんだ。
「よし行くか」
車を出して寺に向かう。
ついでに墓参りしとくか、と線香とマッチも持った。
田舎の寺は今日も静かでのんびりしてる。
俺は駐車場に車を停めて、寺の本堂へ向かった。
「おお、勝利くん、いらっしゃい」
掃除をしていたよく知るこの寺の住職が俺を見つけて手を振り、次に俺の隣のコハルを見て驚いた顔をした。
「勝利くんの嫁さんか!?」
「違いますよ、仕事相手です」
「仕事を始めたのか!それは良かった、ご両親もずっと心配しとったからなぁ」
やっぱり父さんも母さんも住職に相談してたのか……。
ごめん、ずっと心配かけて。
でも俺、何とか外に出られるようになったから。
「ちょっと先に墓参りだけしてきます。そのあと、お願いしていた本堂の畳敷きの写真撮らせてもらっていいですか?」
「おお。じゃあお茶の準備だけして待ってるわ」
「ありがとうございます」
それからコハルを連れて、俺の家の墓へ向かう。
入口から割と近い一角が抛家の墓だった。
「勝利。何だか同じような石がいっぱい並んでいるけど、ここって何?」
「墓だよ」
「はか?」
「亡くなった人が眠る場所。ここに俺の両親が眠ってるんだよ」
「……地球ってそうやって弔うのね」
「宇宙じゃどうしてるんだ?」
「そうね。基本的には宇宙に流すわ」
「え?」
「亡くなったら生前に決めていた好みの圧縮ポットに入れて、宇宙に放出するの。それが宇宙葬としては基本よ」
「宇宙の闇と海が墓場か……。それはゆっくり眠れそうだな……」
「宇宙葬を専門にしている惑星もあるわ」
そういや、地球にも宇宙葬にする方法があるってネットで見たことある気がする……。
色んな葬儀の方法があるもんだなぁ……。
線香を供えて手を合わせると、コハルも真似をして手を合わせてくれた。
父さん、母さん。
なんか俺、宇宙人と一緒に働くことになりました。
それで外にも出られるようになりました。
ずっと心配かけてごめんなさい。
ここから少しずつでも社会復帰していきます。
それから本堂に戻ると、コハルは広い本堂に敷かれた広い畳敷きを見て歓声を挙げた。
「これすごいわ!絶対売れる!」
「写真撮っておくぞ」
「うん!」
スマホで畳敷きを何枚か撮ると、住職が用意してくれていたお茶とお茶菓子を戴いて家に帰ることにした。
そろそろ叶くんがつくころだろう。




