第8話:映画館に行こう!
「宇宙での娯楽は生活圏にはないの。だいたい、一瞬でワープできるアミューズメント惑星に行くしかないわね」
「アミューズメント惑星?」
「そう。遊ぶためだけの専用の星。でも、そこにあるのは運動施設がほとんどよ。遊ぶと言っても体を動かすのが主流。えいが、とかはないの。買い物も専用の惑星があるから、買い物は娯楽扱いではないわ。ユーティ商団もアミューズメント惑星を一つ持ってるんだけど、運動施設しかないから色々と停滞してるの」
「じゃあ、その星に映画館を作るのはありだな」
「えいが、かん……?って何?」
「めちゃくちゃ大きな画面といい音で映画を楽しむ施設だよ」
「そんなのあるの!?」
「行ってみる?……ええと、今、やってるアニメ映画、は……」
スマホで、上映中のアニメ映画を検索する。
分かりやすいのは……。
「あ、これとかいいかもな」
コハルに画面を見せる。
それは海の向こうのアミューズメントの総本山のリバイバル映画だ。
「これ、どんな映画?」
「空飛ぶうさぎと海を泳ぐきつね、って映画なんだけど、空を飛ぶうさぎって動物が、海を泳いでみたくて、海を泳げるきつねに泳ぎを教えてもらう友情もの」
「知らないことを知ってる側に教えてもらうって物語なのね」
「そうそう。今の俺とコハルに似てると思ってさ。明日、これ見に行ってみないか?」
「うん!」
「その時はできれば髪の色は黒にしてくれ。一番目立たない」
「分かったわ。勝利に買ってもらった服にはこの髪の色じゃ合わないと思うし」
何だかなぁ……。
俺、引きこもりのはずなのに、コハルが来てからめちゃくちゃ行動的になってないか?
翌日、俺とコハルは市内の映画館へ向かった。
映画館と言っても、大きなショッピングモールの中に併設されている大手の映画館だ。
ここに来るのも久しぶりだな。
あ、新作映画のチラシ……って!こ、これ、いつか映画館で観たいと思っていたアニメロボット映画のリバイバルじゃないか!
大きな映画館はこういうのやってくれるから嬉しいんだよなぁ。
よし、これは絶対に観に来なくては。
俺、割と行動的な引きこもりになりつつあるな。
「勝利、あれ、何?」
コハルが見ていたのは映画のお供たちだ。
「あれは映画を観ている時に食べたり飲んだりするものだよ」
「え、コーラある!?」
ブレないな。
「あるよ。買おうか」
「うん!」
映画のチケットを買ってコーラとポップコーンを手に、中に入る。
同じような扉がずらずらと並んでいるのを見て、コハルが驚いた。
「ここにある部屋、全部えいが、をみるところなの?」
「ああ。中では静かにな?」
「うん」
一番奥の一番小さなスクリーンの部屋に入る。
そこは100席ほどの小さなスクリーンで、客は数人しかいなかった。
もう、予告が始まるところで、俺とコハルは指定席に座った。
「……静かね」
「映画は静かに見るものだから」
「分かった」
予告編だけでコハルは驚いていた。
これは予告編って言って、これから上映される新しい映画を観てもらうための宣伝だってヒソヒソ言ったら「これだけで見たくなるようにするのね、すごいわ」と感心していた。
そして本編。
元々は10年以上前の映画で、俺が中学生のときに見た映画だ。
頑張り屋のウサギ、皮肉屋のきつねと友情を育んで行って、ラストはウサギがキツネに励まされて、海の向こうの兎たちの島まで泳ぎ切るのが泣けるんだよな。なんで飛んで行かなかったのか、って思ってたけど、ウサギの耳はかみ千切られてしまっていて、飛ぶ力を失っていたんだ。その耳を治す幻のニンジンが島にあるから自分で取りに行くと決めて、だから、なんとか泳げるようになりたかったって理由が明かされた時は、コハルは横で感動していた。
「すごくすごくいい物語だったわ……!!これは絶対たくさんの人に見せたい」
「気に入ってくれたのなら良かったけど、権利関係とか俺全く分からないから、こういうのは叶くんに丸投げになりそうだなぁ」
「このまま持っていけないの?」
「無理だよ。創作物には、著作権ってものがあって、作った人にあらゆる権利があるんだ」
「ああ、それならわかるわ。私たちが扱ってる商品も、作った人が絶対に損をしないようにする、が基本だもの」
「宇宙にもそういう概念あるんだなぁ」
「当たり前でしょ」
映画が終わって出てくると、コハルはすっかり映画が気に入ったらしく饒舌で上機嫌だった。
「コハル、ゴミはこっちに捨てて」
「ゴミ?」
「ポップコーンとコーラ入ってたやつ」
言われるまま、素直にゴミを捨てると、コハルは映画館に並ぶ色々なものを物珍しそうに見ていた。
「勝利、あれは?」
「ああ、映画のパンフやグッズを売っているところ」
「ぱんふ?ぐっず?」
「見てみようか」
そこには今上映中の映画のパンフやグッズが並んでいた。
今見たリバイバル映画のグッズも少しあった。
よし。
俺は、ニンジン型のペンとメモ帳のセットをレジに持っていくと、袋ごとそれをコハルに差し出した。
「え?何?」
「コハルの初めての映画鑑賞記念」
我ながらちょっと恥ずかしいことした気分だが、コハルにとっての最初の映画の鑑賞の思い出になるものがあったらいいなと思ったんだ。
「くれるの?」
「大したもんじゃないぞ。ペンとメモ帳だ」
「ありがとう」
絶世の美女の笑顔は俺の隣では輝きすぎている。
映画館のロビーにいた人達がみんなコハルに見とれていたところにその笑顔だからな、求心力は爆発状態だ。
「勝利、次はどこに行くの?」
「そうだな、そろそろ昼だし、昨日行けなかったラーメン行くか」
「行く!」
ここのショッピングモール内のフードコートのラーメン屋でいいか。
割とフードコートのメシも侮れないからな……。




