第6話:藤島叶
そのまま、彼、藤島叶と一緒にラーメン屋ではなく、個室居酒屋へ向かった。
コハルには、ラーメンはまた今度、と約束した。
居酒屋の洞窟のような個室に入ると、日替わりの居酒屋ランチを全員分頼んでテーブルを囲む。
「さて」
藤島さんが水を一口飲んで、懐からもう1枚名刺を出して、テーブルに置いた。
「……内閣調査室直轄、宇宙対策課、藤島叶……?」
政府?
なんで政府?
俺、ただの引きこもりなんだけど!?
「そんなに構えないでください」
小さく笑った藤島さんがもう一口水を飲む。
「まず、確認させてください」
少し声を潜め、藤島さんはぐい、とテーブルの向こうから俺の隣に座っているコハルに視線を向けた。
「あなたは、ユーティ商団のバイヤーのコハルさんで間違いないですか?」
「……どうして知ってるの?」
警戒と困惑を隠さないコハルの声。
「どうして、と言われると……。3年前、偶然行き倒れていたあなたに会いましたよね?」
行き倒れてたんか、コハル!
「あれは本当に偶然でした。喉が渇いてる、とがらがらの声で助けを求めるあなたにたまたま持っていたコーラのペットボトルを差し出した」
「ええ、覚えてるわ。私、あれで地球のコーラの虜になったんだもの」
「やはりそうですか」
藤島さんが、ほう、と息を吐きだしたところでランチのプレートがやってきた。
おお、鰆の西京焼き!
俺、これ大好きなんだよなぁ。
コハル用にフォークを一つお願いしようとしたら「箸なら使えるわよ、バカにしないで」と見事な箸使いを見せた。曰く、他の星の食のマナーを知らずに商売はできない、というのが商団のポリシーの一つでもあるらしい。
「まず、食事にしましょう」
「そうね」
そして、食事をとりながら、藤島さんが話し始めた。
3年前、僕がコハルさんを助けたのは本当にただの偶然でした。
行き倒れてる女性がいて、喉が渇いていると言うから手に持っていたコーラをあげた。それだけです。
そのあと、元気になったコハルさんに「これ、なんて飲み物!?」と聞かれたのでコーラです、と教えたら「欲しい」と言われたので10本ほど差し上げました。
その数カ月後、僕はそれまでいた部署から宇宙対策課へ移動になったんです。
その時、初めてすでに宇宙人が地球に来ていて、政府とコンタクトを取っていたことも知りました。
そして、日本にコンタクトして来ていたのが、ユーティ商団という商団惑星の方たちだと知りました。非常に友好的で、地球のコーラを仕入れたいという申し入れがあったと。
なんでコーラ?と思ったら、地球にリサーチに行ったコハルというバイヤーが親切な地球人からもらったコーラがとんでもなく美味しくて感激したのだと。
お願いしたら10本買ってくれたので、こんな親切な人が多い地域と取引したいと申し出てきたのだと言われました。
それで、ああ僕が出会ったのは宇宙人だったのかと分かったんです。
情報が!
情報が多い!!
ええと……つまり、コハルが前に地球に来た時に会ったのが藤島さんで、藤島さんがくれたコーラに感激したコハルが宇宙に戻ってコーラの話をしたことで、日本がユーティ商団と接触するきっかけになった、ってこと、か……?
……いや、マジで情報多いな……!?
「ねえ勝利!これ!これすごく美味しい!!」
宇宙規模の話をしている横で、当のコハルは鰆の西京焼きに感動してた。
うんうん。鰆の西京焼き美味しいよね、俺も大好きだから分かる。
分かるけど、今はそうじゃないんだよ、コハル。
「勝利、食べないの?もらっちゃうよ?」
いや、俺の西京焼き狙うなよ!!
こほん、と藤島さんが咳払いをする。
「話を戻しましょう」
はい。
「まさか今日ここでコハルさんとまた会うとは思いませんでした。以前とは髪の色も違いますし……」
へ?そうなの?
「前は黒だったもんねえ」
黒髪だったのかよ!
だったらそれで落ちてくりゃ日本だと楽だったのに!
「元はこの色なのよ。あの時は目立たないように、この地域にいる人間たちと同じ髪の色にしたの」
「左様で……あ、俺の西京焼き!」
「勝利食べてないじゃん、もったいないからもらった」
「いや、食うし!」
「あの!」
藤島さんが声を挙げる。
「……話を戻しますよ?」
「あ、はい……」
「ですので、コハルさんがまた地球に来てコンタクトが取れる日を我々は待っていました。そういうわけで、コハルさん。我々のところに来ていただけませんか?」
「え、やだ」
あっさりコハルは言い切った。
「え?え?なぜ!?」
「なぜって……私の地球での相棒は勝利だから」
まて!なんでそうなった!!
「別に我々にはコハルさんを拘束するような意図はありません。ただ、ユーティ商団との窓口としてコハルさんと話がしたいんです」
「うん、だからやだ」
「ええっと……抛、さんでしたね?」
「あ、はい」
「あなたとコハルさんの関係は?」
関係って……いや、たまたま知り合っただけなんですが。
「昨日の夜、コハルがうちの庭の物置に宇宙船ごと落ちて来たんですよ」
「落ちて来たぁ!?」
「はい。で、コハルを追いかけてなんかトカゲみたいな宇宙人みたいなのも来て……」
「宇宙マフィアの下っ端だけどね」
「で、コハルに宇宙の最先端って話のパワードスーツ借りて変身して撃退しました」
「パワードスーツ、ですか!?」
「そう、あれです、赤い社長ヒーローみたいなの!」
「おお!!」
藤島さんの瞳がキラキラ輝く。
だよな、特撮オタクにはたまらんよな。
「それで、どうだったんですか?特撮オタクにとっては夢ですからね。アイテム使って変身するのは」
「はい、最高でした」
あれは本当に夢のような時間だった。
めちゃくちゃ怖かったけど。
あの位置に自分が立って初めて、きっと俺が憧れてきたヒーローたちもあの怖さを足元に感じながら戦っていたんだって実感した。
「ええと……カナウ、だっけ。ごめんね、私は勝利と一緒にこの地球で商売をするって決めたの」
「それは決定ですか?」
「ええ。でも、ユーティ商団としての地球側、いえ日本側の窓口は必要だからお願いしたいわ」
「窓口業務で構いません。ぜひお願いします」
「分かったわ、それなら問題ない」
「コハルさんは地球にいる間は抛さんのところに?」
「ええ、そのつもり。だって勝利の家、特撮?の面白そうなものがたくさんあるんだもの。商品のいいリサーチになるわ」
「ほほう……」
藤島さんの目がキラッと光った。
「ちなみに抛さんのイチオシジャンルは……?」
「赤い社長ヒーローとニチアサの魔法使いです」
「なるほど、どっちも赤基調ですね。……かっこいいですよね」
「藤島さんのイチオシは?」
「僕は光の星が一番好きで」
「おお!俺も好きです!」
「いいですよね……!抛さんさえよければ、今度一緒にニチアサのヒーローショー行きませんか?」
ヒーローショー!!
子どもの頃行ったっきりだ。
「ぜひ……!」
「勝利、ヒーローショーって何?」
「帰ったら動画見せてやるよ」
「僕のことは叶って呼んでください。勝利くん」
うお、もうこれ友達距離じゃない!?
「う、うん、叶くん」
「じゃあ連絡先交換しましょう。あ、これはプライベートのほうなので、仕事関係ないです。仕事のほうは改めて送ります」
26歳引きこもりに、まさかの念願の特撮友達ができた……!?
奇跡か!?
俺は感動のあまり、自分のスマホの画面を見つめていた。
ちなみに待ち受けは赤い社長ヒーローで固定している。
だって、やっぱり一番かっこいいヒーローだと思うから!
もちろん異論は認める。




