第4話:コハルの商売
「じゃあ、私の話をさせてもらっていい?」
何故かうちのリビングに陣取ったコハルに要求されるまま、新しい冷えたコーラを差し出した。
俺はさっきの戦闘のせいか、すごく気持ちが高ぶっていたので気持ちを落ち着けるために温かい緑茶を淹れた。
あ、うま。
「ええと……勝利、だっけ?」
「ああ、俺は抛勝利。この家で一人で暮らしてる」
「改めて、私はコハル。ユーティ商団のバイヤーよ。地球にはコーラとサブカルの商品を仕入れに来たの」
「バイヤー?」
って、デパートなんかで物産展とかの仕入れをする仕事してる人たちだよな?
「そう。私は商団の仕入れ担当ね」
「宇宙人なのに?」
「宇宙人って言わないで、地球人だって広義で見たら宇宙人よ」
まあ、そりゃそうか。
「じゃあ、何て呼べばいい?」
「コハルでいいわ。地球の発音だとそれが一番近いのよ」
「そういうものか」
「そういうものよ」
コハルは当然のように答え、コーラを一口飲んだ。
「ぷはぁ……やっぱり地球のコーラは最高ね」
「そこまでコーラ気に入ってるのか」
「当たり前じゃない!これ、宇宙じゃものすごい高値で売れるのよ!」
「……コーラが?」
「そうよ」
俺は湯飲みを持ったまま、コハルを見る。
「宇宙って、コーラがないのか?」
「あるわよ」
「あるのかよ」
「ただし、地球のコーラとは全然違うわ。惑星ごとに味も違うし、そもそも炭酸飲料自体が高級品のところもあるし、炭酸飲料がないところもある」
「へえ……」
「その中でも地球のコーラは別格。特に日本のものは人気が高いの。レアすぎて出回らないから、今回私が本格的に仕入れに来たの」
「日本限定なのか?」
「そういうわけじゃないけど、日本人って食べ物だけじゃなく、飲み物にまで妙なこだわりを持ってるんでしょう?」
「……まあ、否定はできないな」
俺は自分の湯飲みを見た。
緑茶。
その隣にはコハルのコーラ。
宇宙人と地球人が、同じテーブルでそれぞれ好きな飲み物を飲んでいる。
数時間前まで、俺はただの引きこもりだった。
それが今は、宇宙人と話をしてる。
人生って、何が起こるか分からない。
「それで、勝利」
「ん?」
「あなたにお願いがあるの」
さっきまで、あんただったのに、あなたになった。
「……何?」
「私の地球での仕入れを手伝ってほしいの」
「俺が?」
「そう。あなた、日本のサブカルに詳しいんでしょう?とくさつ、だっけ?パワードスーツとか」
「まあ……それなりには」
「それなら話は早いわ」
コハルは満面の笑みを浮かべた。
「一緒に、宇宙で売れるサブカル商品を探してほしいの!」
「俺が?」
「だって、ここに落ちてきたのも何かの縁だって思えるじゃない?」
俺は湯飲みを置いた。
縁……縁ねえ……。
「……条件がある」
「何?」
「俺は特撮オタクだ」
「さっきも言ってたわね。で、とくさつって何?」
「話をするより、見てもらったほうが早い。今から俺の一番大好きな海の向こうの特撮映画を一緒に見てもらう。で、それが宇宙でウケるかどうか教えてくれ。このジャンルなら俺の知識は十分生かせる」
「……分かったわ!えいが、が何かもわからないけど、勝利が勧めるものを見て、私がいいって思ったら仕入れを手伝ってくれるってことね?」
「ああ、そうだ」
俺は立ち上がって二階の自室から数枚のDVDを持ってきた。
「どうせ今日はもう眠れない。久々に朝まで映画耐久コースといこう。コハル、コーラのお代わりはいるか?」
「ちょうだい」
もう一本コーラのペットボトルを冷蔵庫から出してくると、ソファに座る。
「じゃあ、まずこれからだ」
「ええ!」
コハルが身を乗り出す。
そして俺は、俺が人生で一番好きな特撮映画のDVDを再生し始めた。
ここから俺とコハルの、地球と宇宙をつなぐ商売が始まった。
「ねえ、このパワードスーツ、本当に地球人が作ったの!?ものすごくかっこいいわ!」
コハルは、俺の一番大好きな社長ヒーローの映画に大満足だったらしい。
あっという間に2まで観てしまった。
そろそろ夜明けだ。
この後はヒーロー大集合映画が順番としては正しいのだが……。
「ここまでにしよう」
「ええー!?」
「また見せる。まずは話だ」
「……仕方ないわね」
もう数時間もすれば朝がくる。
しかし、こんなへんてこなことに巻き込まれたのなら、朝になってごく普通の日常が戻ってくる前に、おかしな話は終わらせておくほうが精神衛生上いい気がするのは、引きこもりのカンだ。
俺は絶対、もうすでにろくでもないことに巻き込まれてる。
なら、少しでも自分の立ち位置を有利にしておきたい。
「まず、質問いいか?」
「どうぞ」
「コハルの仕事は、宇宙のあちこちで商品を仕入れて、宇宙の富裕層に売りつけることなんだよな?」
「売りつけるってちょっと失礼ね。グラドス一家みたいなのと一緒にしないで。私は、私がいいと思ったものを欲しがりそうなお客様にプレゼンして、買ってもらうことが喜びなの」
「ふぅん。まあ、それならそれでいい。で、地球に来た目的は、コーラとサブカルの仕入れということでいいのか?」
「そうね。もちろん、他に良さそうなものがあったら仕入れを検討するけど、まず地球の、とくに日本のコーラは宇宙で人気なのよ。以前来たって言ったでしょう?その時に親切な人に10本ほど奢ってもらったんだけど、それを持って帰ったらとんでもない金額で売れたのよ」
「ちなみにどれくらい?今のコーラはそのペットボトルで180円だぞ」
ほんと高くなったよなぁ……。
物価高は明確な敵だよ。
「そうね、このコーラ一本で地球なら車一台が買えるくらいかしら」
「……は?」
スケールが違いすぎた。
だってコーラだぞ。
精々、日本円換算なら、1000円そこらと思ってたのに。
「それってコーラだけか?」
「今のところはね。ただ、仕入れによってはもっと高値がつくものもあると私は思ってる。実際、今見せてもらったえいが、っていうのは、娯楽のない星向けよ」
「娯楽のない星なんてあるのか?」
文明がある場所なら、娯楽が育たないはずはないと思うんだが……。
「あるわよ。うちの星みたいに商売しか興味がないとか、工業惑星でずっと星全体が工場として稼働してたりするところとか。あとは言いたくないけど、マフィアの星には娯楽なんてないわね。あいつらの娯楽は他を潰すことだもの」
「なるほど……。そう言われれば、理解はできないが納得はできる」
「それで、勝利。私の仕事、手伝ってもらえるのかしら?」
コハルに問われて、俺はしばし考える。
どうせ引きこもりのニートの俺には時間だけはとんでもなくある。
生活には困っていないし、毎日ネトゲばかりよりはリアルスペースゲームのノリで、コハルの商売に手を貸すのも面白そうだ。
「分かった、俺のできることなら手伝おう」
「ほんと!?」
「ああ」
「すごく助かる!私の知らないことを補ってもらえるのは本当に嬉しいわ」
「ただし」
「え?」
「仕入れに関しては、あまり大量にはできないだろ?」
「どうして?」
「だってコハル、おまえ、地球の、っていうか日本の金持ってるのか?」
「……あ」
まあ、そんなことだと思ってた。
「仕入れの金に関しては、最初だけなら俺が貸してもいい」
「ほんと!?」
「これでもそこそこはある。ただ、両親の遺してくれた大事な金だ。無駄遣いはしたくない」
俺のこれからの生活もある。
全部をコハルの商売に投資はできない。
「地球のお金じゃないけど、これは地球で売って資金にできるかしら?」
コハルの掌が揺らめいたかと思うと、少し大きめの手のひらサイズの透明な石がそこに現れた。ちょうど野球ボールくらいだろうか。
「え?どこに持ってたんだ?」
「私の仕入れ箱」
「え?」
「これよ」
コハルが手首のブレスレットを見せる。俺が借りたのと少し似てる……。
「これは収納ブレスレット。商人の必需品よ。私たちはこれに商品を入れて運ぶの。地球の言葉で言うなら、荷物圧縮装置ね」
ゲームで言うところのアイテムボックスか。
確かに、今物置を潰してるあんな小さな宇宙船じゃ、商品を仕入れて持って帰るなんて無理だもんな。
コハルが俺の掌にその石を預けてくる。
うん、重いしきれいな石だ。
「それで、これ、地球で売れる?」
「きれいな石だな。何だ、これ?」
「地球じゃ、ダイヤモンドって言うらしいけど……。その原石。地球で見つかったこともあるっていうのと同じくらいの大きさを探すの結構苦労したのよ」
「は?」
俺はコハルから受け取った透明なゴツゴツした石をまじまじと見つめた。
何年前だったか、アフリカでめちゃくちゃでかいダイヤモンドの原石が見つかって数十億で取引されたってニュースを見たことがある。
これがそうだとしたら、俺の銀行残高よりとんでもないもんが出て来たぞ!?
「売れる、だろうけど、俺にはその売買ルートは分からない」
こんなもん取り扱ってる業界に伝手はない!
「そう……なら仕方ないわね。勝利、申し訳ないけど、仕入れ資金を借りられる?」
「だからそう言ってる。無駄遣いはできないがな。だからまずリサーチから始めよう」
「リサーチ?」
「明日、一緒に街に行こう。明日は多分大型のコスイベがある日だから、コハルのその髪の色も何も言われないだろうさ」




