第3話:俺、ヒーロー?
俺が「テイクオフ!!」と叫んだ瞬間だった。
ブレスレットの赤い石が、眩い光を放った。
「うおっ!?」
光が左腕から一気に全身へと走っていく。
赤い光の粒子が俺の身体を包み込み、次々と形を変えていく。
腕。
脚。
胸。
そして頭部。
まるで見えない誰かが俺の身体に装甲を取り付けていくように、赤い金属みたいな、だけど柔らかいパーツが次々と俺を覆っていくではないか!
はだしで庭に下りていたはずなのに、足の裏に土の感触はない。
「な、なんだこれ……!」
最後に顔の前を赤い装甲が覆い、目の部分に白い光が灯った。
視界が一瞬暗くなったかと思うと、次の瞬間には目の前に無数の文字が浮かび上がった。
……日本語だ。
『システム起動』
『装着者:ホウル・ショウリ』
『生命維持機能:正常』
『戦闘モード:待機』
「……すげえ」
思わず声が漏れた。
赤を基調とした装甲。
胸には流線型の金属パーツ。
腕や脚には細かな機械構造が組み込まれていて、ところどころ青白い光が走っている。
少し視線を横に向けて見れば、肩にひらひらとしたマントまである。
鏡なんて見ていないのに分かる。
俺、今、めちゃくちゃ格好いい。
めちゃくちゃ大好きなあのヒーローたちみたいだ。
「どう?気に入った!?」
背後からコハルの声がする。
「……これ、最高じゃないか」
「でしょ?」
「いや、待て。これ本当に俺が着ていいのか?」
「何言ってるのよ。貸したんだから使いなさいよ」
「貸した……?」
「そう。レンタル」
「レンタルなのかよ!」
「壊したら弁償ね」
「おい!」
その時だった。
ズンッ!!
地面が揺れた。
「話は後!来るわよ!」
「え?」
視線を上げる。
そこには、さっきのトカゲのような宇宙人が立っていた。
その巨体がゆっくりとこちらへ向かってくる。
手には何やら棍棒のような武器。
「地球人ごときが、我々に逆らうつもりか!」
「……コハル」
「何?」
「俺、あれと戦うの?」
「そうよ」
「武器は?」
「そのスーツについてるわ」
「どこに!?」
「知らない」
「お前の商品だろ!!」
トカゲ男が咆哮した。
「ならば、二人まとめて始末してやる!」
次の瞬間。
ドンッ!!
奴の身体が弾丸のようにこちらに飛び出した。
「うわあああああっ!?」
反射的に両腕を前へ出した。
腕を交差させて咄嗟に。
ガキィィン!!
凄まじい衝撃が腕に走る。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされる。
――と思った。
だが。
俺の身体は、数十センチ後ろへ滑っただけだった。
「……え?」
地面を見る。
俺の足跡が、数十センチの二本の線になって地面に刻まれている。
腕に痛みもなく、脳震盪のような感じもない。
「今の……俺、耐えた?」
「だから宇宙最新鋭だって言ったでしょ!……まあおもちゃだけど(小声)」
コハルが嬉しそうに叫んでいる。
「すごい……」
胸の奥が熱くなる。
さっきまで、ただの引きこもりだった俺が。
今は、目の前の化け物の攻撃を受け止めている。
俺は拳を握った。
すると装甲の内部から、低い駆動音が響いた。
ウィィィン……。
「……これ」
拳を構える。
「もしかして、殴ったら……」
「やってみれば?」
コハルが笑った。
「……よし」
俺は一歩踏み出す姿勢を取った。
「特撮オタクを舐めるなよ!」
俺は一歩踏み出し、こちらへ向かってくるトカゲ宇宙人に向かって、目いっぱい拳を突き出した。
「え……?」
拳の先が触れた瞬間、トカゲ宇宙人は吹っ飛んで、物置の残骸に突っ込んだ。
「何……この威力……」
だってちょっと触れただけだぞ!?
俺が呆然としていると、後ろでコハルが叫んだ。
「来るよ!構えて!」
咄嗟に腕を体の前に出す。そこにトカゲ宇宙人が手に持っていた棍棒を振り下ろしてきた。
が。
痛くもなんともないうえに、トカゲ宇宙人は跳ね返された。
ドガアアアアアアン!!
あ、もうあの物置直せない……。両親の形見が……。
煙と埃の中からゆらりと立ち上がったトカゲ宇宙人がさらに真っ赤になってる。
これって相当怒ってるんじゃ……。
「そろそろヤバい」
「え?何が?」
「あそこまで赤くなったら、もうすぐ爆発する。爆発したらここら一帯消し飛ぶわよ!その前にとどめを!」
はあ!?
聞いてないぞ!?
テレビの画面の中なら爆発は大好物だが、吹っ飛ぶのが自宅となったら話は別だ。
俺はまるでカウントダウンするかのように次第に赤くなっていくトカゲ宇宙人に対して恐怖を覚えながらも、今の俺は幼いころからあこがれ続けたヒーローになってるんだ!と言い聞かせ、コハルに確認を取った。
「コハル、あとどれくらい保つ?」
「地球時間であと20秒」
「そんだけかよ!」
迷っている暇もビビっている暇ももうない。
俺は一度だけ深呼吸をし、地面を蹴った。
思ったより高く、二階建ての屋根の上まで飛びあがる。
赤い装甲が夜の中に眩い光を放つ。
「これが……俺の必殺技だ!!」
足を真下にいるトカゲ宇宙人に向ける。
そう、ヒーローの必殺技は最後はキックって決まってんだよ!
そして、技名も大事だ。
これは宇宙のパワードスーツで、文字通り宇宙から降ってきたモノ。
だから……。
「メテオ・ブレイカー!!」
俺は、全力でトカゲ宇宙人を蹴り抜いた。
紙を破るような軽い手ごたえだった。
だが、俺の脚の下でトカゲ宇宙人はぴくぴく震えていた。
「やった、勝った!すごい!初めてでそこまで扱えるなんて!」
「俺は特撮オタクだからな。こういうのは嫌ってくらい見てるし憧れて来た」
「とくさつ……おたく……?知らない言葉だよ」
まあ宇宙には特撮はないか。
「そういや、あんたの名前を聞いてなかった」
「勝利。抛勝利だ」
「わかった、勝利。そのパワードスーツの解除は、ブレスレットの石を押すだけでいいよ」
言われるまま赤い石を押すと、プシュー、と風船から空気が抜けるような音がして、俺が纏っていた装甲は消えていった。
しまった、写真撮っておけばよかった……!




