第2話:宇宙人の商売人
「私の名前はコハル。宇宙を飛び回る商売人よ」
「……はあ」
「何よ、覇気がないわね、地球人ってみんなそうなの?」
何故か宇宙人の女性、でいいんだよな。コハルと名乗った彼女は家に上がり込み、追加のコーラを要求してきた。
素直に差し出すと嬉しそうに飲んでいる。
「で、なんで俺んちの庭に落ちて来たんですか?」
「追われてたのよ」
追われてた?何に?
「何に追われてたんです?」
「説明するより見たほうが早いわ。ほら、空を見なさい」
一階の縁側から見た夜空に流れ星が無数に落ちている。
「流れ星?」
そういえば、流星群が通過中だってニュースに出てたっけ。
「あれ、全部宇宙船」
「は?」
「地球に下りられるのはごく一部だけど、全部宇宙船よ」
「え、いやいやいや。そんなわけ……」
「実際、私がここに落ちて来たでしょ?」
「……」
「ほとんどが、所謂密輸専門マフィアの宇宙船よ。あいつら、私みたいな真っ当な商人から見たら本当にたちが悪いのよ」
コハルが憎々し気に夜空を見上げる。
「奪うし暴力は躊躇わないし、下手したら命まで奪う」
「……それは最悪だな」
「私はそんなことしないわよ。合法的にこの地球、とくに日本のサブカルとこのコカ・コーラを宇宙の富裕層に売りたいだけ」
「で、商人ってことは仕入れに来たってこと?」
「そうよ。地球時間で言えば、3年くらい前かしら。初めて地球に来たの。その時、コーラを親切な人からもらってね。これ何?って聞いたら、飲み物だって言うから飲んでみたら、初めての味に驚いたと同時に思ったの。これは売れる!って」
「宇宙人にもウケるのか、コーラって」
「革命よ」
「じゃあ、コーラの他に何を仕入れるの?サブカルって言っても色々あるぞ」
「それなのよね……。地球の、とくに日本のサブカルは地球でも最高クラスって情報くらいしかなくて……」
その時ふと、コハルが一階のリビングのテレビの前に並べた俺のコレクションに視線を移す。
「ねえ、あの四角い鏡みたいなのの前に並べてるの何?」
「ああ、これね。これは俺の大好きなヒーローのミニチュアのフィギュア」
「ふぃぎゃー?」
「フィ・ギュ・ア。ほら、持ってみて」
俺はコハルの掌に一番大好きな海の向こうの社長ヒーローのミニチュアフィギュアを乗せた。
こんなに小さいのに、ポージングまでできるのが気に入って買ったんだ。
「へえ、動くのね」
「壊さないように頼むよ」
「分かってるって、って、あ……」
ミシッと嫌な音がしたと思ったら、指が……指がもげた!?
「ご、ごめんなさい……!弁償するわ!」
「弁償って……」
「これで足りる!?」
コハルが手のひらに出してきたのは、ネットでも見たこともないような大きなダイヤモンドの原石だった。
「……これ、何?」
「別の惑星にごろごろ転がってる石ころ。地球では価値があるって聞いて、仕入れ用の原資に拾ってきたの」
「こんなのごろごろ転がってる星が宇宙にはあるのかよ……」
「あるわよ」
宇宙広いな……。
その時だった。
ギュオオオオオオ!!ドカーーーーン!!
と凄まじい音が落ちてくるのが聞こえた。
またかよ!!
慌てて庭を見ると、物置を潰していたコハルの宇宙船の上にもう一つ、刺々しい物体が落ちてきていた。
「ああああああ!!私の船が!!」
コハルが悲鳴を挙げる。
あれ、直せるのか……?
そうしていると、刺々しい宇宙船がプシュー!と音を立てて開き、中からトカゲみたいなのが出て来た。
「うっわ、よりにもよって……!」
「コハル、あれ、なんだ?」
「さっきも言ったでしょ?密輸専門の宇宙マフィア。その中でもトップクラスに質の悪いグラドス一家」
「質が悪いってどれくらい?」
「……下手したら、地球丸ごと持っていくわね」
俺とコハルが話している間に、トカゲがこちらを認識する。
「見つけたぞ、ユーティ商団のコハル。おまえが持っていったものを渡してもらう」
おっとこっちは最初から言葉が分かる、と思ったら、どうやらそうではなく、翻訳装置の範囲が半径10メートル以内ならカバーしてくれるのだとコハルが後から教えてくれた。
「冗談じゃないわよ。あれは元々、私が正当な交渉で売ってもらったものよ。それを奪おうとしたのはそっちでしょ?欲しいなら、うちの商団の売買ルートに言いなさいよ!」
あー、これダメなやつだ……。
ほら、なんか赤くなった、あれ絶対怒ってるだろ。
「なら、渡してもらうだけだ!」
「嫌だって言ってるでしょ!ええと……!あんた!」
突然背中を叩かれ、え?え?と思っていると、何か渡された。
「これ使って、あいつと戦って!」
「はあ!?」
「あんた、ヒーローが好きなんでしょ!ヒーローになるチャンスよ!」
「……ヒーロー」
「そう! ヒーロー!」
「……これ、何?」
「宇宙最新鋭のパワードスーツよ。……おもちゃだけどね(小声)」
パワードスーツって、俺の大好きな社長ヒーローのあれ!?
「……ちょっとだけなら」
「交渉成立!それの使いかただけど……」
「いや、何となくわかる」
特撮オタクは、こういうのに詳しいんだよ!!
俺はコハルに渡されたブレスレットを左手首に装着した。
浸けた時はぶかぶかだったけど、自動的に俺の手首にぴったりになる。
うん、こういうギミックだと思った。
次は……。
「これか?」
ブレスレットで目立つ赤い石を押してみる。
「それだけじゃダメよ!起動って叫んで!」
「叫ばないとだめなのか!?」
「そうよ!できればめちゃくちゃかっこいいポーズでね!」
「それ必要!?」
「必要よ!そうすることでシンクロ率があがるの!」
26歳でそれやらないといけないのかよ!と一瞬思ったけど、ずっとずっとあこがれ続けてきたヒーローになるチャンスだ、と思うとやるしかねえ!って一気に感情が沸き上がってくる。
俺は大好きな日本の元祖ヒーローの変身ポーズを構え、ブレスレットの赤い石を押しながら
「テイクオフ!!」
全力で叫んだ。




