第1話:星が庭に落ちた日
私自身が特撮が大好きで、特撮を絡めた話をずっと書きたかったので、入院中にプロット考えてました。基本的にはコメディです。予定では50話くらいで終わるかなー、と思ってます。
人生に必要なものの九割は、インターネットとコーラ、それから適度な現実逃避でできている。
少なくとも、二年間この田舎の実家の六畳間の引きこもり部屋から必要以外は一歩も出ていない俺――抛勝利にとっては、それが世界のすべてだった。
ここは俺の自宅。割と広めの庭のある一軒家だ。
埼玉の郊外の田舎は静かで暮らしやすい。
二年前、会社を辞めた。
新卒で入った会社だったが、薄給の上、ブラックもブラックで、このままだと死ぬ、と思い、何とか辞めることができた。
最初の内は転職活動にも意欲的だった。
実家の両親もしばらくゆっくり実家で休んでまた頑張ればいいと見守ってくれていた。
だが、一年前。
田舎のこの場所に新幹線の新駅と巨大な車両基地の建設計画が持ち上がり、我が家が持っていた約1500坪の、使い道のない坪一万円程度の休耕地が、国策のゴリ押しによって、あれよあれよという間に坪100万円というとんでもない金額で買収された。
譲渡所得税として数億円をゴリッと毟り取られたが、それでも我が家の口座、正確にはたまたまその時、ほぼ空っぽだった俺の銀行口座に同情した父が「管理は任せた」と税引き後で約12億円強という見たこともない財産が生まれ、両親が最初にその金を使ったのは、広い庭に前から欲しいと言っていた物置を設置することだった。
一棟20万円ほどの少し大きめの物置。
かなり頑丈なものらしい。
そこには、父の趣味のゴルフ道具や、母の家庭菜園用の農機具などがしまわれた。
母は、やっと玄関回りが片付いたわ、と笑顔だった。
だがその矢先、両親が交通事故で亡くなった。
俺に兄弟はいない。
親せきはいるが、基本的に没交渉なので両親の葬儀後は特に付き合いもない。
友達も親しい者はいない。
家に来るのは、俺に金の無心に来るようなのしかいなかった。
そういうのは片っ端から切っていき、俺は26歳にして天涯孤独になり、棚ぼた財産家になってしまったのだ。
人生の目標を完全に見失った俺に残されたのは、莫大な銀行口座の残高と、広大な実家の敷地、もはや両親の形見となった物置。
そして誰もいない静寂だけ。
だから俺は引きこもった。
誰とも関わらず、サブスクであらゆる映像を楽しみ、大好きな特撮モノのフィギュアを買い漁り、コーラを飲み、オンラインゲームのランクマッチに没頭する。
それが、天涯孤独になった俺なりの防衛本能だった。
誰にも邪魔されずにただ毎日を生きるだけ。
「よし、これで今月のランクマッチも防衛成功っと……」
午前一時十五分。
パソコンのモニターの前で大きく背伸びをしたその時、画面の右下にポコりとポップアップ通知が表示された。
『【速報】現在、大型の流星群が日本上空を通過中。一部は地上に落下する可能性も――』
「へえ、流れ星か。どうせなら、あの世の両親がそれに乗って一回くらい帰ってきてくれないもんかなぁ」
ほら、あのお盆にご先祖様が乗って帰ってくるやつ。それ扱いでさ。
独りごちて、デスクの上の冷え切ったコカ・コーラをぐいと煽る。
その刹那だった。
――ズウウウウウウウウウウンッ!!
二階の部屋まで揺れるような地響き。
いや、そんな生易しいものじゃない。
鼓膜を激しく震わせる金属の摩擦音と、古い日本家屋が垂直に数センチ跳ね上がるような凄まじい衝撃。
専用の棚の上のフィギュアたちがドミノ倒しになり、飲みかけのコーラがフローリングに派手にぶちまけられる。
「うわああああっ!? 地震、か!?」
慌ててデスクの下に潜り込もうとしたが、衝撃は一発きりだった。
代わりに庭から聞こえてきたのは、我が家の頑丈な物置が、「メキメキバリバリ!」と無惨に粉砕される嫌な音だ。
両親の形見の物置……!
「まさか……物置が……!」
嫌な汗が背中を伝う。 俺は恐る恐るカーテンを開け、窓から広大な庭を見下ろした。
そこにあったのは、見慣れた田舎の暗闇ではない。
ペシャンコになった物置の残骸と、その中心にめり込んでいる、直径二メートルほどのピッカピカに輝く未知の金属球体だった。
家からの灯りに照らされたそれからは、煙がモクモクと立ち上り、SF映画のUFOさながらの近未来的な駆動音がシュイーンと鳴り響いている。
「……は?……何だあれ」
唖然とする俺の目の前で、その球体の表面が滑らかにスライドした。
プシューーーッ!
気圧が抜ける派手な音とともに、中から現れたのは――なんと、信じられないほどスタイル抜群の、紫髪の絶世の美女だった。
ただし、その美女は、全身ボロボロのタイトな宇宙服?……らしきものを着て、白目を剥きながら地面に這い出てきている。
「う、宇宙人……!? いや、コスプレイヤーの不法投棄か……!?」
混乱が限界突破する。
すると、彼女の胸元のデバイスから、ネオンブルーのホログラム文字が虚空に浮かび上がり、同時に彼女の口から、およそ地球の生物とは思えないバグった電子音のようなノイズが発せられた。
『%%%%&&&&####!!』
『~~~*****}}}!!!』
もちろん、一文字たりとも理解できない。
だが、絶世の美女が涙目で必死に喉をかきむしり、俺の手元にあるものを指差しているのを見て、俺の特撮オタクとしての勘が告げていた。
彼女は、死にかけている。
そして、欲しているのは――。
「これ、か……?」
俺は、手元にあったまだ開けていない新品のコカ・コーラのペットボトルを引っ掴んだまま一階へ駆け下り、庭へ飛び出した。
キャップをひねり、彼女の口元へ差し出す。
ごく、ごく、ごく、ごく。
彼女は狂ったようにコーラを貪り飲んだ。
最後の一滴まで飲み干すと、プシューーーッ!と、彼女の耳の後ろあたりから、まるでパソコンの冷却ファンが回るような派手な排気音が響く。
胸元のホログラム文字が『REBOOT: COMPLETE(再起動完了)/ LANGUAGE: JA-JP』と爆速で書き換わり、彼女は豪快にゲップをひとつ放った。
「……ぷはぁーーーっ!!! 生き返ったわ!! これよ、これ! 翻訳システムがバグって死ぬかと思ったわ。この第三惑星の『コカ・コーラ』はやっぱり最高ね!」
「……喋った!? っていうか、翻訳システムが直って最初のセリフがコーラの絶賛かよ!」
それが俺、引きこもりのダメオタク抛勝利と宇宙の商人コハルとの出会いだった。




