第13話:プロの知識
「俺も金なら問題なくある。それを宇宙との交易に使えるのなら最高じゃないか」
「もう公務員じゃありませんしね」
「まあそうだな。FIREして仕事辞めて2年だが、本当にあれこれ楽しかったのは最初の一年だけで、2年目からは暇で暇で、何か仕事したほうがいいか、とか最近は考えてた」
「ねえ、FIREって何?」
コハルの疑問に俺が答える。
「簡単に言うと、働かなくても一生暮らしていけるだけのお金を貯めて、仕事を辞めることだよ」
「えっ、働かなくてもいいの?」
「そう。投資でお金を増やしたり、そこから得られる利益で生活したりするんだ。まあ、どれくらいお金が必要かは人によるけど」
こればっかりは人に因るからな。
まあ俺の場合は棚ぼた状態なので、FIREとはちょっと違うが。
「へえ……。それであなたは、もう働かなくてもいいのに、また働くの?私たちの商売のために?」
有川さんが少し考える。
「いや、仕事というより、面白そうな遊びに参加する感覚だな」
「なるほど。お金のためじゃなくて、面白そうだからやるのね」
コハルが納得したように頷いた。
「……それ、私の商売と同じだわ。儲かるから商売をするけど、面白くなかったら続けられないもの」
「そういうことだな」
「じゃあ、有川さんは今回の商売で大儲けしなくてもいいの?」
「いや、儲かるに越したことはないぞ」
有川さんは即答した。
「そこは別なのね……」
「今のとこ資産はあるけど、この先暴落しないとも限らないしな」
俺は投資はまったく興味ないし分からないから、遺された金だけで一生困らないだけで十分だからな……。
「それで、会社を作るってことだが、事業内容は?」
「まず、これを見てください」
テーブルの上に置かれたのは、コハルの持ってきたダイヤモンドの原石だった。
「ダイヤモンドの原石です。今まで地球上で見つかった最大クラスと同等です」
「これ、あの星じゃ小石だけどね」
「……つまり、宇宙のダイヤモンド?」
有川さん、さすが理解が早い。
「これを合法的に地球で資産化して、コハルさん、つまりユーティ商団の仕入れの原資にしたいんです」
「なるほど。そうなると、これの入手先を説明できるものにする必要があるな」
「それについては、勝利くんが考えてくれました」
え、俺が説明するの?
「ええと……ここしばらく、流星群がすごいじゃないですか。それで、コハルに頼んで隕石を一つ落としてもらおうと思うんです。確か隕石って拾得物扱いになるんですよね」
以前テレビでそんなことを言ってるのを見た気がしたので、そう言ってみた。
「ああ、そうだね」
「だから、俺んちの庭に一つ落として、そこから宇宙由来のダイヤモンド原石のでかいのが見つかったー、って流れにできないかと……」
さあ、どうだ?
「うん、悪くない。悪くないけど、それじゃダメな点がある」
え?
「まず、個人のものを売り払うルートがこの場合ないだろ?」
「だから会社を……」
「うん、なら、その会社はどうやって君からその原石を買い取る?」
「えと……」
「俺の考えを話そう」
はい、聞きます。
「まず、会社の住所をこの家にする。そして勝利くん、君は会社の土地を所有する地主として、社外役員として登録される。投資担当でもいい」
有川さんが指を建てる。
「そして何か一つでいいから会社の実績を作る。ペーパーカンパニーはまずいからね。そうだな。仕入れによる物流業務にしよう。それならコーラ10万本も仕入れの業務の範囲にできる」
「はい」
「その実績を一つ作ったうえで、隕石を落とす。会社の敷地内で発見された隕石なら、会社の資産として扱える可能性はある。ただし、発見経緯と所有権の整理は必要だろうな。そこは専門家に確認しよう」
ふあー!
俺がなんとなく考えていた流れを具体的に整理するとこうなるのか!プロすげえ。
「そういう流れに納得してもらえるのなら、俺が社長を引きうけてもいいよ」
「むしろ納得しかないです。有川さんにお願いしたいです」
俺、そういうの全然分かんないから。
「じゃあ、藤島。おまえはコーラの仕入れルートを確保。俺は会社の定款を作る。ところで、とくにこだわりがなければ、設立が楽な合同会社でいいだろうか?」
「……合同会社?って何ですか?」
「まあ言ってしまえば、少人数で経営できる、良く言うアットホームな職場ってやつだよ」
うわ、ブラック臭漂う言葉だな……。
「社長一人でもいい、従業員がいてももちろんいい。とにかく株式会社と違って、外から余計な力はねじ込まれたりはしにくい会社環境を作れる」
なるほど。
「社長は俺、出資者は勝利くん、藤島は会社との間の政府窓口になってもらえばいい。コハルさんは……事務員ってことでどうだろう」
「いいと思います。僕はもちろん上には話を通す必要はありますが、有川先輩だったら上も認めてくれるでしょうし、何よりやっと動き出せる案件になったことを上も喜ぶと思います。窓口の役目は僕が責任をもって引き受けます」
おお、頼もしい……!
「じゃあまず会社の名前だな……。何か候補はあるか?」
会社の名前……。
「なら、私はコーラ会社がいい」
コハルの言葉に俺は一瞬ポカンとした。
「いやいや待て、コハル。それは既存の会社の名前と被るからダメだ」
「そうなの?」
「ああ。それはあまりよくない」
「ふうん……地球ってめんどくさいのね。宇宙じゃ同じ名前の商団はいっぱいあるのに」
いや、地球規模で考えてくれ。
「なら、スターゲイト合同会社は?」
「え、かわいくない。スターゲイトコーラ合同会社じゃダメ?」
コハル、おまえ、何が何でも「コーラ」って言葉入れたいだけだろ……。
そのあと、幾つか候補が上がったけど、頑として「コーラ」を譲らないコハルに根負けして「スターゲイトコーラ合同会社」に社名は決まった。
会社の設立に関しては、有川さんが全て引き受けてくれたのでお任せすることにした。
さて、いよいよ宇宙との交易の第一歩だ。




