第九話 助手席
## 第九話 助手席
「かなさん、
前乗ります?」
りゅうが後部座席のドアを開けながら聞く。
かなは少し迷った。
「え、でも。」
「ゆうき、
運転しかしないので。」
「言い方。」
ゆうきが苦笑する。
かなは小さく笑って、
助手席へ乗り込んだ。
ドアを閉める。
静かな車内。
柔らかい音楽が、
小さく流れていた。
どこかで聞いたことのある曲。
「シート倒して大丈夫ですよ。」
ゆうきがエンジンをかけながら言う。
「あ、ありがとうございます。」
かなは少しだけ背もたれを動かす。
その時。
ふわっと、
柔らかい匂いがした。
車の芳香剤なのか、
柔軟剤なのかはわからない。
でも、
嫌じゃなかった。
車は静かに走り出す。
コンビニの灯りが、
窓の外を流れていった。
「かなさん、
普段どこ走るんですか?」
後ろから、
りゅうの声がする。
「んー……
南部多いかもです。」
「北部は?」
「たまに。」
「じゃあ今日、
夜コースデビューですね。」
かなは思わず笑った。
「正式名称だったんですね。」
「勝手に言ってるだけです。」
ゆうきが前を向いたまま言う。
街灯の少ない道へ入る。
窓の外。
暗い海が、
静かに広がっていた。
「海、
近いですね。」
かなが呟く。
「この道好きなんです。」
ゆうきが小さく言う。
「夜、
車少ないし。」
かなは窓の外を見つめる。
道路の向こう。
月明かりが、
海に薄く反射していた。
綺麗だった。
その時。
「眠くないですか?」
ゆうきが聞く。
「大丈夫です。」
「ならよかった。」
それだけの会話。
でも、
不思議と心地よかった。
気づけばかなは、
助手席の空気に、
少しずつ慣れ始めていた。




