第三十六話 夜の終わりに
## 第三十六話 夜の終わりに
車は、
いつもの海沿いの駐車場へ入った。
エンジンが止まる。
静かな音楽も消えて、
波の音だけが残った。
かなは窓の外を見る。
夜の海。
遠くの街灯。
初めてここへ来た日のことを、
ふと思い出す。
あの頃は、
まだこんな気持ちになるなんて思ってなかった。
「少し歩く?」
ゆうきが聞く。
かなは小さく頷いた。
車を降りる。
夜風は少し冷たい。
でも、
隣にゆうきがいるだけで、
不思議と安心した。
二人で並んで歩く。
会話は少ない。
でも、
今日はその沈黙が苦じゃなかった。
むしろ。
言葉がなくても、
ちゃんと隣にいてくれる感じがした。
その時。
「かな。」
ゆうきが小さく呼ぶ。
かなは顔を上げる。
「さっき、
言ってくれてありがと。」
かなは少し驚く。
「え。」
「寂しかったって。」
ゆうきは海を見たまま、
少し笑った。
「ちゃんと言ってくれて、
嬉しかった。」
かなは胸の奥が、
じんわり熱くなるのを感じた。
「俺、
かなが何も言わなくなる方が怖い。」
その言葉が、
静かに胸へ落ちてくる。
かなはゆっくり、
ゆうきの隣へ近づいた。
肩が少し触れる。
ゆうきは何も言わない。
でも。
そっと、
かなの手を握った。
強くない。
優しい温度。
かなは夜空を見上げる。
雲の隙間から、
小さく星が見えていた。
たぶん。
こうやって。
少しずつ、
わかっていくんだと思った。
好きな人のことを。




