第三十四話 言えない気持ち
## 第三十四話 言えない気持ち
車は、
いつもの海沿いを走っていた。
窓の外には、
静かな夜の海。
でも。
かなの気持ちは、
いつもみたいに落ち着かなかった。
「飲みます?」
ゆうきがコンビニ袋を差し出す。
かなの好きなカフェラテ。
いつも通り。
優しい。
なのに。
今日は少しだけ、
その優しさが遠く感じた。
「ありがとう。」
かなは小さく受け取る。
ゆうきは何か言いたそうに、
一瞬だけかなを見る。
でも。
結局、
そのまま前を向いた。
静かな音楽だけが流れる。
かなは窓の外を見る。
言えばいいのに。
楽しみにしてたって。
寂しかったって。
でも。
仕事で疲れてるゆうきを見ると、
責めるみたいで言えなかった。
「かな。」
ゆうきが小さく呼ぶ。
「ん?」
「怒ってる?」
かなは少しだけ黙る。
怒ってる。
というより。
寂しかった。
でも。
それをうまく言葉にできない。
「……怒ってないよ。」
かなが笑おうとする。
でも。
自分でもわかるくらい、
少し不自然だった。
赤信号で車が止まる。
静かな沈黙。
その時。
「かな、
無理して笑わないで。」
ゆうきが前を向いたまま言う。
かなは息を止める。
「ちゃんと、
なんで落ち込んでるか聞きたい。」
その言葉が、
胸へ静かに落ちてくる。
かなはカフェラテを握り直した。
少しだけ熱い。
その温度が、
今の自分みたいだった。
「……会えるの、
楽しみにしてたから。」
かなが小さく呟く。
声が少し震える。
「だから、
ちょっとだけ寂しかった。」
ゆうきは何も言わなかった。
ただ。
「そっか。」
小さく、
そう呟いた。




