第三十二話 助手席で眠る夜
## 第三十二話 助手席で眠る夜
「絶対眠いでしょ。」
赤信号で止まりながら、
ゆうきが笑う。
かなは助手席で、
小さく首を横に振った。
「まだ大丈夫。」
「目閉じかけてた。」
「気のせい。」
「いや、
完全に眠そう。」
かなは思わず笑う。
今日は仕事が長かった。
でも。
会いたいと思ってしまったから、
こうして夜コースへ来ている。
「無理しなくていいのに。」
ゆうきが前を向いたまま言う。
かなは窓の外を見る。
夜の海。
静かな道路。
その景色を見ていると、
疲れが少しずつ抜けていく気がした。
「ゆうきといると、
なんか落ち着くから。」
かなが小さく呟く。
ゆうきは少し黙る。
それから。
「それ、
嬉しい。」
かなは少しだけ照れて、
カフェラテを口に運んだ。
車は海沿いの道を走っていく。
音楽は小さい。
会話も少ない。
でも、
その沈黙が心地よかった。
その時。
「かな。」
ゆうきが小さく呼ぶ。
「ん……?」
返事をした瞬間、
自分の声が眠そうで、
かなは少し恥ずかしくなる。
ゆうきが笑った。
「やっぱ眠いじゃん。」
「……ちょっとだけ。」
かなは小さく笑う。
次の瞬間。
頭に、
柔らかい感触が触れた。
「え。」
ゆうきが赤信号の間に、
そっとかなの頭を撫でていた。
かなの胸が一気に熱くなる。
「危ない。」
「止まってるから大丈夫。」
「そういう問題じゃないです。」
かなは顔を隠す。
ゆうきは小さく笑った。
「かな、
最近表情わかりやすい。」
「ゆうきのせい。」
信号が青へ変わる。
車はまた、
静かな夜道を走り始めた。
かなは窓の外を見ながら、
そっと思う。
こんな時間が、
ずっと続けばいいのに。




