第二十八話 言葉の代わりに
## 第二十八話 言葉の代わりに
二人で並んで歩く。
繋がれた手は、
まだ少し熱かった。
かなは海を見る。
暗い波。
遠くの灯り。
夜の空気。
全部が、
静かに流れていく。
でも。
胸の奥だけが、
落ち着かなかった。
「寒くない?」
ゆうきが小さく聞く。
かなは少し笑う。
「さっきよりは。」
「ならよかった。」
繋いだ手は、
離れないまま。
その時。
ゆうきが立ち止まる。
かなも足を止めた。
波の音が近い。
風が吹く。
ゆうきは少しだけ迷うように、
かなを見る。
「……かな。」
呼ばれる。
かなは小さく顔を上げた。
「俺、
たぶん。」
そこで、
ゆうきが少し笑う。
「いや、
たぶんじゃないな。」
かなの心臓が、
またうるさくなる。
夜なのに。
ゆうきの表情だけは、
はっきり見える気がした。
「好き。」
静かな声だった。
でも。
波の音より、
風の音より。
その言葉だけが、
まっすぐ胸へ落ちてくる。
かなは何も言えなくなる。
嬉しい。
でも、
少しだけ怖い。
恋って、
始まった瞬間から、
失うのも怖くなるから。
その時。
「返事、
今じゃなくてもいいから。」
ゆうきが少し困ったように笑う。
かなはその顔を見て、
思わず笑ってしまった。
「……ずるい。」
「なにが。」
「そういうとこ。」
かなは繋いだ手を、
少しだけ握り返す。
それだけで。
今の気持ちは、
ちゃんと伝わる気がした。




