第二十六話 海風の中で
## 第二十六話 海風の中で
車は、
いつもの海沿いの道を走っていた。
窓を少し開けると、
潮風が静かに流れ込んでくる。
かなはカフェラテを片手に、
ぼんやり外を眺めていた。
「今日、
珍しく静かですね。」
ゆうきが前を向いたまま言う。
「そうですか?」
「いつもより。」
かなは少し考える。
たしかに、
今日は少しだけ緊張していた。
二人で会うことにも。
この時間を、
楽しみにしていた自分にも。
「……なんか、
不思議だなって。」
かなが小さく呟く。
「なにが?」
「少し前まで、
知らない人だったのに。」
ゆうきは少しだけ笑った。
「たしかに。」
赤信号で車が止まる。
静かな音楽。
窓の向こう、
夜の海が揺れている。
「でも。」
ゆうきが小さく続ける。
「かなとは、
最初から話しやすかった。」
かなは思わず顔を上げる。
胸が、
少しだけ騒がしい。
「……それ、
ずるい。」
「なんで。」
「急にそういうこと言うから。」
ゆうきは小さく笑った。
かなは窓の外を見る。
暗い海。
遠くの灯り。
全部が、
少しだけ綺麗に見える。
その時。
「少し歩きます?」
ゆうきが海の方を見る。
かなは小さく頷いた。
車を降りる。
夜風が、
静かに吹いていた。
波の音が近い。
二人で並んで歩く。
会話は少ない。
でも、
沈黙が苦じゃなかった。
その時。
かなの手に、
ふっと何かが触れる。
ゆうきの指先だった。
一瞬。
お互い少し驚いて、
視線が合う。
でも。
どちらも、
すぐには離れなかった。




