第二十一話 助手席の温度
## 第二十一話 助手席の温度
帰り道。
車の中は、
行きよりずっと静かだった。
でも、
気まずくはない。
むしろ。
その静けさが、
かなには心地よかった。
助手席で、
かなは窓の外を眺める。
暗い海。
遠くの街灯。
濡れた道路に反射するライト。
全部がゆっくり流れていく。
「眠くないですか?」
ゆうきが小さく聞く。
「少しだけ。」
かなは正直に答えた。
「寝てもいいですよ。」
「でも、
帰り道も好きなんです。」
かながそう言うと、
ゆうきは少しだけ笑った。
「帰り道?」
「なんか……
終わりたくない感じするので。」
言ってから、
かなは少し恥ずかしくなる。
でも。
ゆうきは前を向いたまま、
静かに頷いた。
「わかります。」
赤信号で車が止まる。
静かな音楽だけが、
小さく流れていた。
その時。
「寒くないですか。」
ゆうきがエアコンの温度を少し上げる。
かなはその横顔を見る。
こういう小さい優しさを、
この人は自然にやる。
だから。
一緒にいると落ち着くんだと思った。
「かなさん。」
「はい?」
「また、
疲れたら夜コースしましょう。」
かなは少しだけ笑う。
「それ、
万能すぎません?」
「だいたいなんとかなります。」
「適当。」
二人で小さく笑った。
車はまた、
夜道を走り出す。
かなはふと、
自分が羽織っているパーカーを見る。
まだ、
少しだけ温かかった。
その温度が。
今の気持ちみたいで、
かなは少しだけ胸が苦しくなった。




