第二十話 帰りたくない
## 第二十話 帰りたくない
「ありがとうございます。」
かなはパーカーを羽織りながら、
小さく笑った。
少し大きい。
袖が長くて、
指先が半分隠れる。
「似合ってます。」
ゆうきが何気なく言う。
かなは思わず顔を上げた。
「……それ、
ずるいです。」
「なにがですか。」
「急に言うの。」
ゆうきは少しだけ笑った。
その横顔を見て、
かなは視線を逸らす。
夜風が静かに吹いていた。
波の音だけが、
遠くで聞こえている。
「かなさんって、
昔から夜好きなんですか?」
ゆうきが海を見たまま聞く。
かなは少し考える。
「んー……
一人の時間が好きなのかも。」
「わかります。」
ゆうきは小さく頷いた。
「昼って、
ちょっと疲れるじゃないですか。」
かなは思わず笑った。
「それ、
めちゃくちゃわかります。」
「夜くらい、
静かでいたい。」
その言葉が、
かなの胸へ静かに落ちてくる。
たぶん。
似ているんだと思った。
考え方とか。
落ち着くものとか。
全部ではないけど、
少しずつ。
その時。
ゆうきのスマホが小さく震える。
画面を見たゆうきが苦笑した。
「りゅうです。」
「なんて?」
「『ちゃんと帰せよ』って。」
かなは思わず吹き出した。
「監視されてる。」
「たぶん。」
二人で笑う。
その空気が、
かなには妙に心地よかった。
時計を見る。
もう、
かなり遅い時間。
帰らないと。
頭ではわかっている。
でも。
「……帰りたくないですね。」
かなが小さく呟く。
言った瞬間、
少しだけ後悔する。
でも。
ゆうきは驚かなかった。
ただ、
静かに笑った。
「俺もです。」
波の音だけが、
静かな夜に響いていた。




