第二話 帰り道
## 第二話 帰り道
「……ねえ。」
車のドアが閉まる音と一緒に、
美咲がかなを見た。
「さっきから静かじゃない?」
「そう?」
「そう。」
かなはシートベルトを締めながら、
窓の外を見る。
暗い海。
遠くに見える小さな灯り。
さっきの黒い車は、
まだ駐車場に停まっていた。
「気になる人でもいた?」
「いないって。」
「絶対見てたじゃん。」
「見てない。」
「いや、見てた。」
美咲が笑う。
かなは小さくため息をついた。
「別に、
ただ楽しそうだなって思っただけ。」
「ふーん。」
エンジンがかかる。
車はゆっくりと駐車場を出た。
海沿いの道は静かだった。
窓を少し開けると、
湿った夜風が流れ込んでくる。
ラジオから、
聞いたことのない曲が小さく流れていた。
「でも、
星綺麗だったね。」
かなが呟く。
「ね。
来てよかった。」
赤信号で車が止まる。
かなはぼんやりと窓の外を見た。
その時。
隣に、
黒い車が並ぶ。
思わず視線が向く。
助手席の男――さっきスマホを構えていた方が、
なにか話しながら笑っていた。
運転席。
黒いパーカーの男。
ゆうき。
名前、
呼ばれてたな。
かなはふとそんなことを思う。
すると。
まるでタイミングを合わせたみたいに、
相手がこちらを見る。
また、
目が合った。
今度は、
さっきより少し長い。
数秒。
それだけなのに、
妙に心臓がうるさい。
「え。」
美咲が小さく声を漏らす。
信号が青に変わる。
黒い車は、
ゆっくりと前へ走り出した。
かなはなんとなく、
その車を目で追ってしまう。
テールランプが、
夜の道に赤く滲んでいた。
「……かなさん?」
「なに。」
「今の、
完全に恋の始まりみたいだったけど。」
「やめて。」
かなは思わず笑う。
「ただ目合っただけ。」
「少女漫画って、
だいたいそこから始まる。」
「始まらないって。」
でも。
助手席の窓に映る自分の顔は、
少しだけ笑っていた。




