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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
終幕
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独白③

 一人、殺す毎に、地蔵の前掛けを取りに行って首に掛けました。

 何でしょう? 理由なんて特にありません。彼らの非を鳴らしたかった。死してなお、辱めたかった。よく分かりません。今、考えると、何かに取り憑かれていたとしか思えません。

 さて、水谷の殺害です。あの夜、あいつ、なかなか部屋に戻らなかったので、食堂でうとうとしているところを後ろから近づいて絞め殺しました。

 島に殺人鬼がうろついているから部屋から出ない方が良いと残りの住人に思わせる為に、部屋から見える丸池に遺体を放り込んでおきました。

 水谷を殺したのは私です。希に水谷の遺体を丸池まで運んで放り込むなんて不可能です。警察もそのくらい分かっているでしょう。

 目的の三人を殺してしまうと、正直、後はもうどうでも良かった。希と二人で黄鶴楼を離れ、事前に仕掛けてあった爆薬で黄鶴楼を爆破しました。

 墓標代わりに建てた塔でしたが、あんな目立つ塔より瓦礫の山の方が墓標に相応しいような気がしました。だから、残りの住人たちと共に黄鶴楼を葬り去りました。

 計算違いだったのは、柴崎が脱出したことでした。彼が生き残るとは思ってもいませんでした。幸い、警察は彼の話を信じなかった。あの場所を孤島だと信じ込ませておいたことが役立ちました。

 丁度、長谷川君、ああ、長谷川真理子の夫、長谷川大嗣君です。彼が奥さんを殺した人間を血眼になって探し回っていることを知っていましたから、彼に奥さんを殺した犯人が柴崎だと吹き込んでおきました。

 案の定、長谷川君は柴崎を探し出して口を塞いでくれました。

 その長谷川君も真実を知ってしまった。彼は今、私の車を運転しています。運転手の溝口君は無事らしいので安心しています。

 希が自首をしたと聞かされ、私は自己嫌悪に苛まれました。彼女を犠牲にして、また逃げ出そうとしている。二十年前、私が逃げ出してしまったばかりに、息子の健太と親子の名乗りを上げることが出来なかった。

 今度は逃げちゃあ、いけない。ちゃんと分かっていました。身辺整理が終わったら、警察に自首して出るつもりでした。

 それがこうして自首することも出来なくなりました。

 希に罪を押し付けては死ねない。だから、長谷川君に頼んで、こうして電話を掛けさせてもらっています。長谷川君だって、事実を知りたいはずです。全てを白状することが出来て、これで思い残すことはありません。

 健太のもとに行けるのが楽しみだ。あの世で親子の名乗りを上げることにします。

 長谷川君が痺れを切らしているようです。これくらいにしておきましょう。最後にもう一度、言わせて下さい。全ては私が計画し、実行したことです。希は関係ない。彼女は巻き込まれただけなのです。

 牧野君。悪いが、この録音を警察に持って行ってくれ。この前、うちに来た刑事さんたちなら、悪いようにしないはずだ。牧野君も、今回の件には関係ありません。全て、私が一人でやりました。

 牧野君。色々、迷惑をかけたね。会社のこと、後はよろしく頼んだよ。じゃあな。


 長い録音が終わった。

 取調室は重い空気に包まれていた。それを見守る阿佐部もやるせない思いでいっぱいだった。何だろう。悲しみ、人の業の深さ、犯罪に対する怒り、様々な感情が阿佐部の心を揺さぶっていた。

「その録音、証拠として提出いただけますか」

 やっと竹村が口を開いた。

「はい」と答えた牧野がポケットからハンカチを取り出して眼鏡を外し、目元を拭った。凡そ感情に左右させるような人間には見えないが、泣いていたようだ。

「長谷川大嗣というのは長谷川真理子の夫なのですね」

「はい。ろくに働きもせずに、昼間からパチンコ屋に通い、妻の稼ぎで生きているような最低の男でした。ああいう欲塗れの人間を操るのは簡単でした。柴崎をひき殺してくれたところまでは計画通りだったのですが、その後、事件が大々的に報道されると、長谷川真理子以外に犠牲者が大勢いることが分かり、流石に彼も騙されていたことに気がついたようです。まさか自暴自棄になって、会長を道連れに自殺を図るなんて思いもしませんでした。全ては私の判断ミスです」

「ほう~牧野さん。あなた、事件に関与していたことを認めるのですね? 成田会長は一人で罪を背負おうとしたようですけど」

「会長が亡くなった以上、逃げも隠れも致しません。福永昌弘から身分を買い取り、彼に成りすまして計画の実行をサポートしました。黄鶴楼の建設を手配したり、ニューウィン号の一時係留許可申請を行ったり、あいつらを黄鶴楼へ呼び寄せる手配をしました。どいつもこいつも欲塗れの人間ですから、金で簡単に操ることができました。会長は私の名前を出さないように、随分、気を使って話をされていましたが、実際には私のサポート無しに計画を実行することは難しかったでしょう」牧野が胸を張る。

 冷徹に見えて忠誠心に溢れた熱い人間であるのかもしれない。

「事件当時、会社にいたという成田会長のアリバイは偽証だった訳ですね?」

「出勤記録は私が偽造しました。朝晩、会長の社員証をカードリーダーに通しておくだけです。大学時代の講義の代返みたいなものですね。ニューウィン号には無線設備があって船内にはテレビ会議システムを持った部屋があります。会長はそこから会議に出てもらいました。皆、会社にいると思っていたようです。うちの社員は偽証した訳ではありませんので、その点、ご了解ください」

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