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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
終幕
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独白①

 事件の幕切れは呆気ないものだった。

 成田孝臣が死んだ。それも、事故死だった。

――嘘だろう!

 “成田孝臣死す”の知らせを受けた阿佐部は思わずそう叫んだ。

 成田孝臣は運転手付きの社有車で自宅と会社を往復していた。帰宅途中、運転手がスピードを出し過ぎ、カーブを曲がり切れずにガードレールに激突、車体は大破し、運転手と後部座席に乗っていた成田孝臣が死亡している。即死だった。

 阿佐部たちが成田孝臣と会ってから、僅か二日目の出来事だった。

 交通事故とあって事件は一課の管轄外だった。竹村は交通部の捜査結果を待つしかなかった。やがて、成田の事故に不審な点が浮かび上がってきた。

 そして、牧野が出頭してきた。

「牧野が出頭してきたのですか⁉ 今更、一体、何故? あいつ、前に出頭した時には何もしゃべらなかったくせに」武部に呼ばれた竹村が疑問をぶつけた。

「それをお前さんたちに聞き出してもらいたい。事件について、やつは何か知っている。頼むぞ」

「分かりました!」

 竹村と吉田、そして阿佐部は取調室に向かった。

 取調室には牧野が背広姿で背筋を伸ばして腰かけ、竹村たちを待っていた。

「牧野さん。またお会いしましたね」そう言いながら、竹村は牧野の対面にどかりと腰を降ろした。吉田が背後に控える。マジックミラー越しに阿佐部が見守った。

「刑事さん。お久しぶりです」牧野がにこやかに答える。相変わらず、眼鏡の奥の眼が爬虫類を思わせる冷たさを感じさせた。

「今日は自らご出頭して来られたとか。一体、何の用事でしょうか?」

「刑事さん。嫌味を言いたくなる気持ちも分かりますが、今日は聞いてもらいたいものがあって参りました。亡くなった会長のご意志です」

「成田会長の? 事故と関係がある話ですか?」

「先日、会長に会いにいらっしゃいましたよね。あの後、会長がおっしゃっていました」

「・・・」

「そろそろ潮時だと」

「潮時ですか?」

「八重洲インテグレイティッド・シティが起動に乗るまではとお止めしていたのは私です」

「八重洲インテグレイティッド・シティ?」

「東京駅前にマンション、デパートは勿論、病院、学校、それに役所の一部機能を集めたビルをつくろうというプロジェクトです」

「へえ~」と感心することしか出来ない。

「希さんの拘留を黙っていたこと、随分、叱られました。会長は決して、逃げ隠れするつもりはありませんでした。まあ、これを聞いて下さい」と言って牧野は胸ポケットから携帯電話を取り出した。「事故のあった日の夜、成田会長から電話がありました。今から言うことを録音しておいてくれとおっしゃられて、こうして録音しておきました。今日はそれを聞いて頂きたいのです。会長の遺言でもあります」

「成田会長の遺言ですか。聞かせてもらいましょうか」

 牧野が再生を始めた。


 私は成田孝臣です。ナリタ・エンタープライズという会社で会長を勤めています。あまり時間がないようですので、なるべく要領よく話しましょう。

 愛媛県の宇和島であった事件は全て私が仕組んだものです。黄鶴楼という屋敷を建て、柴崎亜由美、水谷信二、長谷川真理子の三人を殺害し、その後建物を爆破、残りの住人たちを殺害しようとしました。

 井藤希はそこにいただけで、実際に彼らを殺害したのは私です。彼女は無実なのです。

 井藤希が頑なに証言を拒んでいるようですが、井藤健太は血を分けた実の息子でした。不倫の代償として親子の名乗りを上げることができないまま、健太はあの世に旅立ってしまいました。

 健太が自殺した後、希に頼んで健太の部屋を見せてもらいました。血は争えなかったようで、健太は大学で建築学を専攻しており、将来は一級建築士になることが夢だったのです。そのことを知った時、私は後悔で胸が張り裂けそうでした。冷血漢だと言われている私でさえ涙が止まりませんでした。

 健太の部屋に黄鶴楼の写真が飾ってありました。黄鶴楼のデザインが気に入っていたようで、雑誌にあった黄鶴楼の写真を切り抜いて部屋に飾っていたのです。健太の几帳面な性格を表すかのように綺麗に雑誌から切り抜いて台紙に張って、まるで絵葉書のようでした。

「母さん、何時か黄鶴楼を見に中国に連れて行ってあげるよ」健太は希にそう言ったことがあるそうです。それを聞いた時、私は健太のために、健太の墓として、黄鶴楼に模した屋敷を作ろうと思ったのです。

 もともとバブル期に、うちのリゾート計画のひとつとして、あの場所が候補地のひとつになったことがありました。その時はバブルの崩壊と共に計画は立ち消えになりましたが、東口という男の休眠会社をダミーにして、その計画を復活させることを思い付いたのです。

 健太の墓標の建設が始まると、私の心の中で悪魔が囁き始めました。あいつらを生かしておいて良いのかと。彼らを生贄に捧げてしまえと。

 どうしても彼らが許せなかった。彼らさえいなければ、健太は今でも生きていたはずだから。そう、柴崎亜由美、水谷信二、長谷川真理子の三人です。

 柴崎亜由美には役者の卵にIT会社の社長を演じて接近させ、結婚詐欺に引っ掛かったふりをして黄鶴楼に誘き出すことに成功しました。夫の柴崎が同行したことは想定外でしたが、彼も亜由美の共犯者であり、無辜の民とは言えません。

 死出の旅路に同行したいと言うのであれば断る理由はありませんでした。

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