表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海賊島の墓標  作者: 西季幽司
第四幕「歪んだ正義」
PR
43/49

鉄槌②

 渡辺が知っているのはそれだけだった。後は希を直接、問い詰めるしかない。

 だが、井藤希は成田孝臣との関係については勿論、健太の父親が誰であるかについても口を閉ざしたままだった。

 三人を殺害したことについては認めていた。

「健太を騙した柴崎亜由美、自殺に追い込んだ水谷信二、そして、逃げ道を塞いでしまった長谷川真理子、この三人がどうしても許せなかった」そう、井藤希は証言した。

「どうやって三人もの人間を殺害したのですか?」

 竹村が尋ねる。三人の人間、しかも一人は男だ。華奢に見える希が三人もの人間を殺害したなど信じられなかった。

「人材派遣会社のスタッフだと偽って、長谷川真理子さんと共に黄鶴楼に向かいました。黄鶴楼に着くと部屋で彼女を絞殺し、彼女に成りすましました」

「えっ! 最初に殺されたのが長谷川だったのですか⁉」

「そうです。柴崎さんたちが黄鶴楼に到着する前です。私たちが最初に屋敷に着き、翌日、水谷さんと日野さんが屋敷に来ました。柴崎さんたちが屋敷に着いたのは、その翌々日になります。部屋で彼女を絞め殺し、入れ替わりました。屋敷の人は皆、彼女と面識がありませんから、入れ替わってもバレる心配はありませんでした。それでも、念のために眼鏡とマスクで顔が分からないように変装していました」

 確か柴崎がそう証言していた。長谷川真理子は何時も大きなマスクをしていて顔が分からなかったと。柴崎の供述に出て来た長谷川真理子は井藤希がなりすましたものだったのだ。

「長谷川真理子の遺体は部屋に放置したままだったのですね?」

「はい。私は隣の空き部屋を使っていました」

 ハウスキーパーとして黄鶴楼の中を自由に動き回ることが出来たからだ。そのことを希に尋ねると、「そうです。長谷川さんを殺した後、柴崎さんたちが黄鶴楼にやって来ました。隙を見て柴崎亜由美さん、水谷信二さんを殺害するつもりでした。彼らが寝静まった後に、合鍵を使って部屋に忍び込み、殺害するつもりでした」と答えた。

 ところが、予定が変わった。黄鶴楼に着いて直ぐ、外に出た柴崎亜由美が一人で戻って来た。塔に登って行く後ろ姿を、偶然、見かけたのだ。後を追うと、柴崎亜由美は展望スペースに行き、手すりから身を乗り出して、屋根の上に落ちていた何かを拾おうとしていた。

「絶好のチャンスだと思いました。背後から忍び寄り、背中をとんと、押すだけで転落してしまう。そう思いました。実際、背後から近づいて、彼女の背中をちょっと押しただけで、あっ! と悲鳴を上げながら、彼女は落ちて行きました」

「柴崎亜由美を突き落としたことを認めるのですね」

「はい。彼女を突き落とした後、屋根の上を見ると、丸いナットのようなものが落ちていました。彼女、それを拾おうとしていたみたいです。指輪か何かだと勘違いしたのでしょうかね。目が悪かったのですね」

「欲に目が眩んだのでしょう」

「欲に目がくらむとナットが指輪に見えてしまうのですね」と言って、希は「ふふ」と笑った。

「長谷川真理子、柴崎亜由美を殺した方法は分かりました。後は水谷信二です。女性のあなたが、どうやって水谷を絞め殺すことが出来たのですか?」

「それは・・・」と希が口を濁す。そして、「最初の計画通り、彼が寝静まるのを待って合鍵を使って部屋に侵入し、絞め殺しました」と吐き捨てるかのように早口で言った。

「違うだろう!」隣の部屋でマジックミラー越しに見ていた阿佐部が声を荒げた。

「それは変ですね」竹村にもちゃんと分かっている。阿佐部の声が聞こえた訳ではないだろうが直ぐに反応した。「柴崎の証言によれば、水谷が殺害された夜、村田、いや鈴木と言った方が良いでしょう。鈴木がマスターキイを他人に持たせておきたくないとゴネて、空き部屋の金庫にマスターキイを保管したはずです。あなたが使っていたマスターキイも一緒に金庫に仕舞われた。違いますか?」

「ふふ」と希が笑う。「皆さん、何故、部屋の鍵がひとつだけだったと思い込んでいらっしゃるのかしら?ひとつの部屋をお二人で使用することもあります。部屋の鍵がひとつ以上あって不思議ではないでしょう。鍵さえあれば部屋に忍び込むことができます」

「部屋の鍵がもうひとつあったということですか?」

「そうです。各部屋、ふたつずつ鍵があって、スペアキイは事務室にあるキイボックスに保管されていました」

「そんなこと水谷は言っていませんでした」

「スペアキイのことは誰にも言わないでおいてくれと、水谷さんに頼まれました。そして彼、私にこう言ったのです。切り札は最後の最後まで取っておくものだと」

 どうやら自分の首を絞める切り札となったようだ。

「なるほど。鍵のことは分かりましたが、あなた一人で、一体、どうやって水谷の遺体を丸池まで運んだのですか? 水谷はがっしりとした体形だったと聞きました。女性のあなたに大の男の体を運ぶなど無理なような気がします」

「あら、こう見えて結構、力持ちなのですよ」と希がうそぶく。

「ドアロックは? 部屋にドアロックは掛かっていなかったのですか?」

「ドアロックは掛かっていませんでした」

「そもそも、遺体をわざわざ丸池に運ぶ必要なんてなかったのではありませんか?何故、苦労をして遺体を丸池まで運んだのですか?」

「それは・・・外に出ると危険だと警告する為です」

「住人の恐怖心をあおり、部屋に籠城させるつもりだったと。住人は逃げ場のない孤島だと思い込んでいた。殺人鬼がうろついているとなると部屋に籠城する方が安全です。しかし、生き残ったやつらを屋敷に閉じ込めておいて何をするつもりだったのですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ