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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
第四幕「歪んだ正義」
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不妄語戒③

 そんな男だ。天罰が下る。

 ほどなく、水谷は居酒屋を手放し、無一文になることになる。「騙された! だから、うますぎる話だと思ったんだ‼」水谷は真っ赤な顔でそう言った。

 浅原も詳しいことは知らないと言う。絶対に儲かるという投資話があって、手持ちの金は勿論、居酒屋も抵当に入れて大博打を打ったらしい。それが全て裏目に出たというのだ。

 それもこれも、水谷の強欲のなせる業だ。水谷は一夜にして文無しになってしまった。

 結婚はしていない。女がいたらしいが、金の切れ目が縁の切れ目で、全てを失うと水谷を捨てて出て行ってしまったようだ。

 実家は九州の何処かだそうで、もう何十年も音信不通だという。天涯孤独、行方不明になっても誰も探さなかった訳だ。

 浅原ともそこで縁が切れた。

 こうして金に困った水谷は、黄鶴楼のマネージャーの仕事についたのだ。若い頃、ホテルで働いていたことがあるそうで接客は得意だった。

「先輩、水谷信二の素性が判明しましたが、何か、ちょっと、今までと違うような気がしますね」浅原から話を聞き終わり、居酒屋を出た吉田が言った。

「違う?何がだ?」

「今までのやつらは、窃盗犯や、人を殺していたりして、それこそ“ディス・イズ・犯罪者”ってやつらだったでしょう。水谷は悪いやつですけど犯罪者って言うには小物過ぎる気がします」

「何が“ディス・イズ・犯罪者”だ。英語を使えば、賢く見えるとでも思っているのか? 俺のように本物の知性を磨け! 井藤健太の件では小物に見えたかもしれんが、陰でもっと悪いことをしていたかもしれない」

「本物の知性って・・・水谷みたいに。先輩の口から知性なんていう言葉が出るなんて驚きですが、まあ、おっしゃる通りかもしれません」

「一言多いけど、人間、素直さは大事だ」

「さて、これからどうします? 水谷の過去を洗ってみますか?」

「そうだな・・・どうします? 阿佐部さん」

 二人の漫才のような会話に聞き入っていた阿佐部は突然、話を振られ「ええ、ああ、そうですね。井藤健太の母親に会ってみましょうか」としどろもどろに答えた。

 近藤から羅刹女の話を聞かされてから、ずっと考えていたことだ。この事件の背後には女性の陰がある。その前提に立って事件を見直してみると、まだ話を聞いていない女性がいることに気がついた。

「井藤健太の母親ですか?」

「亜由美、長谷川、水谷の三人が標的だった。そんな話をしましたよね。井藤健太という若者を通して亜由美と水谷が繋がった訳です。水谷は井藤の母親から金を騙し取っていた。井藤健太を追って行けば長谷川に繋がるかもしれません。そうなれば自ずと犯人が絞られて来るのではないでしょうか?」

「なるほど」と竹村は頷くと、吉田に向かって「いいか、これが本物の知性ってやつだ。よく覚えておけ」と言った。

「嫌だな。また水谷と同じことを言っている」吉田が顔をしかめる。

「あんなやつと一緒にするな。人間、謙虚にならなきゃ。がはは」竹村が豪快に笑った。

 井藤健太の母、希に会いに行った。

 ごくありふれた二階建てのアパートの一室に井藤希は住んでいた。一人息子の健太を失ってからも同じアパートに住み続けていた。昼間は近所のスーパーでパートの仕事をしているということで夕方の勤務が明ける頃にアパートを訪ねて来てくれと言われた。

 井藤希は四十代のはずだが、三十代と言っても通る若々しさだった。それに、安アパートが不似合いに見えるほどの美人だ。くたびれた中年主婦を想像していた三人は、ドアを開けてくれた女性が井藤希だと一瞬、気がつかなかった。

 薄いグレーのジャケットにスカート、白のブラウスとフォーマルないでたちだ。スタイルも良い。見た感じ、丸の内でバリバリ働いているOLのように見える。

「井藤希さんですか?」と尋ねると、「はい」と頷いた。

「刑事さんですか。どうぞ――」と部屋に通された。

 部屋の中は小奇麗に片付いていた。あまりに片付き過ぎていて、どこかもの悲しさを感じさせた。母子家庭だ。食卓は二人掛けのテーブルしかない。「すいません。狭い家で」と恐縮する希に「お気遣いなく」と椅子に座らせると、対面に竹村が腰かけ、阿佐部と吉田は隣に立った。

「井藤健太さんの事故について、お話を聞かせて頂けませんか?」と竹村が言うと、希はにっこりほほ笑んで「分かりました。参りましょうか」と言う。

 そう言われるのも、牧野に続いて二度目だ。

「参る? どこに行くのですか?」

 試しに聞いてみると、「刑事さん。どこに行くも何も、警察に決まっています」と答える。

「いえ、話を聞くだけですから、署までご同行頂かなくても結構です」

「あら、私を摑まえに来たのではないのですか? てっきり、そうだと思って、今日、パートを辞めて来ました。お世話になった方々にも挨拶を済ませて参りました」

「いえ、あの、ただお話を――」と言いかける竹村に、希は晴れ晴れとした表情で驚きの事実を伝えた。

「刑事さん。私、ずっと、お待ちしていましたの。何時、刑事さんが尋ねて来るかと思って毎日、ドキドキしていました。もう何年も、こんなに心が騒いだことなんて、ありませんでした。案外、時間がかかりましたね。でも、もう良いのです。待つのに、ちょっとくたびれてしまいました。

 さあ、参りましょう。私が、あの三人を殺したのです。刑事さん。柴崎亜由美、長谷川真理子、水谷信二、あの三人を殺したのは、私です」そう言うと、希は竹村の返事を待たずに立ち上がった。

 羅刹女、非常に美しい容貌を持つ女神。井藤望が羅刹女だったのだろうか?

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