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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
第四幕「歪んだ正義」
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不邪婬戒②

 管理人に鍵を開けてもらって部屋に入った。

 最近は部屋を片付けられない女性が増えたと言うことだが、部屋の中は殺風景なくらい片付いていた。

 部屋中、隈なく調べたが、亜由美が付き合っていたという青年実業家に関するものは何も見つからなかった。

 と言うか、生活をしていた痕跡はあるのだが、家族や恋人と一緒に撮った写真や葉書、手紙、学生時代の卒業アルバムと言った人間関係が分かるものが、まるで見つからないのだ。

 人間関係が希薄な女性であったようだ。だが、それにしても異様だった。故意に、人間関係が分かる物を置いていなかったのではないかと思われた。

 家具が少ないことも妙だった。

 家で調理をしなかったのか、台所には鍋や包丁と言った調理用具が全くと言って良いほど見当たらなかった。炊飯器は勿論、今時、必須とも言える電子レンジすら置いてないのだ。

 部屋を捜索していた阿佐部が「何時でも逃げ出せる用意をしていたのかもしれませんね」と独り言を言った。

「流石は阿佐部さん。その可能性大じゃないですか。犯罪の匂いがしますね」と竹村が言うと、「先輩は鼻が利きますからね」と吉田が嬉しそうに言った。

「鼻だけじゃなく、腕も利くのだ」

「聞かないのは人の話くらいですものね」

「上手いこと言うねえ~その才能を捜査に生かしてもらいたいものだ」

「痛いところ突きますね」

 相変わらずだ。見ていて飽きない。

 手掛かりとなりそうなものが見つかった。リビングのテーブルの上にあったメモだ。電話で話をしながらメモを取る癖があったようだ。メモには手持無沙汰で書いた図形のような殴り書きが多かった。「明日」や「渋谷」と言った文字が読めた。名前と思しききものや、数字を羅列したものがあった。電話番号かもしれない。


 竹村と吉田は手分けして、亜由美が働いていた職場を回ることにした。亜由美の過去を洗い出すのだ。

「阿佐部さんは吉田と組んで回って下さい」と竹村が言う。

 土地勘の無い阿佐部だ。「すいません。戦力になれないばかりか、足手まといになってしまって」と恐縮すると、「なあに。吉田のこと、見張っていて下さい」と竹村が笑う。

「至らないところがあれば、何でも言って下さい。色々、勉強させて下さい」と吉田も腰が低かった。気の良い若者たちだ。

 阿佐部と吉田は化粧品売り場から職歴を遡って行き、竹村は反対に亜由美の過去から順に調べることにした。

「俺は電車で動く」と竹村が地下鉄駅に向かったので、阿佐部は吉田の運転で次の職場に向かうことになった。

 次の職場は不動産屋だった。化粧品売り場の前に働いていた職場になる。不動産屋の事務員として働いており、化粧品売り場とは打って変わって地味な仕事だ。ここでも内村亜由美の名前で働いていた。

「内村さんねえ~」と若禿でひょろひょろと細長い、不動産屋に見えない社長は暫く考えた後で、「綺麗な子でしたね。うちに居たのは一年未満だったと思います。仕事に慣れて来たなと思ったら辞めるでしょう。最近の若い子は・・・結婚すると言うので、仕方ないかなと」と言った。

「結婚ですか⁉」

 ここでも結婚を理由に会社を退社していた。

「それがどうもお相手はうちのお客さんみたいでね。結婚相手を探しに、うちに来たみたいなものです」

 亜由美が結婚していたことを伝えると、社長は「あれ~? じゃあ、聞き間違いかな。まあ、見かけは良かったけど要領の悪い子でね。辞めてもらって、こちらとしては助かりました」と言って笑った。

「もう処分してしまいました」と亜由美に関する書類は何も残っていないと言う。不動産屋を後にした。

 次の職場は全国展開しているレストランだった。不動産会社の前に働いていた職場だ。ここでも一年少々、働いただけで結婚を理由に退職していた。

 いずれの職場でも亜由美は結婚を理由に退職している。結婚相手は不明で、同僚たちに婚約者のことは一切、明かしていなかった。無論、結婚式に招待された同僚など、一人もいなかった。

「結婚詐欺を働いていたんじゃないですかね?」レストランを後にした時、吉田が思わず呟いた。

「その疑いは濃厚ですね。あのマンションは何時でも引き払えるように、わざと荷物を少なくしてあった」

「何時でも夜逃げできる状態だった訳ですね」

 恋多き女で、恋愛を繰り返したとも考えられる。だが、亜由美は戸籍上、十代の若さで柴崎と結婚しているのだ。その後、離婚したという記録はない。亜由美の行動は明らかに変だった。

 レストランの前に勤めていた職場は町工場だった。ここで事務の仕事をしていた。

「内村さん? ああ、あの子。うちで働いていたのは一年くらいかなあ~結婚すると言って辞めたよ」と当時の上司であったという男性から、また同じような台詞を聞かされた。

 だが、今回は収穫があった。「結局、上手く行かなくて破談になったみたいだけどね。あれじゃあまるで結婚詐欺だ、彼が可哀そうって、皆で話していたのよ」と相手の男性を知っている様子だった。

 ようやく被害者らしき男性を探し当てることができた。

 相手は大手企業に勤める加藤というサラリーマンだった。工場近くの支店に勤務しており、会社を尋ねると刑事だと聞いて当惑した様子で会ってくれた。

「僕が何かしましたか?」

 小柄で小太り、冴えない風貌の三十男だ。

「内村亜由美さんについてお聞きしたいことがあります」と吉田が伝えると「ああ、彼女・・・」と眉を寄せた。

 内村亜由美とは一年程前、彼女が町工場で事務の仕事をしている時に知り合ったと言う。町工場は加藤が勤める会社の下請けをしていた。新製品の部品制作の打合せで町工場に行き、そこで事務をしていた亜由美と知り合った。

 一目で気に入ったが、自分のような男は相手にされないだろうと、はなから期待していなかった。それが、ある日、彼女から「食事に連れて行って欲しい」と声をかけられた。

「それまで、女の子と付き合ったことなんてなかったので、びっくりしました。もう、それからは彼女に夢中で――」

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