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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
第三幕「許されざる者たち」
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不偸盗戒③

「お前ね。ああいう脅しみたいなことをしちゃダメだ」と竹村が口を挟む。

「別に脅してなんかいませんよ」

「元亭主が凶悪な事件に関与した疑いがある。奥さんにも罪が及ぶかもしれないって脅したじゃないか」

「そんなこと言っていませんよ。元旦那さんが事件に関与した疑いがあるから助けたい。協力して欲しいって頼んだだけです。ちゃんと聞いてました?」

「そうだっけ」と竹村がうそぶく。

「すいません。話を戻しますね。借金返済の目途がついて、会社の営業再開がもう直ぐできそうだ。長い間、待たせて悪かった。もう直ぐ一緒に暮らすことができる。最近、そう東口から連絡があったそうで、渋る妻の口から東口の現住所を聞き出すことが出来ました」

「東口良治が住んでいるのが浦安だと言うことですね」

「はい。流石、阿佐部さん。感が鋭い。何処かの先輩とはえらい違いだ。東口のアパートを急襲して、締め上げてやりましょう」

 竹村がすかさず応じる。「おっ、いいね~吉田君。やる気満々じゃん!」

「僕は何時だってやる気満々ですよ」

「何時だってやる気満々だなんて、嫌だね。君、いやらしい」

 東口良治は浦安のアパートに人目を忍ぶようにして暮らしていた。

 築十年以上は経っていそうな、ありふれた二階建てのプレハブのアパートだった。

 部屋を尋ねると、「刑事さん?」と東口は迷惑そうに三人を迎えた。いきなり刑事が尋ねて来たことに驚いていない様子だ。心当たりがあるのだろうか。部屋には上げずサンダルを突っ掛けると、「ちょっと近くの公園まで歩きましょうか? 道すがら話を聞きます」と言って、ずんずんと歩き出した。

 小柄で色黒、無精髭を蓄えており、柴崎の証言にあったクルーズ船の船長の人相と酷似していた。

「東口さん、愛媛県の宇和島市近郊に建てた黄鶴楼、ご存じですよね?」竹村が前を歩いて行く東口の背中に声をかけると、振り向きもせずに「知りませんね」と答えた。

「変ですね。あなたが社長を勤めるイーストゲートという会社が、ナリタ・エンタープライズを通して発注して建てた屋敷だってことは分かっているのです」

「ああ、あの会社。あれは私の名義になっているだけで、実質は人に貸している状態です。刑事さんがおっしゃった屋敷の話は初耳です。私の知らないところで、うちの会社の名義を使って勝手にやったことでしょう」

 嘘か真か会社の名義を他人に貸し出していると言う。

「一体、何時、誰に、何のために、会社の名義を貸したのですか?」

「何時?さあ、何時だったかなあ・・・二、三年前じゃないかな。福永さんという方が、突然、尋ねて来てね。会社の名義を貸してもらいたいと言われました。結構な額の手付金を提示されたよ。名義をお貸ししている間は毎月、社長としての給料を頂けるというので、一も二もなく名義をお貸しした。こちらとしては願ったり叶ったりでした。どの道、営業再開の目途が立っていないような、寝かしているだけの会社でしたからね。有難いお話でした」

――福永!

 和田家で聞いた怪しい人物の名前が、ここでも出て来た。

「その福永さんと言う方は、成田実業という会社にお勤めの福永昌弘という人物ではありませんか?」竹村が東口に尋ねる。

 住宅街にある小さな公園へ足を踏み入れた。幼子を連れた母親が、平日の昼日中にもかかわらず公園へとやって来た男たちを不審そうな目でじろじろと見つめていた。東口は公園の隅にあったベンチに腰を降ろした。

 東口の前を塞ぐ形で、三人が並んで立った。

「ああ、そうです。成田実業の福永昌弘さんという方でした。開発大手のナリタ・エンタープライズの子会社、成田実業で企画本部長を勤められているとお聞きしたので直ぐに信用しました」

「成田実業はナリタ・エンタープライズの子会社なのですね?」

「おや、ご存じありませんでしたか? 名刺をいただいた後、調べたので間違いありません。まあ、社名から直ぐに分かりますけどね」

「今でも福永さんと連絡を取り合っているのですか?」

「いえ。名義をお貸した時に会ったきりです。給料は毎月、きちんと銀行に振り込んで頂いているので、会う必要はありません。福永さんが私の会社をどう利用しているのか私は何も知りませんし、知りたくもありません」

 最初にもらった手付金と毎月の給料で、間もなく借金を返済できそうだと東口は嬉しそうに言った。そして、借金を返済し終えれば、福永に会って、会社の名義を取り戻すつもりだと熱っぽく語った。

「ところで、東口さん。あなたはクルーザーをお持ちですよね?」

 ニューウィン号というクルーザーが宇和島港で一時係留許可申請を行っており、クルーザーの所有者が東口になっていた。東口はそのクルーザーで事件の被害者たちを島へ運んだはずだ。

「クルーザー? まさか、私にそんな余裕なんてありませんよ。んっ、待てよ、クルーザー・・・」東口は急に口を噤んだ。

「クルーザーがどうかしましたか?」

「いや、クルーザーなんて高価なものは持っていませんが、福永さんに会社の名義をお貸しした時に、ひとつだけ条件を付けられました」

「条件ですか?」

「一級小型船舶免許を取って欲しいというのです。それで、ボートスクールに通って講習を受講して、学科と実技の試験を受けました。費用は全てあちら持ちで、報酬も弾んでもらいました。こちらとしては時間を持て余していましたから嫌はありませんでした。免許を取ってから、免許は福永さんに預けっぱなしになっています。今の今まですっかり忘れていました」

「船舶免許まで人に貸し与えたのですか!?」竹村の鋭い口調に会話している相手が刑事だと言うことに思い当たったようだ。

「いえいえ、お貸ししたのではなく、預かって頂いているだけです。うん。会社の名義にしてもお貸したのではなく経営コンサルタントとして加わって頂いているだけで、きちんと契約書を取り交わしています」東口はそう弁明すると押し黙ってしまった。

 後は何を聞いても「知りません」、「分かりません」としか答えなくなってしまった。

 結局、「東口さん。福永さんの名刺、お持ちですか? お持ちでしたら、それを貸してもらえませんか」とアパートに戻って名刺を探してもらい、事情聴取を終えた。

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