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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
第三幕「許されざる者たち」
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不飲酒戒③

 そんな強者の一人、平田という男が日野と親しかったというので話を聞いた。

 平田はまだ二十代、高校時代に柔道部に所属していたという。丸坊主の頭に細い目、筋肉質でたっぷりと重量のある体は重機を思わせる。

 それでも、竹村の立派なガタイの前では霞んで見える。「何か、武道をやっていたのですか?」と平田がいきなり聞いてきた。

「野球です。学生時代はずっと野球部でした」と竹村が答えると、「なるほど~」と納得した様子だった。竹村の長身が羨ましい様子だ。早速、日野のことを尋ねる。「日野修さん、ご存じですよね?」

「はい。ここで一緒に武道に励んでいました。僕の方が体格は良いのですが、ちょっとでも油断すると背負い投げを食らっていました。結構な腕前ですよ。暫く顔を見せていませんが、日野さんがどうかしたのですか?」

「最後に会ったのは何時頃ですか?」

「さあ、二、三か月前だったと思います。もっとかな? 四国に働きに行くと言っていました」

「四国? 四国の何処ですか?」

「何処だったかなあ・・・ああ、そうだ。道後温泉のあるところですよ。ついでに温泉に行きたいって話をしましたから」

 黄鶴楼で死んだ日野修で間違いないようだ。

「愛媛県ですね。日野さんが何故、愛媛に行ったのかご存じでしょうか?」

「昔の知り合いから連絡があって、割の良い仕事があるって言っていました。どうしても日野さんに来てもらいたいと、ご指名だったそうです。ちょっと遠いけど、一月、住み込みで働けば百万近くになるって言っていました。

 危ない仕事なんじゃないかって言ったんですけどね。朝昼晩、三食、飯を作るだけの俺にとっちゃ楽勝の仕事だと言っていました。日野さんがどうかしたのですか?」

 愛媛で日野が亡くなったことを伝えると、「ああ、そうですね。刑事さんが日野さんのことを聞きに来たんだから、やっぱり危ない仕事だったんだ。虫の良い話は気を付けた方が良いって言いますもんね」と驚いた様子だった。

「昔の知り合いから紹介されたということですが、誰からの紹介だったか分かりますか?」

「いえ、そこまでは・・・昔、一緒に働いた料理人仲間みたいな言い方でした」

「日野さんは、どういう人でしたか?」

「無口で練習熱心な人でしたよ。人付き合いが苦手なようで、この教室で会えば話をしましたが、外で一緒に食事をしたりしたことはありませんでした」

「誰かとトラブルになっていたようなことはありませんか?」

「さあ、誰かとトラブルになるような、そんな深い人間関係はなかったんじゃないですかね。人嫌いでしたから――」

「他に誰か親しい方はいませんでしたか?」

「さあ、僕以外だったら、後は安さんと親しかったみたいです。でも、多分、僕と一緒で、教室で話をする程度の仲だったと思いますよ」

 安というのは、安井という名の武道教室に通ってきているもう一人の強者のことだ。平田同様、柔道の腕を磨きたくて通ってきているという。生憎、今日は教室に顔を出さない日だった。

「人付き合いを避けていたのですね?」

「一度、食事に誘った時、外で食事をすると酒を飲みたくなるのでダメだ――みたいなことを言って断られました。酒がダメだったんでしょうかね」

 日野の飲酒運転による事故のことを知らないようだ。日野が過去に結婚していて、娘がいるということも初耳だと驚いていた。

「金に困っていた風には見えませんでした。大金を稼いで、別れた奥さんや娘さんに渡すつもりだったんじゃないですかね~」平田がしみじみと呟いた。

 平田からの事情聴取を切り上げ車に戻った。

「運転しましょうか?」と吉田が言うと「俺が運転する。お前の運転だと眠くなるからな」と竹村が言う。

「僕が運転している時は、助手席でいびきをかきながら寝ているくせに。先輩。次、どこに行くんですか?」

 そう言えば近藤もハンドルを握りたがる。

「川崎だ。日野の飲酒運転事故の被害者遺族が住んでいる」

「被害者遺族? 今回の事件に関係しているのでしょうか?」

「考えてみろ。日野はわざわざ人を通して愛媛の片隅にある屋敷に呼び寄せられて殺された。日野に恨みを持つ人間が怪しいことになる」

「先輩。愛媛の片隅って言い方、ちょっと失礼じゃありませんか?」

「ああ、そうだ。すいません、阿佐部さん」

「構いませんよ。実際、愛媛の片隅みたいなところですから」

「とにかく、日野に恨みを持つ人間で、一番、最初に頭に浮かぶのは誰だ?」

「それはもう被害者の遺族でしょう。日野の飲酒運転の犠牲になったのは小学生の子供だったのでしょう。可愛い盛りだったことでしょう。日野のこと、殺しても飽き足らないほど恨んでいたとしても不思議ではありません」

「うん。吉田君。よく出来ました」

「しかし、日野を殺す為に、わざわざ愛媛の片隅に呼び寄せて屋敷を爆破して殺すなんて、スケールがデカ過ぎませんか?」

「おいおい。愛媛の片隅はないだろう」

「竹村さんを真似しただけです」

 賑やかな車内だ。

 事故が起こった時、日野は川崎市に住んでいた。日野の飲酒運転の被害者である和田家は川崎市内の高層マンションにあった。在宅を確認してから和田家を訪ねた。日野の飲酒運転により死亡した小学生を和田慎太郎といい、父親の智が二人を迎えてくれた。

「和田さん。日野が亡くなりました」と竹村が口火を切る。

 和田は「えっ!」と驚いてから、「ああ・・・それで、ここに来たのですか。それで、誰に殺されたのですか?」と悟ったように言った。

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