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海賊島の墓標  作者: 西季幽司
第三幕「許されざる者たち」
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不殺生戒③

 リサは千葉市内で英国籍の友人女性とルーム・シェアをしていた。家に戻って来ないリサを心配した、同居の英国人女性が警察に通報した。通報を受け、千葉県警の捜査員が友人たちから事情を聴取し、鈴木の存在が浮かび上がった。

 知人の証言によれば、一時期、恋愛関係にあった二人だが、リサは鈴木に異常性を感じるようになった。リサの日常に異常なまでに固執し、監視しようとする鈴木に恐怖を感じた。別れ話が持ち上がっていたという。

 鈴木から事情を聴取する為に捜査員が市川市内にあるマンションに向かった。帰宅を待ってマンションを訪問し、事情を聴こうとしたところ鈴木は突如、逃げ出した。

 巧みに捜査員の間をすり抜け、鈴木はマンションから逃走した。

 マンションのベランダにあった洗濯機の中から、リサの遺体が発見されている。リサは全裸で、手足を折りたたんだ状態で浴槽におしこめられていた。そして、浴槽いっぱい、土が被せられていた。

 リサの死因は頸部を圧迫されたことによる窒息死だった。マンションを訪れたリサは別れ話のもつれから、鈴木に絞殺されたものと推測された。

 捜査員は鈴木の跡を追った。幸い、電車や車で逃走した形跡はなく、付近に潜伏している可能性が高かった。夜中になって捜査員の一人が、路地裏でダンボールを被って浮浪者に成りすましていた鈴木を発見した。

――被疑者、発見!

 捜査員は身柄を拘束しようとしたが、鈴木の方が一枚上だった。ダンボールを盾に着ていた上着を捜査員の頭から被せると、あっという間に姿を消した。

 二度に亘る警察の失態は世間の耳目を集めた。警察の捜査に対して、二度も犯人を取り逃がしたことに対して、批判が巻き起った。鈴木は司法の手を巧みに掻い潜り、現在も逃走中だ。

 その後、鈴木は秋葉原に向かったことが分かっている。

 足取り調査から、招知大学医学部附属病院に立ち寄ったことが判明した。鈴木は応急処置室に忍びこみ、そこで人相を変えるため、鼻尖形成と呼ばれる鼻翼を左右から縫い縮める整形手術を自ら行っている。他に頬にあった黒子をカッターナイフで切り落とし、下唇をハサミで切って小さくした。

 柴崎が村田の人相について傷だらけだったと証言している。

 こうして自己整形で顔を変えた鈴木は、警察の追及の眼を逃れ逃走中だった。

 その後、鈴木は四国で目撃されている。事件後、四国に渡り、香川県高松市から徳島県にかけて、お遍路として四国八十八ヶ所の霊場を巡って歩いたことが分かっている。お遍路に紛れて逃走を続けていただけかもしれないが、リサを殺害したことに対する鈴木なりの贖罪の意味があったのかもしれない。

 お遍路で回った先の寺に、自分の手配写真が貼られているのを見て、霊場巡りを諦めたようだ。ここで鈴木の足取りは途切れた。

 その鈴木が黄鶴楼で殺された村田だったと言うのだ。

「愚図愚図するな。現場に行くんだろう。ほら、とっとと行け」と篠原に急き立てられた。

 そのまま非常階段を降りて行く。

「どういうことでしょうね?」と近藤に聞くと、「分からん。遺体が鈴木雅哉のものであったと言うことは、鈴木は村田と偽って、あの屋敷にいたことになる」と答えた。

「鈴木が死んでいたとはびっくりです。村田が鈴木だったことになると、不殺生戒・・・汝、殺すなかれ、でしたね。やつに相応しい前掛けをしていたことになります」

「ああ、そうだ。そうだったな。でもまあ――」と言ってから、近藤はにやりと笑って言った。「あいつら居もしない鈴木を探して走り回っているんだな」

 県警の捜査員は既に死体となった鈴木を探して、走り回っていることになる。

 非常階段を降りて行く。「さて、現場に急ぎましょう」と阿佐部が言うと、「現場に行く前に寄りたいところがある」と近藤が答えた。

「寄りたいところ?」

「宇和島港だ」

「宇和島港ですか?ああ、そうか。ガイシャは宇和島港からクルーズ船に乗って屋敷に向かったことが分かっているので、そこから遡って足取りを追う訳ですね」

「俺が調べたいのはクルーズ船だ」

「クルーズ船?」

「考えてもみろ。島に連れて行くと言って、あいつらを半島の先に運んで行ったんだ。事件と無関係な訳がない。クルーズ船について調べれば、犯人に辿り着くかもしれん」

 近藤の言う通りだ。柴崎たちはクルーズ船に乗って島に行ったと証言している。それに、週に一度の割合で、食糧や生活用品を黄鶴楼に届けていたという。クルーズ船を探し当てれば事件解決の手がかりとなるかもしれない。

「確かに、近藤さんの言う通りですね。課長に一言、報告しておいた方が良いんじゃないですか?」

「まだだ。一通り調べてからだ。途中でいい加減なことを報告すると、また怒鳴られるだけだからな」

 確かに今、あやふやな情報を篠原のもとに持って行ったら逆効果になるかもしれない。

「分かりました。でも、クルーズ船の情報を掴んだら直ぐに課長に報告しましょう」

 この辺のバランスの良さが、阿佐部が篠原から信頼を置かれる所以だ。

 阿佐部は近藤と宇和島港に向かった。

 漁師の間を聞き込んで回ると、「そう言えば見慣れぬクルーザーが港に停泊していた」という証言があった。「ヨットクラブに行ってみれば」と漁師は言う。他港のクルーザーが宇和島港に寄港するためには宇和島ヨットクラブへの許可が必要だった。

 宇和島港にある宇和島ヨットクラブで宇和島港の一時係留許可申請を調べると、直ぐに該当するクルーザーが見つかった。

 ニューウィン号というクルーザーで、所有者は東口良治となっていた。登録住所は東京都品川区になっていた。

「また東京か・・・」

 黄鶴楼の所有者は東京にある会社だった。クルーザーの所有者も東京だし、柴崎も都内から来たと言っていた。

「警視庁に調べてもらう必要がありますね」

 捜査はここで行き詰まった。「さて、どうします?」

「現場に向かうか」

「僕が運転しますよ」

「いい。俺が運転する」

 近藤は何故かハンドルを握りたがる。二人は黄鶴楼のあった場所に向かった。

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